著作権者の許諾を得ずにコンテンツを無料公開していた「漫画村」
「漫画村」という、漫画を著作権者の許諾を得ずにネット上で無料公開していたサイトがあり、問題となっていました。現在、「漫画村」のサイトは、一時的に閲覧できない状態になり、Googleの検索結果からも消えたとのことです。
「漫画村」のようなサイト、つまり、漫画や雑誌が無料で読める「海賊版サイト」は、「漫画村」に限りません。「漫画村」も名称を変えて既に開設されているようです。
また、海賊版サイトは、漫画・雑誌に限らず、テレビ番組やアニメなどを公開しているところもあります。
ここでいう「海賊版」というのは、著作権者等の許諾を得ずに漫画等のコンテンツを複製したもののことです。
「海賊版サイト」は著作権侵害だけでなく出版業界への悪影響も
著作権者は、著作物を複製したりネット上にアップする権利等を有します。ですから、著作権法で例外的に許された場合を除いて、著作物を複製つまりコピーしたり、ネット上に公開したりすることは、その著作物の著作権者の権利を侵害します。権利者の許諾がないのにネットにアップしようと漫画をコピーした段階で、その漫画の著作権を侵害しています。
著作権を侵害された場合、著作権者は、侵害した者に対して、侵害の差止や損害賠償を請求することができます。
権利者の許諾がないのにネットにアップしようと漫画をコピーした段階で、その漫画の著作権を侵害しています。
出版社・著作者などの利益を侵害する海賊版サイト海賊版サイトの利用が多くなることで、出版社や著作者などが作品の販売等で得るはずの売上が激減していると言われています。昨年9月から今年2月までの著作権者側の損害額は4000億円との見解が一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)から出されているそうです。
この損害額が適正かどうかはさておき、個々の漫画の著作者は、通常は単行本の印税で生計を立てる業態ですので、海賊版サイトに漫画作品が掲載されてしまうことで作品を正規に購入する人が減ると、作者の生活を脅かして、筆を折らせる結果になるかもしれません。
海賊版サイトの利用は新たな作品を潰すことにつながるしかも、相当の労力をかけて製作した作品が不当に無料で利用されていると、著作者の次作への創作意欲を萎えさせるでしょう。
海賊版サイトの開設やそのようなサイトに著作物を提供する行為、そして海賊版サイトを利用する行為は、漫画に関していえば、漫画を出版している出版社と作者の利益を減らすことで、新たな作品を生み出す経済環境を悪化させ、さらに、その情熱に冷や水を浴びせているものといえます。
海賊版サイトの利用は、将来産み出される作品を潰すのに加担しているというべきです。
刑事事件として見る著作権侵害という犯罪
著作権を侵害する行為は、著作権法違反の犯罪行為です。日本国外で行った場合でも、日本人が行った著作権侵害は、著作権法違反の犯罪となります(刑法施行法27条1号、刑法3条)。
国内での複製行為や国内から送信可能化する行為とすれば、国内での著作権法違反行為を認定することも可能に思えます。警察としては、著作権法違反被疑事件として捜査することは可能でしょう。
しかし、刑事事件として実際の立件はされていないようです。海外のサーバーを経由して海賊版サイトを開設しているため、開設者等の特定が難しいのかもしれません。
そうだとしても、広告は日本の国内のユーザー向けですから、広告主や広告代理店の方から捜査はできそうに思えます。
刑事事件として進展していない理由は、報道等を見ても本当のところはよく分かりません。著作権侵害で被害届を出していた出版社や著作権者が全くいなかったという話も出ています。
「漫画村」がGoogleの検索結果から消えた
Googleの検索結果から消えたというのは、Googleで「漫画村」を検索しても、その検索結果に「漫画村」のページが表示されないということのようです。
現在、「漫画村」のサイト自体が閉鎖された可能性が高く、「漫画村」以外の検索ワードで「漫画村」のサイト内のページが表示されていたかどうかは分かりません。
Googleの検索結果から消えたのは、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく著作権侵害の報告をGoogleが受けた結果とのことです。
「漫画村」のサイトについてGoogle検索の結果から消えたとしても、検索の方法によっては、「漫画村」と違うアドレスや名称の海賊版サイトや新たに開設される海賊版サイトが検索されてしまうでしょう。
サイトのブロッキング措置についての是非
4月13日に開かれた政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議では、「漫画村」「Anitube」「Miomio」の3サイトとこれらと同一とみられるサイトについて、民間事業者の自主的な取組としてブロッキングが臨時かつ緊急の措置として適当だとして、知財本部の下に事業者等の協議体を設置する方針を固めたとのことです。
