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宅配便最大手ヤマト運輸 採算とれない通販会社と取引終了も

JIJICO 2017年5月13日 9時0分

宅配便最大手のヤマト 採算とれない通販会社と取引終了へ

宅配便最大手のヤマト運輸が、採算の取れていない通信販売会社との取引終了を申し入れていることが分かりました。
すでに一部の荷主に対し、契約打ち切りの通告を始めているとのことです。

これに先立ち、ヤマト運輸は別の2つの方針を発表しています。
一つ目は配達時間に関わることで、再配達の締め切り時間を20時から19時に変更すること、12~14時の配達時間帯の指定枠を廃止すること、そして再配達が集中する20~21時の時間帯を19~21時にすることを方針として発表しています。

二つ目は個人向け運賃の値上げに関わることで、宅配便の基本運賃を27年ぶりに最大2割値上げすることや、宅配便より大きい荷物向けのヤマト便の運賃を最大6割値上げすることを発表しました。

ヤマト運輸が値上げなどの方針を決めたワケ

なぜここに来て、ヤマト運輸は一連の施策を矢継ぎ早に打ち出しているのでしょうか。
その背景には、ネット通販で取扱荷物量が急増したため、ついにパンクした過酷な現場状況があります。
そのため、現場で違法な長時間労働が常態化している事態を解決するためには、法人客との取引を一部打ち切ってでも、扱う荷物量を減らす必要があると判断したのです。

ただし、通販荷物の急拡大により、物流現場の労働力不足が年々深刻化している状況は、今に始まった話ではなく、数年前から取り沙汰されていました。
しかし、ついに荷物一個当たり単価の低下が業績に影響を及ぼすようになったことや、未払い残業代が表沙汰になったことで、今回の決断をするに至ったのです。

ヤマト運輸は、今回の値上げにより荷物量の抑制につなげることをもくろみ、2017年度は前年度より8千万個減らし、約17億9千万個にする目標を掲げています。
しかし、今後継続的に取扱荷物量を抑制していく考えはないでしょう。

これからもネットを中心に通販市場は拡大基調が続く一方、労働力の供給量は減少していく中、現在働いている社員の負担を減らすことに加え、将来の人材確保を可能にしていく体制を整えるという意味で、ギリギリのタイミングで一時のスローダウンを決断したと見るべきです。

ヤマト運輸はこれまで、宅急便の生みの親である小倉昌男氏がモットーとした「サービスが先で、利益は後」に従い、顧客に不利益を与えることを悪とするDNAを受け継ぎながら、時間帯指定やクール便などの新サービスを次々と打ち出して成長をしてきました。
しかし、今回の施策は明らかにサービスダウンになります。
それにも関わらず決断をしたところに、今回の事態の深刻さを表しています。

宅急便ビジネスモデルの再構築を行うことが大切

ヤマト運輸は、成長の踊り場を設ける判断をした訳ですが、ここで重要なことは、これまで通りの宅急便ビジネスモデルを強化することに注力するのではなく、新たなビジネスモデルの構築を行うことです。

当初宅急便は、客層を家庭の主婦に絞り込んで家庭から家庭へと荷物を運ぶところに独自性がありましたが、ネット通販市場の急拡大に伴い、いまや個人客は全体の1割程度に過ぎず、残りの9割は企業から個人へのBtoC荷物が占めています。
これは、宅急便のビジネスモデルにおいて、サービスの内容が「他人から送られた荷物を自分が受け取る」から「自分が依頼した荷物を自分で受け取る」に変化したことを意味します。

主要客は主婦だから、サービス内容を明快にするべきと考えて、地域別の均一料金、荷造り不要、原則として翌日配達などを打ち出して来ましたが、ここまで法人顧客が増えると、個人向けの運賃やサービスをベースに価格のディスカウントを行うという発想自体に無理があり、特に法人向けの宅急便ビジネスモデルを再構築する必要性が高いのです。

ただし、外資系物流会社が指摘するように、宅急便に代表される日本の物流サービスの手厚さは他国にはないレベルにあります。
その意味で、ヤマト運輸が築いてきた宅急便のビジネスモデル自体は素晴らしいものです。
ただ、自らがつくり上げたサービスの種類が豊富で質が高く強固なものであったために、こだわりが強過ぎて、外部環境の変化に迅速に対応できなかった面がありました。

これを機に、サービスレベル・物流システム・運賃体系を、たとえばCtoCやBtoCに分けてバリエーションを設ける方向性へ進むことが考えられます。

今回ヤマト運輸が行う値上げや荷物の総量規制は、一社だけの問題ではなく物流業界全体に関係することです。
運賃の下落傾向が止まらないことや、その影響で生まれる低賃金長時間労働が強いられる職場環境を嫌って人手が集まらないことは、宅配便だけに留まらない運送業界全体の問題です。

今回のヤマト運輸の決断は、再配達の削減や運賃の値上げに対して、広く社会全体に対して問題提起を行い、値上げやサービスダウンの受け入れを止むを得ないとする雰囲気を醸成するという点でも意義があったのではないでしょうか。

そもそも日本の物流業界は、諸外国と比較してサービスレベルが高いだけではなく、荷主と物流事業者の関係が独特であるという特徴があります。
宅配便分野の業界シェアは、2014年度実績で、ヤマト運輸45.4%、佐川急便33.5%、日本郵便13.6%で、上位3社合計で92.5%に達しています。
つまり、宅配便業界は典型的な寡占業界と言えます。
通常、50%近いシェアを握るトップ企業はプライシングにおいて主導権を握れるのが普通ですが、個人向け運賃を27年据え置いたうえで値上げに逡巡しているとか、アマゾンとの値決め交渉が難航しているといった状況を見ると、物流業界特有の荷主に対する弱気なメンタリティが現れています。

シェアを盾にして傍若無人に振る舞って欲しいとは言いませんが、ビジネスモデルを再構築するに当たっては、こうしたメンタリティを克服すること抜きには難しいかもしれません。

配送無料は当たり前という利用者の意識を変えていくことも必要に

3月28日に政府の「働き方改革実現会議」が実行計画をまとめ、運送業と建設業にも時間外労働について罰則付きの上限規制が導入されることが決まりました。
これまでトラックドライバーは適用除外で、時間外労働については事実上の”青天井”でしたが、今後さらに労働力不足が深刻になっていく中で、選ばれる業界になるために、法規制により他業界と同じスタート地点に立てる可能性が高まりました。

今回ヤマト運輸が打ち出した荷物の総量規制や運賃の値上げとともに、残業規制は物流業界のこれまでの商慣習の見直しを求める大義名分にもなり得るはずです。
ぜひ物流会社と荷主企業が連携して、最適な物流システムを構築する良い機会にしてもらいたいものです。

また、利用者である私たちにも意識の改革が必要です。
日本には古くから「出前はタダ」という文化があり、これが配送無料という考え方に結びついていますが、供給力があったこれまでは、それがサービスとして成立しましたが、それを競争力として位置づけられない時代がすでに来ていることを理解すべきです。 

(清水 泰志/経営コンサルタント)

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