医師の過重労働の実際・・・4割は週60時間以上の勤務
今、医療現場での医師の過重労働が問題となっています。
週60時間以上勤務する医師の割合は、常勤医師の39%に達しています。診療科別にみると、産婦人科53%、臨床研修医48%、救急科約48%、外科系約47%となっており、日常的に緊急性を要する診療科の長時間勤務が目立ちます(平成28年厚生労働省調べ)。
全産業で週60時間以上勤務する従業者の割合は約7.8%ですので(平成28年総務省「労働力調査」)、やはり医師の長時間労働が際立つ結果となっています。
24時間365日人命を預かる仕事ですから、医師に求められる責任の程度は、他の業種とはまた異なってくるのは当然かもしれません。しかし、医師も人間です。いかに高い志を持っていようと、緊張感を保ちながら長時間休みなく診療にあたるのは不可能です。医療現場を支える医師たちの労働環境を改善するにはどうしたらよいのでしょうか。
雇用者(病院)側の問題…高額な給与が医師の労働者性を薄くしている
医師と病院の間で交わされる雇用契約は、慣例的にあいまいで不明瞭なことが多く、そもそも医師が労働者として認識されていないような風潮すらあるように感じます。
医師という職業が、高度な知識・技能を要し、雇用される段階でプロフェッショナルとして扱われることや、給与が他の業種に比べて比較的高額であることが、医師の労働者性を薄くしてしまっている要因かもしれません。
しかし、病院の指揮命令下で働く勤務医は、まぎれもなく労働者であり、病院側には医師の労働を管理・監督する義務があります。もちろん病院が勤務医に残業をさせれば残業代を支払う義務も生じます。
昨年7月に、定額の年俸制で働く医師について、年俸が高額だからといって、基本給と残業代が区別されていなければ、その年俸に残業代は含まれないとする最高裁の判断が下されました。
このことは、医師の給与の多寡にかかわらず、病院は残業を管理し残業代を支払わなければならいということであり、医師であっても労働者としてきちんと取り扱わねばならないという意味を持ちます。医師と病院の雇用関係について、今一度認識を改めなければならないでしょう。
医師側の問題…一人の医師がかかえる仕事量が多すぎる
医師になるためには、受験競争を勝ち残って医学部へ入り、6年間勉強の末に国家試験に合格し、さらに、卒業後も2年間研修医として実務を身に着けなければなりません。本人の努力に加え、経済的な負担もかなりのものです。医師の報酬が高いのも頷けます。しかし、報酬が高いということは雇用する側にすればコストがかさむということです。
医師の長時間労働が問題となっている背景として、一人の医師にかかる仕事量が多すぎることがあります。もし、これを複数人でシェアできる状態であればどうでしょうか。
医師業界全体として、医師になるためにかかる金銭的負担を下げる取り組みや、医師の報酬レベルの見直しなどをしていかなければ、新たに医師になる人も増えませんし、雇用環境も変化していかないように思います。
医師が大都市に集中しがちな状況の改善も求められる
また、医師が大都市周辺部に集中し、人手不足となった地方の医師の労働環境を圧迫していることも改善を要する問題です。
これまでは、人の命を守るという崇高な職業理念と高額な報酬により、少々負担の多い現場であっても医師は魅力ある職業でした。しかし、過酷すぎる労働環境がそれらの魅力を消し去ってしまえば、医師を志望する人も減ってしまうでしょう。
医師法には「医師は原則、診察、 治療の求めを拒むことはできない」と規定されています。人命を預かる仕事であるが故の大切な規定ですが、医師の過重労働の一因ともされています。責任感だけで過重労働に耐え続けても身体がもちません。医師自身も、自らのワークライフバランスを守るためにできることは何かを考える時期がきています。
(大竹 光明/社会保険労務士)