政府は、ISP(インターネット サービス プロバイダー)等が特定のサイトへのアクセスを遮断する措置であるブロッキングについて、緊急避難(刑法37条)の要件を満たせば違法性が阻却されると考えています。
民間業者に「緊急避難」でブロッキングを強いるのは無理がある緊急避難というのは、違法性阻却事由の一つです。違法性阻却事由というのは、犯罪に該当する行為でも違法性が阻却されて犯罪が成立しないものとする事由のことです。
ブロッキングは、通信の秘密を犯して、電子通信事業法に違反する犯罪行為です。そこで、「漫画村」等のブロッキングについては、緊急避難として違法性が阻却されることにしようというのが政府の方針のようです。
この「緊急避難」という理由付けで、民間事業者であるISPにブロッキングを事実上強いるのは無理があります。緊急避難が成立するには、次の要件が必要です。
1.自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難があること
2.危難を避けるためにやむを得ずにした行為であること
3.避難の行為によって生じた害が避けようとした害の程度を越えなかったこと
児童ポルノのブロッキングについては、被写体となった児童の心身への重大な影響等を考慮して、きわめて例外的に緊急避難が認められるとされています。
児童ポルノの場合と比べても、「漫画村」等のサイトのブロッキングについて緊急避難の上記の要件の充足を認めるのは難しいでしょう。
政府の「緊急避難でブロッキング」の理屈は雑駁で拙速今回の「緊急避難」を持ち出してきた政府の主張は、雑駁で拙速のように思います。
ブロッキングは、憲法でも定められている「通信の秘密」を侵害する行為ですから、限定的に許すとしても、その場合の要件や手続等を慎重に議論した上で、明確な立法に基づくべきです。
立法によらずに政府がある特定のサイトについて、もっともらしい理由を付けてアクセスを制限できるという前例をつくるべきではありません。
手順を踏んだ立法措置でのブロッキングをするべき
新たに法律を制定するのか、電気通信事業法等の改正によるのか分かりませんが、「漫画村」等のサイトのブロッキングを臨時かつ緊急の措置と言うからには海賊版サイトのブロッキングに法的根拠を持たせる立法が検討されることになるでしょう。
その場合は、ブロッキングは、ネットを利用する人の「通信の秘密」(憲法21条2項)や情報を発信する側と情報を受ける側の「表現の自由」(同1項)、サイトを運営する側あるいはISP等の「営業の自由」(憲法22条1項)等の制約になりかねないので、必要最小限に制度化するにしても濫用されないように十分な制度的担保が必要でしょう。
「通信の秘密」の保障は国民のために極めて重要な権利
ブロッキングについては、特に「通信の秘密」について問題になっています。「通信の秘密」にいう「通信」は手紙だけではなくて、電話や電報、現代では電子メールやインターネットでのアクセスも含まれると考えられます。
そして、「通信の秘密」の意味は、通信の内容のみならず通信の存在に関する事項を公権力によって調査されないことと、通信の業務をする者によって通信についての情報を漏らされないことを言うとされています。
このように「通信の秘密」が保障される意義の一つは、通信に関する事項が公権力により調査されないことによって通信の内容を詮索される可能性を潰して、表現の自由、特に政治的な表現の自由を確保しようとするものです。また、別の意義としては、「通信の秘密」を保障して個人のプライバシーを守るというものです。
したがって、「通信の秘密」は、通信の事業者のために保障されているものではなく、通信をする私たち国民のために保障されているものです。
海賊版サイトのブロッキングはそれ自体として個人のプライバシー侵害の点でも、公権力による通信に関する調査がされる可能性を生じさせる点でも「通信の秘密」を侵害しうるものとして問題になると考えます。
海賊版サイトに対してどう対処していくべきか
そもそもブロッキングに意味・効果があるのかも疑問そもそも論として、ブロッキングが海賊版サイトに対して有効な対策方法なのか疑問視もされています。
たとえブロッキングされることになっても、海賊版サイトでビジネスを展開している者達は、儲かる以上は対抗策をどんどん講じてくるでしょう。
著作者・出版社の側は、出てきた海賊版サイトを叩くモグラたたきや海賊版サイトを潰すために追っかけるイタチごっこだけを続けていけば疲弊してしまいます。
出版・漫画業界は新たなビジネスモデルの構築が課題コンテンツを無料でユーザーに提供して広告料で稼ぐのが海賊版サイトのビジネスだとすれば、モデルとしては地上波の民放テレビ局と同様です。なお、海賊版サイトは、仮想通貨のマイニングをさせることを目的にしているとか、フィッシングサイトへの誘導のためという意見もあります。
海賊版サイトの真の目的がどうあれ、漫画の著作者・出版社としては、従来のビジネスモデルのままで良いのか見直すべきではないかと思います。作品を産み出す著作者と、世に届ける出版社のそれぞれが潤うような新しいビジネスモデルが早く生まれるのを願っています。
(林 朋寛/弁護士)