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がん免疫療法を正しく知ろう

JIJICO 2017年9月23日 7時30分

がん免疫療法とは?

我々の体には外敵の侵入から自己を守るために、生後間もない頃から免疫機能が備わっています。その免疫の働きによって、ヒトは自らの正常細胞と、様々な病原体やそれに感染した異常細胞を区別して、後者のみを攻撃して排除しているのです。

一方がん細胞は自己の細胞が何らかの遺伝子異常を起こし増殖し続けるもので、その多くは免疫による監視機構から免れる能力を有しています。したがって元々がんに対する免疫療法は、効果を上げることが非常に難しい治療法でした。

これまで長年にわたり多くの研究者が、特定の物質によって免疫反応を活性化したり(免疫賦活療法)、がん細胞表面の免疫応答を誘発する部位を探し出してワクチンとして投与したり(がんワクチン療法)、生体外で患者のリンパ球をがん細胞とサイトカインと呼ばれる免疫細胞を活性化する物質とともに培養して、生体内に戻したり(活性化リンパ球移入療法)、様々な方法を開発してきましたが、いずれも効果は限定的で、過剰な免疫反応による重い副作用が報告され、その有効性と安全性の問題からとてもがんの標準治療にはなり得ないものでした。

ところが一昨年彗星の如く登場したオプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は、これまでのがん免疫療法の常識を大きく覆しました。これらの薬はがん細胞が大量に作る免疫応答を抑制する蛋白と結合して、その働きを阻害することによってがん細胞に対する免疫力を回復させ、抗悪性腫瘍効果を発揮します。そのため、正常な細胞にはほとんど有害な免疫反応を起こさないことが特徴です。

当初オプジーボは日本人では比較的少ない皮膚がんの一種である悪性黒色腫のみに保険が通りましたが、その後肺がん、腎がん、胃がんなどにも適用が広がっています。その後続々と同種の薬剤が出てきており、今や免疫療法は手術、抗がん剤、放射線治療に次ぐ第4のがん治療法の地位を確立しつつあります。

がん免疫療法の新たな課題

しかし新たな課題も見えてきました。一つはこれらの薬剤が非常に高額であり、対象患者の増大に伴い公的医療保険の財政を著しく圧迫する可能性が出てきたことです。

また、これらの薬剤には、よく効く患者と全く効かない患者がいることや、一部の患者で自己の細胞に免疫反応を引き起こして甲状腺機能低下症や糖尿病などの副作用を発生すると報告されていることがあります。

さらに深刻な社会問題として、科学的に有効性や安全性が証明されていない「偽のがん免疫療法」が保険外診療としてインターネットなどで宣伝され、法外な治療費を取って公然と行われていることがあげられます。これらの問題に対する早急な対策が、がん免疫療法のさらなる発展にとって必要不可欠でしょう。

がんを患っている方の「少しでも希望があるのなら何でも試したい」というお気持ちは理解したうえで、間違った情報に踊らされることなく、まずは信頼できる医師に相談していただけたらと思います。

(古家 敬三/医学博士)

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