日本企業で勤務する従業員の低いITリテラシー
企業活動にとってITは今や必要不可欠の存在です。すべての従業員は個々の座席に設置されたPCに向かって業務を行うことがオフィスの日常風景となっています。私も業務上、様々な企業のIT化を支援してきましたが、ITを十分に使いこなしていると考えている企業の関係者はあまり多くありません。その大きな原因の一つとして挙げられるのが、従業員のITリテラシーが低いことです。
以前はPCを使って文書を作成する、表計算ソフトで集計する、といった内容でITリテラシーを理解していた方も多いでしょう。
しかし、現在では個々の従業員が直面する様々な課題をITによってどう解決するか、収集されたデータをどのように分析するか、あるいは、重要データの漏えいやウィルス感染等のトラブルをどう防止するか、といった内容もITリテラシーに含められます。しかし、未だにPC操作も満足にできない、文書等の作成が遅い、といった従業員も多数存在しているのが実状です。
さらには、より高度なスキルを求められるIT部門やIT企業における人材はその質、量ともに不足することが深刻化しており、大きな課題となっております。
子どもへのプログラミング教育の意味とITリテラシー
このような状況の中、国は企業活動を含む国民の生活全般に関連するITのメリットを全ての国民が享受するため、全ての国民が情報を主体的に活用できる能力を身に付けることが必要だとして、学校における情報教育に関する様々な施策を実施しています。その中で注目されている施策の一つが、2020年4月から小学校で「プログラミング教育」が必修化することです。
この施策が発表された際に、将来不足が予想されるIT人材の需要を補完するためのプログラマー育成と考える方も多いようですが、実際はプログラマー育成が目的ではありません。
文部科学省が公開している「小学校プログラミング教育に関する概要資料」を確認すると、以下の様な概要となります。
情報活用能力(情報モラルを含む)は「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ 小学校ではプログラミングを体験しながら「プログラミング的思考」を育成 「プログラミング的思考」とは、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力であり、どのような職業でも時代を超えて普遍的に求められる能力つまり、小学校のうちからプログラミング教育を通じて情報活用能力、すなわちITリテラシーを醸成すること、と理解できます。また、一部のプログラミング教育に興味を持った子供たちはより高度な教育を受けることで、将来を担うIT人材になることが期待できます。
小学校でのプログラミング教育実施上の課題は「教える側」にある?
小学校のプログラミング教育実施まであと2年余りですが、その準備には課題もあります。
学校におけるIT環境整備はここ数年でかなり進んでいるようですが、教師のスキル学習や教材の開発などは未知数だと考えられます。ここで注意したいのが、プログラミング教育の目的はプログラマー育成ではない、つまり、教師もプログラマーになる必要はないということです。
もちろん、プログラミング教育に使用する教材やツール、PC等の基本的な操作は学習する必要はありますが、教材の開発などはITの専門家を活用することで対応できます。
プログラミング教育を通じた技術育成ではなく、子供たちの思考力、発想力、表現力、等の育成を支援することが重要です。プログラミングは答えが一つであるとは限りません。設定した課題に対して様々な実現方法が存在し、なかには大人たちでは思いもよらない方法もあるでしょう。
そのような考え方を修正するのではなく、伸ばしてあげることが必要です。また、昨今問題となっている未成年者によるサイバー犯罪や迷惑行為を防止するため、サイバー空間でやってはいけないことなどを教えるITモラルに関する教育への対応も必要だと考えられます。
(金子 清隆/ITコンサルタント セキュリティコンサルタント)