動物にも存在するストレスについて
私たちの日常の中で「ストレス」という言葉は、会話の中でもごく普通に使われるありふれた言葉となっています。
一方、このストレスが人間にとって大きな病気の要因につながっていることも周知されています。
では、私たちと一緒に暮らす動物たちにとってはこの「ストレス」はどのような影響をもたらしているのでしょうか?
本稿では、動物たちが抱えるストレスについて、考えていきたいと思います。
ストレスとは、生体内のひずみの状態をいいます。
体外から加えられた有害因子(ストレス作因)と、それによって生じた防御反応の両方を指しています。
ストレス作因としては、物理的(寒冷、騒音など)、化学的(薬物、ビタミン不足、酸素欠乏など)、生物的(細菌感染、炎症など)、精神的(環境変化、手術など)などがあげられます。
これらストレスにより、人は不眠やうつ、胃痛や頭痛、さらには胃・十二指腸潰瘍など、心と体に不調を引き起こすことが知られています。
動物のストレスの要因と症状
人と共に生活する動物たちのストレスも、上記に示したストレス作因によるものが多く認められます。
私見ではありますが、日々の診療の中で、動物がストレスと感じるその要因と症状について、次のようなものがあげられます。
①季節(気候)の変動に伴うストレス
季節の変わり目、気圧の変動が激しい時期に下痢・嘔吐などの消化器症状を認めることが多くみられます。
てんかんを持病に持つ場合は、発作が多くみられます。
②生活環境の変化に伴うストレス(引っ越し、結婚、工事などでの騒音など)
落ち着きがなくなり、食欲不振、元気の低下、下痢、嘔吐などが見られます。
③飼い主の変化に伴うストレス
飼い主の精神状態や過保護すぎることにより、動物への感情移入が強く、その結果、動物の行動を抑制したりしてしまうことから、元気の低下、食欲の低下、肥満などが認められます。
④病気に伴うストレス
様々な病気に伴う炎症、その治療に用いる薬剤、手術、入院などがもたらす物理的、化学的、生物的、精神的ストレスから、食欲不振、元気の低下などが認められます。
動物のストレスの対処法
私たち人間が一緒に生活する動物に対して、どのような素晴らしい環境を与えてもストレスは必ず存在するということをしっかりと認識することご大切です。
しかし、そのストレス作因に対して過敏になりすぎることで、それ自体が動物のストレスにつながることも理解しなければいけません。
大切なことは、動物に変化が見られた場合、早めに獣医師に相談し、原因となるストレスに対して、更にはそれに伴う症状に対して適切な対処を行うことです。
また、病気を患った動物を前に、飼い主が精神的に落ち込み、過剰な心配から動物と一緒にふさぎ込んでしまうと、動物が飼い主を逆に心配してしまい、それが負のスパイラルへと繋がる可能性もあります。
私たち人間は、動物に多くの癒しをもらっています。
それが現代人のストレス解消法の一つでもあります。
でもその動物たちがストレスを示したときは、飼い主の「笑顔」がそのストレスを緩和する大きなクスリとなることを知っておいてください。
笑顔は、人のみならず動物たちのストレスも癒す効果があります。
つまり、人と動物がお互いに笑顔で生活できる環境づくりこそが「ストレス」という大きなテーマに対する、最も有効な対処法なのではないでしょうか。
(田村 兼人/獣医師)