野党要求の臨時国会が開かれていない事態
6月22日に野党が憲法53条後段に基づいて、臨時国会(臨時会)の召集を要求したところ、要求から10日(7月1日)を過ぎても召集決定はなされていません。
臨時国会が開かれないのは、報道等を見ると、加計学園の問題や稲田朋美防衛大臣の公選法違反の発言などの追及が政権の維持や東京都議選に自民党に不利(実際、大敗に終わりました)だからということだと思います。
もちろん、政権・与党に不都合だから臨時国会を開かなくて良いということにはなりません。
臨時国会の召集要件
わが国の憲法53条後段では、いずれかの議院つまり衆議院か参議院のどちらかの議院の総議員の4分の1以上(現在の議員定数からですと、衆議院119人以上、参議院61人以上)の要求で、内閣は臨時会の召集を決定しなければならないとされています。
国会の少数派である総議員の4分の1に臨時会の召集要求を憲法が認めているのは、国会が、行政権(内閣)をチェックしその濫用を抑止する重要な役割等があるからです。そのように権力相互のチェックができないようであれば、まともな民主国家とはいえないでしょう。
内閣の義務としての臨時国会の召集
国会の召集自体は、天皇の国事行為(憲法7条2号)です。天皇の国事行為は、内閣の助言と承認によります(同条)ので、実質的な決定権と責任は内閣にあります。
そして、国会の召集は、集会期日を定めた召集詔書が公布されることになります(国会法1条1項)から、内閣は集会期日を定めて召集を決定しなければなりません。
憲法53条後段は、臨時会の召集決定の時期について明示していません。しかし、これは、内閣が召集決定をいつまでも遅らせて良いということではありません。内閣がその都合で国会の召集を遅らせると、召集を決定する義務に実質的に違反することになるからです。
また、内閣に召集を要求することになっているのは、内閣に召集するかどうかの実質的な判断権限があるからではありません。召集が天皇の国事行為とされているので要求の宛先を内閣としているに過ぎないと考えられます。
したがって、召集を要求された内閣は、国会の開会日の調整を直ちに行って、できるだけ早く、合理的に許容される期間内に集会期日を定めて召集の決定をしなければならないというべきです。
この決定を内閣が作為的に遅らせるのは、国権の最高機関(憲法41条)の国会の権威を著しく傷つけ、憲法尊重擁護義務(憲法99条)に反する対応です。いわば、わが国に対する反逆行為でしょう。
いつまでに召集されるべきか
では、召集決定までどの程度の時間的猶予が合理的に許容されるのかを考えてみます。
もちろん、全国の選挙区に議員が戻っているでしょうから、臨時会の召集要求された当日や翌日に開会しなければならないとまではいえないでしょう。
しかし、たとえば衆議院の解散総選挙が行われた際には、選挙の日から30日以内に国会(特別会)を召集しなければならないとされています(憲法54条1項)。新たに議員が決まった場合でも、遅くても選挙から30日以内に国会が開かれなければならないとされているのです。
また、衆議院議員の任期満了の場合や参議院議員の通常選挙の場合は、常会(憲法52条)や特別会が召集されない限り、任期が始まる日(公職選挙法256条、257条)から30日以内に臨時会が召集されることになっています(国会法2条の3)。
これらの場合に比べると、新たな議員が選ばれたことによる事務等の手間も掛からない状況の臨時会の召集要求の場合であれば、開会まで30日も猶予を与える必要は通常はないでしょう。
国会の具体的な手続等については国会法という法律で定められています。
その国会法では、要求のあった場合の臨時会は早急に開会されることを予定しています。
年1回の通常国会(常会、憲法52条)の場合の召集詔書は国会開会の少なくとも10日前には公布しなければならないとされている(国会法1条2項)のに対して、臨時会の場合は、この詔書の公布は10日前によることを要しないとされています(同条3項)。つまり、召集詔書の公布から10日以内でも臨時会の開会がされることがありうるということです。
参考として地方公共団体の議会について見ると、臨時会の要求があった場合は、20日以内に招集されるものとされています(地方自治法101条4項)。
また、自民党の改憲草案でさえ、臨時会は召集の要求があった日から20日以内に召集されなければならないとしています。
これらの規定等を見ると、召集要求を受けた内閣は、本来は、要求から10日以内に臨時会を開会する内容で召集を決定すべきです。直ちに召集あるいは決定できない合理的な理由があったとしても、要求から20日以内、どんなに遅くても30日以内には国会を開けるように召集を決定しなければ不合理でしょう。もし、要求から30日を経ても臨時会を召集決定しようとしないのであれば、内閣は憲法に反し、責務を放棄して、臨時会を召集する決定を怠ったというべきでしょう。
今回の場合ですと、要求のあった6月22日から(国会法133条)20日目は7月11日、30日目は7月21日です。安倍内閣は、7月11日までに開会できるように直ちに召集決定をすべきです。
(林 朋寛/弁護士)