心と体には密接な関係がある
古くから「心身相関」と言って、人の心と体には密接な関係があることは知られていました。
これは幸福や安心・満足・達成感などのプラスの感情を感じると、体には肯定的な生体反応が起こり、逆に不安や怒り・不満などのマイナス感情を感じると、否定的な生体反応が起こるというものです
「笑い」が体に良い影響を及ぼすことが多数の研究で判明
近年、医学や生理学・免疫学などの発達に伴って、この心と体の関係は以前にも増して科学的に証明され始め、その中でも「笑い」という感情表現が我々の体に良い影響を及ぼすという研究が多数行われ注目を集めています。
例えば、20名ほどの糖尿病患者に食事をとってもらった後、初日は退屈な講義を聞いてもらい、二日目は漫才を鑑賞してもらって食後血糖値を測ったところ、漫才を聞いて大笑いした後の方が初日の講義を聞いた後に比べて、血糖値の上昇は60%ほどに抑えられていたそうです。
また同じようにして、がん細胞や体内に侵入したウィルスなどを抑制する免疫細胞「NK(ナチュラルキラー)細胞」を測ったところ、漫才を聞いた後は、もともとNK細胞の働きが高い人は低くなり、低めの人は高くなって適正な状態になっていたとのことです。
今年の4月には大阪国際がんセンターが、笑いががん患者の免疫機能や生活の質(QOL)に与える影響を医学的に検証することを発表しており研究成果が期待されています。
私どものカウンセリングルームを訪れるクライエントの中には、心因性疼痛(体の機能に異常が見られないのに痛みが起こる)でお悩みの方がおられますが、こういった方も普段は朝から寝るまで痛みが続くのに、自分が好きな趣味に没頭している時や、何でも話せる古くからの友人と昔話で盛り上がり大笑いをしている時などは痛みを忘れていると話されることがあります。
笑うことはなぜ体に良いのか
これらのように、笑うことには我々の体に良い影響があることは広く知られるところですが、そもそも人はなぜ笑うのでしょうか。
「笑い」は人の感情表現の一つです。
面白い・楽しい・嬉しい、といった感情を感じると自然に起こるものですが、この笑いが起こる理由を哲学者のショーペンハウアーは、その人が持つ「概念」と「現実」の不一致(ズレ)が起こりその表現として笑いが起こると言っています。
例えばTVの番組でアナウンサーがニュースを読んでいる時、誰でもわかるような漢字を間違えて、とんでもない読み方をしてしまった時には思わず笑ってしまうでしょう。
これは、アナウンサーはニュースを正確に伝える専門家で、漢字を間違えることはありえないという「概念」と読み間違えたという「現実」にズレが起こったためです。
また、普段無口であまり感情表現をしない彼氏から、誕生日にいきなり花束をプレゼントされたら、女性は思わず笑顔になるでしょう。
これも女性が彼氏に対して持っている「概念」と目の前の「現実」にズレが起こった結果です。
このようにして「笑い」は起こるのですが、「現実」は不変でも「概念」は経験と共に変化します。
初めてアナウンサーの失敗を見た時にはとても面白く感じても、何度か同じ場面に遭遇するたびに、「アナウンサーも人間だから間違うことはある」という学習が行われ、ズレが小さくなるのです。
前出の彼氏も誕生日のたびに同じことをしていたら、そのズレは普通のことになってしまうでしょう(もちろん嬉しいことには違いないでしょうが)。
笑顔を絶やさず身も心も健康に過ごしましょう
当たり前のことですが、経験は年齢と共に多くなります。
若い女性を「箸が転んでもおかしい年頃」と表現しますが、それは経験が少ないがために「現実」とのズレを感じる機会が多くなるからでしょう。
逆に年齢を重ねるたびにズレが少なくなり「笑い」は少なくなりそうです。
しかし周りを見渡すと、私と同年代でもいつも明るく笑顔の絶えない方が大勢おられます。
そういった方々を見てみると一様に好奇心旺盛で、行動力があり、経験したことのない「現実」に触れることを恐れない人が多い様に感じます。
日々の暮らしの中で仕事が忙しく休日は家で身体を休めるだけといった毎日を送る方も多いと思いますが、日々が大変だからこそ休日には新しい「現実」に触れる機会をもうけて、「笑い」を絶やさないことで心も体も健康に過ごすことを考えてみてはどうでしょうか。
(西尾 浩良/心理カウンセラー)