職場などにいる「困った人」の特徴
あなたの職場などで、こんな特徴のある人はいないでしょうか。
□ミスが多い
□指示が入らない
□こだわる
□衝動的
□プライドが高い
□同じことを何度も質問する(同じ失敗を繰り返す)
など、最近周りから見た「困った人」のご相談を受けることが多いです。
こういったご相談を受けた時に、心理の専門家としてどうやって支援のプランを立てているのかを順を追ってご説明します。
環境
性格
気質
この3つの軸から考えてみましょう。
気質的な原因(生まれつき)なのか?
まず気質、すなわち生まれついてのものなのかどうかの確認です。多くの場合は、知的な能力の高低や、発達障害の有り無しなどを見極めることになります。
基本的なコミュニケーションがズレなく行えるのか 適度な会話の長さで要点だけ絞って話せるか 必要以上でも必要未満でもない意図に沿った回答ができるかといった言葉のやり取りであったり、書いてある文字の大きさやバランスはおかしくないかということや、漢字を適切に使用出来るか、誤字脱字がないか、などでもある程度は測定することが可能です。
要は言葉でも文字でも「相手に伝えること」を意識してコミュニケーションが取れているかを一つの基準として、能力的な凸凹を見極めて行きます。能力的な問題がないと判断した際には、一つ飛ばして、性格の項目をお読み下さい。
1.知的な能力気質と一言でくくりましたが、厳密には2つの視点を持って、見ていくようにしています。まずは知能検査で測るIQですが、これは検査をしなくても見極められる部分があります。
例えば、学歴であったり、進路選択の際の基準(聞く側が理解納得出来る判断基準なのかどうか)、場に合った言葉遣い(丁寧語、ですますなど)が出来るか、適切な表現で言い表しているか、などは簡単なやり取りからでも見極めることが可能です。
ただし、次に述べる発達障害をお持ちであると、知的な能力の高低関係なく、これらの判断方法が通用しない場合もあります。
2.発達障害の有無最近一番対応が難しいと言われているのが、アスペルガー症候群(以下アスペルガーと表記)と呼ばれる方たちへの接し方です。
医療的な診断基準で言えば「知的、特に言葉に遅れのない、かつ発達障害の一症状」のことを指しますが、実際の医療現場では知的に高い、意思疎通も比較的成り立ちやすい(自閉度がそこまで高くはない)方を指すことが増えて来ているように感じます。
クリエイティブな分野などで非常に高い能力がある人のなかには、アスペルガーの人もいます。彼らの秀でているところは皆さんもご存知のところかと思います。彼らと同様に知的に高いにも関わらず(高学歴な方も多いです)、でも何か今ひとつコミュニケーションで通じていないという感覚を相手に持たせやすい方がおられます。彼らは
□急に誤解して癇癪を起こす
□昔の出来事をずっと引きずっていて、今もまだ引きずっている。
□独自の論理を振りかざし、一方的に、しかも早口にまくし立てる
□一見して出来る人のイメージを与えやすく、期待して役職や仕事などを任せるが、うまくこなせない
□急に視野が狭くなり、周りを急かすなど独特のペースがあるため、間接的に被害を受ける人が出て来る
などの不適応(適応障害)が見られたりすることがあります。もちろん全ての「困った人」がアスペルガーかと言われたら誤解だと答えますが、こういったことをされると、ご本人に他意の有無関係なく、周りを巻き込んでトラブルの発端となる人という印象になりやすいようです。
この場合はいくら学歴が高かろうが、頭が良かろうが、不適応行動を起こすことが頻回に起こり、アスペルガーの要因で「困った人」になる可能性が大いにあります。
以前も書かせてもらったように、アスペルガーに限らず、知的に平均程度であっても、発達障害因子があると、対人関係のつまずきやトラブルに至ることがあるため、「困った人」を見かけた場合は、こういった視点も持っておく必要があります。ただし、繰り返しお伝えしますが、全ての「困った人」が発達障害ではないので、その点、誤解はされないようお願いします。
これらの知的能力、発達障害の有無など気質的(能力的)な原因の場合は、医師や心理等の専門家の介入が必要です。一方でアスペルガーの方などの場合「(ちゃんと評価をしない)周りが悪い」と、(周りから見たらズレた回答を)はっきり言われる場合もありますので、まずはご本人のニーズと困り感に焦点を当てた理解したいスタンスを示しながら、話を聞いていくことが重要です。それについても上述の記事に書かせてもらっています。
この発達障害や能力の凸凹(得意・不得意の差が大きい)は、根拠は不明なのですが、次に述べる【性格のせい】にされることが多いため、先に気質的(能力)なものかどうか見極めるをまず書かせていただきました。
性格の問題なのか?
