認知症を治す食事はないが、「予防する食事」は存在する
食事は人間が生きていく上で欠かせませんが、バランスのよい食事をすることは、生活習慣病の予防に役立ちます。そして近年の研究で、生活習慣病を予防することは認知症の発症予防にも効果があると考えられています。
今のところ、認知症を「治す」食事というものはありません。しかし、認知症の進行を遅くしたり、予防する食事は存在することが明らかになっています。
認知症の危険因子となる疾患と食生活の関係
認知症の危険因子となっている多くの疾患は食生活と深い関係があると考えられています。例えば、認知症の一つである脳血管性認知症は脳血管障害が原因で、高血圧や糖尿病、脂質異常症などが危険因子として挙げられており、これらの病気を予防する食事を心がけることが大切です。
また、アルツハイマー病の危険因子の中に高血圧や糖尿病、肥満などが考えられており、塩分を控え、糖質や脂質の過剰摂取に気をつけたバランスのよい食生活がアルツハイマー病の予防にも繫がります。
特に食塩については、1日6g未満の制限が推奨されていますが、日本では醤油や味噌などの発酵食品を摂取する機会が多いため、他国と比べてどうしても塩分を摂り過ぎる傾向にあります。平成24年度の国民健康・栄養調査の結果でも、1日平均10.4ℊ(男性11.3ℊ、女性9.6ℊ)となっており、まだまだ多いのが現状です。
認知症予防のためにできる食事の工夫
普段から濃い味に慣れている方は、急に薄味にしても慣れるまでに時間がかかると思います。そんな時は、スパイスなどの香辛料や香りのよいハーブや香味野菜、ゴマや柑橘類、だし汁を濃い目にするなど、味にメリハリをつけ、減塩食を美味しく食べる工夫も必要です。
また、認知症は脳内の血流が悪くなると、認知症の脳血管疾患のリスクが高まるため、脳の血流をよくする秋刀魚、イワシ、サバなどの青魚を積極的に摂取することが望ましいと言われています。
青魚の不飽和脂肪酸は血栓や動脈硬化を予防するだけでなく、コレステロールや中性脂肪を下げる働きもあり、DHAやEPAは降圧作用も認められているので、高血圧の予防にも適した食材です。有意な降圧には、1日3g以上のn-3系脂肪酸の摂取を必要とされていますが、真いわし100gには3g程度、秋刀魚100ℊには4g程度のn-3系脂肪酸が含まれています。
そしてDHAは情報伝達をスムーズにする働きがあり、脳にDHAが多くなるとシナプスの膜の柔軟性が高まり、情報の送受信機能が高まるため、脳の老化を予防すると言われています。DHAやEPAは魚の骨や皮部分に多く含まれているので、骨まで柔らかく加工されたサバの水煮缶詰などを上手に利用するとよいでしょう。
また、青魚だけでなく、鮭などに含まれるアスタキサンチンという成分は抗酸化作用が強力で、ビタミンEの500倍とも言われています。アスタキサンチンは、脳内の活性酸素を除去し、脳の炎症を抑え、認知症予防や記憶能力向上に有効だということが様々な研究で明らかになっています。
魚以外にも最近では、トマトや白カビチーズ、ウコン(ターメリック)、オリーブオイル、ココナッツオイル、茄子、赤ワイン、納豆、コーヒー、アブラナ科の野菜など認知症予防に効果が期待されている食材があります。
ただし、これらの食材だけを集中的に摂取するのではなく、ビタミン、ミネラルなどトータルで栄養バランスのよい食事を心がけ、認知症予防によいとされている食材を上手に利用することが大切です。
認知症予防で大切なこと
おさらいになりますが、認知症を予防するためには、まず「生活習慣病」を予防することが不可欠です。普段の食事、食生活が重要になります。そして食事改善と同時に、適度な有酸素運動を週に3回程度行うとより効果的であることも明らかになっています。
また、咀嚼をしっかりと行うことが脳の働きを活性化するため、食事中は「よく噛むこと」を意識しましょう。
そしてもうひとつ、人とのコミュニケーションも脳を活性化させると言われているので、楽しく会話をしながらぜひ毎日の食事を楽しみましょう。
(小針 衣里加/料理研究家)