食べ方のマナーを子どもに教えるにはどうすればいいか?
幼児期のマナー教育は子どもの将来を大きく左右します。特に食事の場では顕著に表れるでしょう。しかしその場限りの注意ではなく、根本的にマナーを教えたくてもどう教えたらいいのか?思い悩む親が多いのが現状ではないでしょうか。
ではどうする?
40年近くにわたり、和食・洋食のテーブルマナー講座や食育講座を通じ感じたことを交えながら、解決策を練ってみたいと思います。
子は親の背中を見て育つ
日本には「子は親の背中を見て育つ」「子は親の鏡」などの諺がありますが、ヨーロッパでは「ひな鳥は親鳥のとおりにさえずる」と言われます。
子どもは自分の一番身近にいる大人の行動や考えを、自分の中に取り組む傾向にあるということです。だから子どもの身近にいる親や祖父母や教師たちが、子どもに良き手本を示せばいいわけですが、残念ながら模範になれるモデル像は食事のマナーに限らず、いろいろな面において期待薄だと思います。挨拶、態度、表情、身だしなみ、言葉遣い、食べ方などなど…。
子どもは大人の真似が得意です。とりわけ悪いものほどすぐに子どもに伝播します。荒れる子の背景には、生活が乱れた大人の存在がある気がしてなりません。まずは大人が主体的な変容を遂げて頂きたいものです。
つまり、マナーの意味や意義を正しく理解し、家庭でも地域でも職場でも学校でも素敵なマナーを発揮して、子どもの良き生き方モデルになり、魅力的な大人、魅力的な親や教師になっていただきたいものです。
子どもにマナーをしつける親の心構え
食事、排せつ、身だしなみ、整理整頓などの生活習慣にかかわるマナーは、入学前までに家庭で身につけていることが期待されます。そして生活習慣のマナーは大人の模倣から習得するものです。
例えば食事をする際に、手を洗い、姿勢を正し、「いただきます」の挨拶とともに楽しく食べることも、すべて身近な大人の真似からスタートします。この生活習慣に関する躾が家庭で正しく行われなかったら、子どもは自分のやりたいことだけを行い、学校や公共の場での決まり事も守れなくなるでしょう。
特に家庭での躾は最近緩くなりがちですが、親と教師がタッグを組んで、「いけないことはいけない」と凛とした態度で臨むことが大切だと痛感します。
さらに「守れなかったらどうする?」かも明確にして、約束事や決まり事についてはコミュニケーションを密にして合意しておくことも大切でしょう。大袈裟かもしれませんが、民主的な学校運営ひいては国家を形成していく上で大事なことだと考えます。
子どもに身につけさせたい食卓でのマナー
学生相手にテーブルマナーの話をする機会が多々ありますが、食べ物の話をしていると、学生の社会性のありようが見て取れて興味深いものがあります。
日本は世界屈指の「飽食の国」「美食の国」と言われ久しいですが、食べ物の大切さをきちんとわきまえていない子どもが非常に多いことに驚きます。だから食べ方にも支障がでます。
世界普遍の言葉に「you are what you eat」があります。
「どんな食材をどれだけ食べたか?」という意味と「誰とどのような雰囲気で食べたか?」という二つの意味があります。いずれも世界屈指の長寿社会をよりよく生きるためにとても大切なことですが、現在の日本はいずれもよろしくないように思います。だから孤食、欠食、個食、固食、粉食、濃食などの「コケッココ(にわとり症候群)」に陥っています。
加えて、適切な状況判断や自分の行動が周囲に及ぼす影響を理解する力が薄れてきています。自分の「食事の在り方」が、周囲の人に不快な思いを与えるか否かの判断は日常生活にも大切なことです。
好き嫌いなく、感謝の気持ちを添えて、美味しく楽しく食べることの大切さを学校でも家庭でも最優先して教えて頂きたいものです。まずは家庭の台所をきれいにして、家族が団らんできる場を作り、「心通わす食卓づくり」に精を出してください。
また国際化が進展する中、和食も洋食も気軽にとれるようになりましたが、和食と洋食では、考え方もマナーも大きく異なります。状況別に教えるマナーが多いことも頭に入れてください。
ところで食事は一年で1095回あります。
長い目で子どもの成長に応じ少しずつ、何度も何度も繰り返し教えてください。
食前の手洗いや「いただきます」「ご馳走様」の食前食後の感謝の言葉などは習慣化するといいでしょう。さらに、食べ物には真摯な態度で臨むことを幼い時から教えてください。人間形成に大きな効果が出るでしょう。適量を口に入れ、よく噛んで食べることも、箸を正しく持つことも大切ですが、箸を正しく持てない大人が過半数を超えている現状が気になるところです。
子どもに身につけさせたいレストランでのマナー
最近の親は子どもに、「いけないことをいけない」と言わなさ過ぎる傾向にあるようです。昔の躾は「NO」が多かったが、今はそれが薄れてきたということです。飲食店において、店内を走り回る、大きな声で話をするなど、節度をわきまえない子どもの行動には凛とした態度で臨むべきでしょう。
レストランは不特定多数の人が楽しく食事をする場所で、利用する人は「マナーを守らなければいけない」と諭すことも必要です。子どもが駄々をこねても、気軽に応じない心構えも大事です。そして躾には優しさも必要ですが、同時に厳しさも大切です。優しすぎても、厳しすぎてもよくないので、バランスを大切にして下さい。
さらに料理を作ってくれる人やサービスをしてくれる人に感謝することをしっかり伝えてください。決して難しいことではありません。
メニュを見て自分の好みのものを選び、それを正しくオーダーする練習も大事です。さらに料理が運ばれてきたら「ありがとうございます」、帰るときには「ごちそうさまでした」などと言える練習もお勧めです。サービスを提供する側と受ける側には上下関係はなく、対等であるということも教えてください。
こうしていろいろな経験を年とともに重ね、ファミリーレストランから次第にランクを上げ、社交性を身につければ、社会に出る時や出てから大輪の花を咲かせることができるでしょう。レストランは最高のマナー教育の場です。
終わりに
家庭の食卓において、子どもが幼い時からテーブルマナーの意味や意義を理解して、社会性やコミュニケーション能力を身につけ、それらを現実に発揮する場として保護者とともに、やや緊張の伴う飲食店を利用することは大賛成です。
繰り返しになりますが、子どもにとって、このような場所での一番の先生は親です。親の意見が食い違わないようにしっかり話し合ってください。緊張とともに、楽しみながらマナーを教えることができれば最高です。
(平松 幹夫/マナー講師)