「困った人」について多くの場合はこの性格のせいにされてしまうことが多いようです。つまり、
急に癇癪を起こすのも 急に落ち込むのも(ずっと昔のことを引きずっているのも) 独自の理論を振りかざしてまくし立てるのも 仕事が出来ないのも マイペースなのも全て【性格のせい】で一括りにされていることが多いです。
確かに性格のせいにしてしまえば、大概の問題は原因が分かったかのように思ってしまいます。ですが、本質的な解決になったかというと全くそうではありませんし、そのことはみなさんも体験を通してお分かりなのではないでしょうか。
仮に性格のせいだとしても、性格のどんなところが問題なのかを見極めていく必要があるのです。
例えば、多いのが、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)という症状です。境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)の特徴を紹介します。
よく見られる症状として、主に以下のようなことが挙げられます。
現実あるいは妄想で、人に見捨てられることを強く恐れたり、不安な気持ちを抱いている。 対人関係の変動が激しく、安定したコミュニケーションを図ることが難しい。 感情や気持ち、気分が頻繁に変わり、周囲の人々がついてこられない。 感情の制御が不得手であり、ちょっとしたことで癇癪を起こしたり、激しく怒り、傷つきやすい。 自殺をするふりや自傷行為を繰り返し、周囲に動揺を与えるようなことをする。 (薬物・アルコール・セックス・万引き・過食・買い物など自己を損なう行為に依存しやすくなる。 いつもむなしい、空虚な気持ちを抱き、幸せを感じにくい。 生きることに対して辛さや違和感があり、自分自身が何者であるかわからない感覚を抱いている。 強いストレスがかかったとき、一時的にストレスの原因に関する記憶がなくなり、精神的に不安定な状態になる。こういった特徴が見受けられる場合、性格のせいだからと言われても、治療対象になりますので、そういった視点を持っておくことはとても重要です。もちろんこれに当てはまるから全て人格障害ということでもありませんし、そのことを本人に伝えたとしても、改善に繋がることにはなりませんので、そういった決めつけのために使うのはお控えいただくようお願いします。
あくまで性格(人格)のせいで周りに「困った人」だと認識されている場合、このような医療的介入が必要なことがあることも、頭の片隅に置いておいてもらえたらと思います。
またそこまでではなくても、問題解決しない方がその人にとって都合がいい場合もあります。例えば、ある不登校児童の治療の際には、ご本人からよくよく話を聞くと「僕が学校に行かなくなったことで、両親の話し合いが増え、ケンカが減った」というのです。そうであるなら、学校に行くという一見望ましいかのような行動を達成してしまうと、以前のケンカをする両親という望ましくない結果を手に入れてしまいます。そのため、彼の不登校を「学校に通う行動」に変えるためには、両親の協力が必要でした。
他にはこんな事例もあります。同じ相談を繰り返しお話される相談者様もおられます。この方にとっては、話を聞いてくれる場所(クリニックであることも、オンラインの相談する場であることもあります)がなくなってしまったら困るので、問題解決してしまうと話を聞いてくれる場所がなくなってしまうため、同じ話を繰り返す(私は感じないのですが、世間一般で言う)「困った人」になってしまうのです。その方にとっては、一見したら問題と見える行動は解決されたら「困る」のです。こういった方に対しては、一定距離を置くことも大事なことだということを是非覚えておいて下さい。
環境の問題なのか?
環境の問題で「困った人」になっていることもあります。例えば大学生までは特に問題もなく、非常にまっすぐ育っていたのに、社会人1年目にひどい上司に当たってしまい、それからうつとなり、病休と復職を繰り返す場合などは、周りから見たら「困った人」なのかもしれません。
ですが、この場合は、原因がはっきりしていますし、気質的な問題がない(能力的な偏りがない)、性格のせいでもない(人格の偏りがない)ということなので、環境調整をすることで、「困った人」ではなくなる可能性が高いです。
環境調整するには行動分析学というのが分かりやすいかと思いますので、コラム「仕事にやる気を出すための仕組みがありますか?行動分析学のススメ」を参照して下さい。
短期的な視点では、「環境を変えること」が問題解決の一つになりますが、あまり社内から退職者を出したくない場合は是非、上記コラムも参照してみてください。
まとめ
このように一口に「困った人」と言った場合でも、色々な原因があることをお伝えしてきました。
今回一番お伝えしたかったのは、気質(能力)や環境が原因のものも全て、その人の性格のせいにしないことであり、原因特定の方法やそのための見極めのポイントについてあわせてお伝えしました。
大事なことはその方の問題行動が減少し、適応的な行動が少しずつでも増えていくことだと思います。
(舩曳 泰孝/カウンセラー)