衆議院議員が解散、「大義がない」の批判をかわせず
先月28日、臨時国会の冒頭で衆議院が解散しました。
森友・加計学園問題で内閣支持率が急落し、これを回復させるべく「真摯に説明する」とか「丁寧に説明する」などと言っておきながら、国民の多くが納得し得る説明がないままに本年8月6日に「仕事人内閣」と称して内閣改造を行った矢先、若干の支持率の回復を見るや、臨時国会の冒頭で解散に踏み切ったわけです。
憲法典上、内閣による解散権の行使事由について、憲法第69条のほかに明示的に定めた条項が見当たりませんが、総選挙を通じて国政上の重大な問題について民意を確かめるため解散制度を利用することは、民主主義に適いますので、同条の場合に限定されないと解釈されております。
ただ、国政上の重大な問題について民意を確かめるという民主的機能に根拠づけられた解散権は、そのような機能が期待される政治的状況が生じた場合に限って行使が許されると解釈されることになりますから、大義のない解散など認められません。
お膝元の自民党内でも「大義がない」との批判が出る中で、臨時国会での所信表明やまともな説明もないままに解散に踏み切った現政権の思惑は、支持率が回復してきた今のうちに解散すれば選挙に有利であり、臨時国会での厳しい追及が予想された森友・加計学園問題も棚上げにできると踏んでのものと疑われても仕方がない状況です。
安倍総理大臣は、「子育て世代への投資を拡充するため、消費税の使い道を見直すこと」について、国民の信を問う必要があるなどと先月25日の記者会見で説明しましたが、「どうして今?」との問いに対する答えにはなっておらず、「大義がない」との批判をかわせていません。
今回の選挙で注意すべきポイント
そうはいっても、解散を受けて一気に選挙モードに突入してしまった以上、国民としては、来るべき選挙に臨まざるを得ません。
ただ、就任から僅か1年余りしか経過していない小池東京都知事が希望の党なる国政政党を立ち上げ、今回の衆議院選挙への出馬まで取り沙汰されていること、野党第一党の民進党の前原代表も、今のままでは政権を交代させられないと踏んで、民進党での公認候補を立てずに希望の党への合流を目指すと表明したことなど、今回の衆議院解散によって、野党再編が進んでいるとはいっても、選挙権を行使する国民にとっては、非常に分かりにいくい選択を迫られる見込みでした。
なぜなら、たとえば、希望の党の政策理念がどこまで与党と違っているのか判然としませんし、これに合流する民進党その他の党の出身候補者がかつて主張していた政策理念との間に不一致が垣間見られる場合、政権を託すには不安が付き纏うことになり、仮に、長期政権で奢りの出ている自民党には投票したくないと思っても、政策面ですんなりと希望の党を選択し得るのかというと、必ずしもそうはいかないからです。
そんな中、ここにきて与党との政策理念の違いが明確なリベラル派の枝野新党(立憲民主党)の立上げがなされたことは、選択する側として少しは分かり易くなったと評価する声が上がるのも頷けます。
10月22日の投開票まで3週間足らずしかありませんが、国民としては、雰囲気に流されるのではなく、将来の日本のあるべき姿ないし理念について、譲れない優先順位を設定し、これに近い政策理念を掲げる政党がどこなのかをギリギリまで見極める姿勢が必要ではないでしょうか。
(田沢 剛/弁護士)