長時間労働による犠牲者が…
またもや悲しい事件が発覚しました。2013年7月に31歳という若さで心不全により死亡したNHK(日本放送協会)の記者について、長時間労働による過労が原因の労働災害であったことが今月4日に公表されました(労働基準監督署による労災認定は2014年4月)。
この記者の長時間労働は半ば常態化し、亡くなる直前の1か月の時間外労働は159時間以上で、過労死の危険ラインと言われる月100時間を大幅に上回るものだったそうです。
事件公表が今になったのは、遺族が望む社内での事件の周知徹底など、NHK側の対応が不十分で、遺族の不満があったためとも言われています。しかし、事件後に自社で十分な対策を講じないまま、長時間労働による過労死について特集番組を放送するなどしていたNHKの倫理観を疑います。
責任感が強いが故の長時間労働
このNHK記者の恒常的な長時間労働については、使用者であるNHKの管理不行き届きが原因であることは言うまでもありません。この記者は責任感が強く、仕事に強い意欲をもって取り組んでいたとされ、亡くなる直前は都議選と参院選の取材に追われていたといいます。多くの業務がこの記者の肩にのしかかっていたわけですが、NHKはこの記者のやる気と根性に任せて業務量を調整することはしませんでした。なお、このような業態は、NHKだけでなくマスコミ業界に蔓延していると指摘する人も多くいます。
では、意欲のある社員の自発的な長時間労働を、会社はどのように管理すればよいのでしょうか。キーワードは「社員任せにしない」です。会社側が常に業務を管理し、過重労働があればストップをかけなければならないのです。
真の長時間労働是正に向けて
一昔前までは、長時間労働はややもすれば美化される傾向にありましたが、今はそうではありません。少子高齢化が進み労働力人口が減少する中にあっては、これまでのような仕事の進め方では社員一人に対する業務量が多くなるのは目に見えています。やる気と能力がある社員だからこそ、そうでない社員より多くの責任ある仕事が任せられるのですが、恒常的に過重な労働を強いられれば、2015年に過労自殺と報道された株式会社電通の社員や今回のNHK記者の二の舞になってしまいかねません。優秀な社員を、長時間労働でつぶしてはなりません。
会社が本気で長時間労働是正に取り組むとすれば、ただ「早く帰れ」と号令するだけではいけません。結局、サービス残業や仕事の持ち帰りがあっては元も子もないからです。
まず社内の業務量全体の可視化と見直しをすること、実際に業務を担当する社員を交えて仕事の進め方を再検討すること、自主的な残業を抑制するために残業の許可申請制度を設けること、人事評価の基準を労働時間ではなく労働内容にシフトすることなどが必要です。もし、社内の業務改善を進めても過重労働が恒常化しているならば、取引先との関係見直しまでも視野に入れるべきです。今回の事件を受け、マスコミ業界においては個々の会社だけではなく業界全体での働き方改革が求められるでしょう。
また、近頃では社員を管理するための勤怠管理ツールや、HRテックと呼ばれるAI(人工知能)を駆使して人事領域の業務管理・改善を行う技術も発達してきています。ヒトの力だけで足りないのであれば、こういった技術の導入も検討すべき時代になってきています。
今回のような痛ましい事件が、再び起きないことを祈るばかりです。
(大竹 光明/社会保険労務士)