カロリー制限で寿命は延びるのか?
これまで酵母やマウスではカロリー制限で老化を抑制し寿命が延びることが知られていましたが、このほどアメリカの研究でサルでも同様の効果があることが証明され話題となっています。
しかしサルなどの霊長類ではカロリー制限以外にも、規則正しい食事時間や食材の種類なども寿命に影響を及ぼすようで、単純にカロリー制限さえすれば良いとはいえないようです。
過度なカロリー制限は却って体に負担をかけることに
それではヒトではどうでしょうか。
ご存知のように肥満やメタボでは悪性腫瘍や心血管病を発症しやすく、特に高齢者では転倒や認知症のリスクが高まり健康寿命を短縮します。
したがって適正な体重を保ち、余分な内臓脂肪を減らすことが重要です。
カロリー制限はそのための有効な手段の一つです。
しかしエネルギーの消費が多い成長期や日常的に身体を動かす労働者では、十分なカロリーを食事で賄わねばなりません。
さらに高齢者ではカロリーやタンパク質を過度に制限しすぎると、筋肉量が異常に減ってサルコペニアや体力が失われてフレイルといわれる状態に陥って老衰の原因となることがわかってきました。
最近の研究では、高齢者では体重を身長の二乗で割ったBMIの値が正常よりやや高い目の方が、死亡率が低いことが明らかとなっています。
したがってカロリー制限が寿命を延ばすのは、欧米人並みの高度肥満の方か、それほど身体を使わない中高年に対象を限定した方が無難です。
超高齢社会に突入したわが国においては、あまりカロリーやタンパク質などの栄養制限が礼讃されるのは好ましくありません。
カロリー制限で必ずしも寿命が延びるわけではない
一方で適度な運動も寿命を延ばしますので、運動の可能な方ではカロリーやタンパク質、ビタミンなどバランスのとれた栄養を取ることこそが長寿の秘訣といえるでしょう。
そして運動を屋外でやる事によってサルコペニアの予防になるのみならず、ビタミンDの活性化により骨が強くなり骨折による介護予防にもつながります。
最近カロリー制限や低炭水化物ダイエットがブームとなっていますが、それでは身体に非常時のエネルギーの蓄えが欠乏した状態を無理やり作ることになりますので、突然の病気や災害に対する抵抗力は脆弱であることを覚悟しなければなりません。
このように考えてきますと、カロリー制限がヒトの寿命を伸ばすのは、非常に限られた条件下でのみ可能となることがわかります。
(古家 敬三/医学博士)