子どもたちに求められる学力が大きく様変わり
現在の「大学入試センター試験」に代わり、2020年度から、「大学入学共通テスト(仮称)」が導入され、大学入試の形が大きく変わることについては、ほとんどの方がご存じだと思います。また同じ年度から、小学校の新学習指導要領も全面実施され、これからの子どもたちが求められる「学力」は、大きく様変わりしていくこととなります。
その際のキーワードの一つとして、「思考力・判断力・表現力」が挙げられます。これは現行の指導要領でもうたわれている概念ですが、今後はこの力が、より積極的に求められることとなるようです。またさらに「学びに向かう力、人間性等」が、柱の一つとされています。
大学入学共通テスト「モデル問題例」
では、なぜこうした学力が求められるのか、先ごろ公表された「大学入学共通テスト」のモデル問題例(国語)に基づいて、お話しします。
「モデル問題例1」は、架空の「城見市」が作成した「城見市『街並み保存地区』景観保護ガイドラインのあらまし」を読み取り、それに関する「父」と「姉」(主体である『かおるさん』の父と姉)の会話文を読んで、4問の記述をする、という内容です。うち問4は、父と姉の会話を聞いて、「かおるさん」が姉の意見に賛成・補足したと考えられる内容を述べよ、という設問です。
このような問題を解くのに必要な学力とは?
さて、こうした問題に挑むために必要な「力」とは、何でしょう。「ガイドライン」と会話文の中から、必要な材料を見つけ出し、類推し取捨選択した上で、記述をしなければなりません。必要な材料を正確に見出すためには読解力、その段階と類推・選択の過程で「思考力」と「判断力」、そして記述のために「表現力」が、求められます。
この問題に向かう時、従来の「問題集」を解くように、「正解を見つける訓練」、文章の「要約をする練習」だけでは、おそらく難しいものがあるでしょう。常日頃から、問題意識をもって物事をとらえ、それについて自ら思考し、表現をすることが必要なのです。
思考力・判断力・表現力を養う方法
ではどうすれば、「思考力」・「判断力」・「表現力」を身につけ、主体的に学ぶ力を養っていけるかということが、重要です。そのために学校や塾・予備校、各種の教育現場で、さまざまな試みが試行、実践されています。私は国語教育の専門家ですから、その立場から申し上げますと、やはり答えは「国語にある」という一語に尽きます。
具体的には、さまざまな文章を読み、「正解を探す」のではなく、「自分の考えを練り、文章として書き上げる」ことが、こうした力を養う有効な方法であると言えます。また、「モデル問題例」のようなサンプルが出てくると、よく「文学的文章は必要ない」という声が上がります。しかし先ほども述べたように、解答として書くべきは、「かおるさんが言ったであろう内容」という、直接には書かれていないことがらです。
「かおるさん」は、自分が考えたこと、すなわち最初は「思ったこと」を、類推・選択し、練り上げまとめた上で、「表現した」はずです。ここで大切なのは、対象が何であれ、人はまず「心」で物事をとらえた上で、「頭」で考えていく、というプロセスを経ることです。
ですから、文学的文章であるか否かは、ことの本質に関係ありません。むしろ文学的文章で「心を動かす」学習を重ね、思考、判断、そして表現のプロセスを経験することが、必要な力を養い、伸ばすことにつながります。幅広く良い文章を読み、考え、そして書くことで、「思考力」・「判断力」・「表現力」ははぐくまれ、伸びていくのです。
(小田原 漂情/塾教師、歌人・小説家)