退位特例法が参院本会議で可決,成立
本年6月9日に,「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」(以下「退位特例法」といいます)が参院本会議で可決,成立しました。
この特例法により,生前の譲位がなされた場合,約200年ぶりの譲位となると言われています。
そこで,今回は退位特例法によって何が変わったのかを説明しようと思います。
なお,文中の表記は原則として法律の表記に従います。
退位特例法の内容
天皇の皇位は憲法2条により「世襲のもの」とされ,皇位の継承は皇室典範の定めるところによる,と定められています。
皇室典範では,皇位は皇統に属する男系の男子が,皇室典範の定める順序に従って継承とするとされるほか,4条において皇位継承の条件として「天皇が崩じたとき」とされており,規定上生前譲位の定めはありません。
今回の退位特例法は,今上天皇に限り皇室典範4条の規定を適用せず,退位特例法の定めに従って皇位を継承する,というものです。
具体的には,天皇は退位特例法の施行の日限りで退位し,皇嗣が直ちに即位する(退位特例法2条)とし,退位した天皇を上皇と呼称する(同法3条)こと等を規定するのが退位特例法の内容となります。
退位特例法の施行日は公布の日から起算して3年を超えない範囲内とされており,報道では,政府は2018年(平成30年)12月の施行を想定しているともされています。
退位特例法は一代限りの適用
退位特例法は,制定過程でいろいろと議論がなされましたが,最終的には今上天皇のみに適用される特別法とされ,その後の譲位については皇室典範が定める原則に戻ることになります。
もっとも,退位特例法の制定にあたっては,衆参両院の委員会で「政府は,安定的な皇位継承を確保するための諸問題,女性宮家の創設等について,皇族方のご年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み,本法施行後速やかに,皇族方のご事情を踏まえ,全体として整合性が取れるよう検討を行い,その結果を,速やかに国会に報告すること」との付帯決議が採択されています。
退位特例法は今上天皇の年齢や意思を踏まえて制定されたことが法律上も明記されており,一代限りの法律にすぎないのですが,今後は今回なされた議論も踏まえて皇室典範の改正も含めた検討がなされるものと思われます。
憲法第1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基く」と定められています。今後議論されるであろう皇室典範の改正を含めた安定的な皇位継承を確保するための諸問題の解決や女性宮家の創設等についても,憲法の定めに従い国民が考えていくべきことだろうと思います。
(半田 望/弁護士)