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事件の加害者と被害者の実名報道はどこで線引きされているのか?

JIJICO 2017年12月3日 7時30分

少年事件以外は、実は実名報道のルールはない

座間事件の被害者を実名報道したことについて非難の声があがっています。僕も、被害者の実名報道についてはかねてから疑問に感じている一人です。社会的な注目を集める事件について、被疑者や時には被害者が実名で報道されるに際し、何かルールや線引きはあるのでしょうか。

こういった問題に対し、法律が明文で規定しているのは、少年法61条のみです。この法律では、少年事件の場合に、加害者とされる少年の氏名や年齢等、本人であることを推知されうる情報を報道してはならないと規定されています。それ以外は、マスコミの自主規制に委ねられているのが現状です。

プライバシーと「知る権利」の問題

被疑者や被害者の実名報道については、我々弁護士も被疑者を守る立場、被害者を守る立場として、「実名報道は避けて欲しい」という内容の要望書などをマスコミ各社へ送ることがあります。座間の事件でも、報道によると、遺族は警視庁を通じてマスコミへ実名や顔写真などの報道はやめて欲しいという内容の通知を行ったとのことです。それにもかかわらず、多くの報道機関が被害者らの実名や写真などを報道し続けていることは皆さんご存知のとおりです。

そもそも、個人的には警察が被害者の実名をマスコミへ発表しなければいいのにとも思うところですが、現状では被害者の氏名をマスコミへ公表するのか秘匿するのかについては、警察自体の判断に委ねられている側面があります。マスコミは「報道の自由」、国民の「知る権利」などを背景に、情報が秘匿されることにより警察にとって不利益な情報が隠される可能性を指摘し、実名の公表を求めます。

警察は警察で、捜査に関して後ろめたいこと(違法捜査)が無いということが言いたいのか、簡単に実名を公表し、あとはマスコミの皆さんにお任せします、という対応をしてしまいます。特に、被害者が死亡している事件では、あっさりと実名を出しているように感じられます。これは、被害者本人の気持ちというものが観念出来ず、本人から責められることがないということがあるように思います。

被害者の遺族はどこまで耐えなければならないのか?

ただ、個人的には、「本当にそれでいいのか?!」という思いは常に持っています。確かに、刑法上の名誉棄損罪は、死者については「虚偽の事実を適示した場合」のみ罰することができることとなっており、生きている人とは明確に区別しています。座間の事件についていえば、「事件により亡くなった人が〇〇さん」という限度では虚偽ではないでしょうから、名誉棄損罪は成立しないことになります。ただ、死者の名誉を棄損したことにはならないから実名を公表して良いとか、実名報道がなされても仕方ないということにはならないと思います。

僕もニュースになるような事件を実際に経験し、事件の被害者、そのご遺族という存在をお茶の間で見るよりも身近に感じたことがあります。ご遺族は、ただでさえ身近な存在を不合理にも失ったという悲しみに暮れているところ、連日そのことが新聞やテレビで報道され、居たたまれない思いに拍車をかけられます。場合によっては、遺族として望まない取材を半ば強制的に受けさせられるということもあります。断っても追いかけられることもあるでしょう。

なぜ、社会的耳目を集める事件の被害者の遺族だからという理由で、そこまで受忍しなければいけないのか、疑問で仕方がありません。マスコミ側の理屈は「報道の自由」、「知る権利」かもしれませんが、被害者の実名や顔写真を報道することに、どういった意味があるのか、国民はそれを知らなければ何か困るのか、ということを社会全体でもっと議論しても良いのではないかと思います。

(河野 晃/弁護士)

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