健康志向の高まりを受けて進む公共スペースの禁煙化・分煙化
平成15年に施行された健康増進法に受動喫煙防止が規定されて以降、多くの公共スペースは禁煙とされるようになりました。
もっとも、近時では受動喫煙防止対策の強化が検討されている反面、禁煙エリアの拡大には反対意見も根強く、先の通常国会では受動喫煙の規制を巡って厚労省案と自民党案の折り合いが付かず改正法案の提出が見送られる、ということもありました。
禁煙が世間の流れであるとはいえ、喫煙者がタバコを吸える場所がどんどん減っているということをどう考えるかは難しい問題を含んでいます。
過去の裁判で、「嫌煙権」が法的に保護されるべきかが争われたことがありました。1980年代ころまではまだ公共スペースでの喫煙が一般的になされており、筆者(1979年生)の子どもの頃の記憶でも、例えば電車では喫煙車より禁煙車の方が少なく、喫煙車両はたばこの煙が充満していた、という記憶があります。
そのような中で非喫煙者に「嫌煙権」が保障されるべきだとして訴訟が提起されたのです。この裁判では、「嫌煙権」が法的に保護されるという判断はなされませんでしたが、その後は健康志向の高まりを受けて徐々に禁煙スペースと喫煙スペースの逆転や分煙化が進むようになりました。
今では、電車や飛行機は全面禁煙になり、タバコの広告も厳しく制限されるようになるなど、タバコを巡る環境は大きく激変しています。
禁煙にするかどうかは最終的には施設管理者の判断
最近では公共スペースの全面禁煙にとどまらず、企業においても勤務中の喫煙を禁止し、あるいは喫煙の有無を採否の判断に加えるなど、禁煙の波が押し寄せてきています。
健康増進法は公共施設の管理者に受動喫煙防止措置を講じるよう努めなければならない、と定めていますが、これは努力規定であり義務ではありません。ですので、禁煙(分煙)とするかどうかは最終的には施設管理者の判断となります。
もっとも、社会の流れを受けて禁煙範囲が増えていることは前述の通りです。また、各施設において喫煙を認めるか否かは管理者の権限であり、全面禁煙とされた場合に施設利用者に当該施設での喫煙を求める権利はないと考えられます。
従業員に勤務時間以外での禁煙を義務付けることは難しい
では、企業において従業員に禁煙を義務づけることはできるのでしょうか。
企業における禁煙を義務づけるかどうかは労使間の労働契約に基づきます。業務や採用においてどのような条件を付すかは各企業の経営判断であり、当該規定や命令が客観的に見て不合理なものであり、労働者の権利を害するものでなければ法的な問題はありません。
また、健康増進法の規定やタバコ(特に副流煙)の健康に対する悪影響から他の従業員を守る必要性、あるいは社会的な要請を考えると、社内を全面禁煙にするとか、喫煙者を採用しないという判断をすることは、今の社会では不合理なものではないと考えられます。
なお、嫌煙権訴訟をふまえると、喫煙者の「喫煙権」が法的に保護される、と解釈することも難しいと思われます。もっとも、会社の指揮命令が及ばない通勤中や休憩中の喫煙については、これを「推奨」することはできても、全面的に禁止するところまでは行き過ぎだと思われます。
喫煙者からすると、どんどん肩身が狭くなっていくばかりです。時代の流れと言ってしまうとそれまでかもしれませんが、タバコを吸う人も吸わない人も気持ちよく生活できる、ということを考えると、現在の分煙や禁煙の流れはやむを得ないのかもしれませんね。
(半田 望/弁護士)