残業代ゼロ法案とは?
「残業代ゼロ法案」という言葉が、テレビやネットを賑わせています。この言葉が最初に登場したのは、2015年4月ですから、すでに2年以上が経過したことになります。「残業代ゼロ」という言葉だけ聞くと、「いくら残業しても、残業代がもらえなくなるのか!!」と早合点してしまう人も多いのですが、言葉の響きから考えると、当然かもしれません。そこで、まずは、法案の中身を再確認しておこうと思います。
「残業代ゼロ」とは、給料を仕事の「量」でななくて「質」で決めようということです。つまり、「仕事をした時間」でななくて「仕事でどんな成果を出したか」で決めるのです。例えば、スーパーの特売チラシの原稿を作る仕事だったら、「10時間で原稿を1枚作ったから、10時間に対して○○円」ではなくて、「原稿1枚に対して○○円(何時間かかっても同じ)という決め方です。
残業代ゼロ法案のメリットとデメリット
では、この法案にはどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか。メリットとしては、残業代を稼ぐためのダラダラ残業はなくなります。遅くまで残って仕事をしても、給料が変わらないのであれば、さっさと仕事を終わらせて帰ろうとする人が増えるはずです。デメリットとして考えられるのは、仕事を早く終わらせたいがために、仕事が雑になったり、手抜きになったりしてしまうことです。
高度プロフェッショナルな仕事の定義
そもそもこの法案は、当初は、年収1,000万円以上の労働者が対象とされていました。しかし、その後、ほとんど審議らしい審議はされずに、今年7月に「残業代ゼロ法案」政府案修正の方針が出されました。今回の修正には、専門職で年収の高い人を労働時間の規制からはずす「高度プロフェッショナル制度」が盛り込まれています。つまり、「高度プロフェッショナル」な仕事をしている人たちは、残業代支払いの対象から外れることになります。
では、一体どんな仕事が「高度プロフェッショナル」に該当するのでしょうか。
例えば、がんの新薬開発に取り組んでいる人は、一般的に「高度プロフェッショナル」と言うことができるでしょう。
専門学校の専任講師はどうでしょうか。講師には、実際に授業をする時間以外に、授業の準備をする時間が必要になります。準備にかける時間は人それぞれです。少しでも、いい講義をしようと時間をかけて入念に準備をする人もいれば、効率よく時間をかけずに終わらせる人もいます。学校の経営を考えると、労働時間の規制からはずしてしまったほうがいいのでしょうが、全ての専門学校の講師が「高度プロフェッショナル」に該当するかどうかは大きな疑問です。
労働基準法ができた時代は、日本人の多くが労働集約産業で働いていました。しかし、今は、労働時間の規制がなじまない仕事が、数限りなく存在します。法律による規制も必要ですが、基本は経営者が、労働者の仕事と生活のバランスを考えて、労務管理を行っていくことが重要だと考えます。
(小倉 越子/社会保険労務士)