憲法9条と自衛隊の関係について
我が国の憲法9条1項と2項を維持した上で,自衛隊の根拠規定を追加するとの安倍首相が自民党総裁として提示した憲法改正案について,世論調査の結果,53%の人が賛成しているとの一部報道がありました。
この結果をどのようにみたらよいのでしょうか。
まず,憲法9条1項は,「日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」として戦争放棄を謳い,同条2項は,「前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。」として戦力不保持を謳っています。
しかしながら,我が国には自衛隊が存在します。国家というものは,他国からの違法な侵略に対し,自国を守るため,緊急の必要がある場合,それを反撃するための武力を行使し得る権利(自衛権)を有しており,我が国の自衛隊は「自衛のために必要最小限度の実力」に該当するとの政府解釈を前提に,これまで自衛隊の存在が認められてきましたし,これまでこれを前提とする法令も制定されてきました。
首相案では憲法9条2項との整合性が問題に
憲法9条2項が戦力不保持を謳っているため,自衛隊の存在を違憲とする見解もないではないですが,合憲として容認する以上は同項の文言をうまく解釈して切り抜けるほかないものの,その解釈論そのものが難解であるため,自衛隊そのものを憲法上で明文化して認めれば違憲論を排除できるということが,今回の安倍首相の提案であろうと推測されます。
憲法を変えるわけではなく,合憲論が浸透している自衛隊について憲法に明記するだけだとすると,一般の国民にとっても,感覚的に賛成票を投じ易くなるように思われるところです。
しかしながら,憲法9条2項を維持したまま別途自衛隊について規定することが,問題の解決に繋がるでしょうか。
もともと憲法9条2項をうまく解釈しなければ自衛隊の存在と整合性が取れないというのであれば,いくら自衛隊を憲法の別のところに明記したとしても,憲法9条2項との整合性が問題となることは目に見えています。
むしろ,憲法9条2項を分かり易く改正しなければ問題の解決にはならないのではないでしょうか。
冒頭で述べた世論調査において賛成の回答をした人が,どこまで憲法9条と自衛隊の論点を把握した上で回答したのかは知る由もありませんので,世論調査での数字を額面通りに受け取ることはできないと考えるべきでしょう。
(田沢 剛/弁護士)