貴ノ岩休場、強靭なアスリートも精神的な傷の影響は大きい
日本相撲協会は3日、春巡業に参加していない関取の休場理由を公表し、3月の春場所で3場所ぶりに復帰した十両・貴ノ岩(28=貴乃花部屋)は「心的外傷(後)ストレス障害(PTSD)、左足関節症」でした。
貴ノ岩は元横綱の日馬富士が昨年10月に起こした傷害事件の被害者で、頭部に受けた負傷の影響で同11月の九州場所、今年1月の初場所を全休しました。PTSDは強い精神的衝撃が原因と言われます。今回の場合は、元横綱から受けた暴行が精神的な原因と考えられています。
この「PTSD」とはどのようなものなのでしょうか?
PTSDの症状は「トラウマ」よりも深刻なもの?社会生活にも影響
PTSDという言葉よりも、「トラウマ」という言葉のほうが、とても日常的で身近に使われます。「あのときのトラウマのせいで、今でも緊張するんだ。」といった感じで、苦い思い出や忘れられない嫌な体験として、普段は使われます。
しかし、医学的にはもっと深刻な状態をいいます。具体的には、以下のような症状があらわれている状態を指します。
嫌な記憶が急によみがえる 当時の状況を何度も夢で見る (当時の状況・原因となったものに)関連するものを目にすると思い出してしまう 音や人の動きに過剰反応してしまう 息切れや手の震えが頻繁に起きる 身体が無意識に緊張状態になり、気が休まらない 悲しかったり怖かったりするのに、逆に感情が麻痺してしまう 不眠や過呼吸、集中力の低下などが起きるまた、身体面でも心理面でも影響が出て、結果として社会生活面にも影響が出ます。
人付き合いが苦手になる 人を信じられずイライラが募る 行けない場所ができて行動範囲が狭くなってしまう 以前は好きだったことができなくなったり関心が薄れる 自責から目標が持てず、投げやりな生き方になるといったものです。このように、社会生活をスムーズに営めなくなってしまう症状があるのです。では、どのように対処すればよいのでしょうか。
PTSDの診断は原因となる体験をしてから一ヶ月以上経ってから
人間にとって、悲しんだり怒ったり、恐れてしまう感情は決して悪ではありません。それは体験を経験としていくうえでの大切なプロセスです。PTSDと診断されるのは、その体験をしてから一ヶ月以上経ってからです。
PTSDとなる原因は様々です。事故、災害、暴力的な体験、性的なショック被害、死別や生き残り、いじめや虐待。診断は精神科、心療内科によってなされます。
自分のペースでゆっくりと回復に向かう
そのあとは、医療機関やカウンセラー、専門の支援団体、家族の協力などによって、ゆっくりと”自分のペース”でゆっくりと回復に向かっていきます。
きっと嫌な体験をした人は、「忘れよう」としてしまいますが、そもそも意図的に記憶を消すことはできませんし、それは逆効果で記憶が強まってしまいます。
記憶に少しずつ向き合う 苦手とするものをリストアップしていく 自分の思考パターンに気づき、新たな視点を得る 抗うつ薬などを服薬するこういった方法で少しずつ回復していくのです。とはいえ、回復には個人差があり、最も治療の妨げになるのは、本人が抱いてしまう「諦めの気持ち」です。
どんなことがあっても「自分の魂の支配者は自分」であることを忘れないで
PTSDに限ったことではありませんが、私たちは生きる限り嫌な体験をしてしまうことを完全に避けることはできません。
その際に、最も自分が立ち上がることの妨げになるのも「自分」であると同時に、最も自分が立ち上がることへの影響を成すのも自分なのです。
投獄され牢獄で27年間を過ごした、南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラが、心の信条とした詩の一部がこのようなものです。
「激しい怒りと涙の彼方に、恐ろしい死が浮かび上がる。だが、長きにわたる脅しを受けてなお私は何ひとつ恐れはしない。門がいかに狭かろうと、いかなる罰に苦しめられようと、私が我が運命の支配者、私が我が魂の指揮官なのだ。」
新しい環境がスタートして4月や5月は色々な壁にぶつかりやすい時期ですが、自分こそが自分に最も影響を与えられることを忘れないでください。
(青柳 雅也/心理カウンセラー)