増加する訪日外国人旅行者数と不足するホテル
昨年(2017年)の訪日外国人旅行者数は、前年比19.3%増の約2869万人となり、5年連続で過去最高を更新しました。2013年の実績が約1000万人だったことを振り返ると、わずか4年間で3倍近く外国人旅行者数が増加したことになります。
観光立国を推進する政府は、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に4000万人、2030年には6000万人へ訪日外国人旅行客を増やす目標を掲げていますが、2020年の4000万人達成は充分に可能な見通しです。
こうした状況を受けて、宿泊者の受け入れ能力を高めるため、ホテルの新設や改装が相次いでいますが、用地取得や建築には一定の期間が必要なことから、特に東京や大阪などの都市部では、ホテルの予約がとれない、あるいは宿泊料が高騰する事態が起きています。
そこで、当面不足しているホテルのキャパを補う役割を果たしているのが、一般の住宅を使って有料で宿泊を行う「民泊」です。
すでに大きな市場になっている民泊 日本では6万件以上の物件登録も
民泊マッチングサイト最大手の米国Airbnb(エアービーエヌビー)は、日本で6万件以上の物件登録があります。また、観光庁が昨年第3四半期(7月-9月)に行った調査によると、訪日外国人観光客の14.9%が日本滞在中に民泊を最低1泊は利用したと回答しているので、単純計算で7人に1人が利用したことになります。このように、すでに日本において民泊は、外国人旅行客にとって宿泊先の選択肢の一つになっています。
法的なハードルが高く違法な民泊物件が多い現状
ところが、1948年に制定された旅館業法は、専有面積、防火、ベッドの設置位置、寝具の衛生管理等について数多くの細かな要件を定めているため、最もハードルが低い簡易宿所の許可を得ることですら容易ではありません。そこで、現在運営されている民泊物件のほぼすべてが、許可を得ていない違法物件という問題が生じていました。
そこで、今年6月15日から施行される民泊新法(住宅宿泊事業法)によって、物件要件の基準を大幅に緩和することで違法営業の状況を解消し、大手を振って民泊に参入できる環境を整えることになりました。
民泊新法でもなおハードルが高いという見方もしかし一方で、民泊新法によって緩和された要件でも、なおハードルは高いという見方もあります。具体的に民泊新法の内容を見ると、民泊に部屋を提供できる日数に年間180日という上限を設けています。
また、住宅の種類として「現に人の生活の本拠として使用されている」「入居者の募集が行われている」「随時その所有者、貸借人又は転借人の居住の用に供されている」という条件が課されています。
ビジネスメインの民泊営業が難しくなっているつまり、自宅の一室が空いているので年に何回かは宿として貸し出そうとか、賃貸用に持っているマンションの部屋があるが、次の入居者がなかなか決まらないので、その間だけ短期的に民泊に使おうというケースを想定していることになり、自宅とは別にわざわざ部屋を借りたり購入したりして、1年を通して民泊で商売をしようとするスタイルは認めないということです。
このように、民泊新法が施行されてもなお、現在民泊に使用されている部屋を適法に運営することが難しい理由は、民泊の本来の趣旨とは異なり、純粋なビジネスや金儲けとして物件を運営している人が多いからです。
民泊が世界的ブームになった理由・Airbnbの躍進
世界的に民泊のブームを作ったのは、米国のAirbnbです。この会社の創業者2人は大学の同級生でしたが、卒業後サンフランシスコに引っ越してすぐ、ある大きなイベントが開催されていたため、どのホテルも満室で予約がとれなかった参加者に、短期的な宿と朝食を提供したことがビジネスのヒントになりました。
きっかけはイベント時の短期宿泊bnb(ビーアンドビー)は、イギリス等のB&B(Bed and Breakfast)と同じ概念で、比較的低価格で宿泊と朝食の提供をする小規模な宿泊施設を意味しています。そして、Airは何かというと、2人がゲスト1名用のエアベッドを用意したことから由来しています。実際、当初はAirbedandbreakfast.comとそのままのサイト名でした。つまり、常用の民泊という発想ではなく、イベント時の民泊が最初の切っ掛けだったのです。
シェアリング・エコノミーの考え方とも合致して成長したそのアイデアが欧米で流行はじめていたシェアリング・エコノミーとも一致したことから、一気に民泊仲介サイトが成長しました。シェアリング・エコノミーとは、「個人が所有している遊休資産の貸出をすること、または仲介するサービス」を指します。現実にシェアされている資産として、住居以外に乗り物、家具、服などがあります。
近年シェアリング・エコノミーが発達している理由としては、消費者の意識がモノを所有することからモノを使って体験するコトに価値を置くように変化したとか、そもそも所得格差が拡大しているために、全員がモノを所有することが難しくなったことなどが一般論として語られています。同時に、モノを所有している人と利用したい人とのマッチングを容易に可能とするインターネットやWEB技術の進歩が前提にあることは言うまでもありません。
日本に「新しいカルチャー」としてAirbnbが上陸した2014年頃の状況
シェアリング・エコノミーの一端として始まった民泊は、自分の住居を都合が良い時期に部分的に旅行者へ貸し出して、この地での滞在がより快適なものになればいいなという純粋な想いがホスト側ありました。時には宿泊者とのコミュニケーションをとることも民泊をする楽しみの一つだったはずです。そして、結果的に宿泊料が入って来ることで、ローンや賃借料の支払いに充てられれば、なお嬉しいということです。
Airbnbが日本に上陸したのは2014年ですが、そのときいち早くAirbnbに物件を登録した人の話を聞くと、民泊を始めた動機は、自分が海外でAirbnbを介して民泊をして、ホストに大変良くしてもらったので、今度は自分で同じようなおもてなしをしたいからということでした。
また、2014年当時、立地が良く広い部屋に1泊で2万円程度の宿泊代を設定していても、物件数が少なかったこともあり、特にPRに努めなくても、すぐに予約が埋まる状況だったようです。
そして、利用する人の属性は、大学教授、経営者、IT技術者などが多かったとのこと。つまり、利用者側も一般的なホテルより宿泊代が安いから民泊を選択しているのではなく、新たに生み出されたカルチャーを実体験することを楽しんでいる人が多かったことになります。
民泊ブームとともに変化したホストとゲストの動機
その後2016年頃から、日本で本格的な民泊ブームが起きましたが、結果的に民泊を取り巻く状況は大きく変化しました。不動産屋の賃貸物件情報で「Airbnb許可物件」というPRが目に付くようになり、そこには相場より3割程度高い賃料設定がされていました。
投資のための民泊を行うホストが増加当初、予約までのやり取り、鍵の受け渡し、部屋の掃除など運営に関わる仕事をホスト自身がやっている人が多かったものが、多数出現してきた代行業者へすべての業務を丸投げして、単に部屋のオーナーという立場だけで民泊をする人が増えました。
そして、「部屋を民泊で運営すれば不労所得が手に入る!」「Airbnbは儲かる!」というセミナーが多数開催されるようになりました。それに伴い、あくまでも投資のために民泊を行うホストが増加し、日本で登録されているAirbnbの約6割が無人物件であるというデータもあります。
利用者も新たなカルチャーの体験から安価な宿泊という動機へ同時に、民泊の利用者もカルチャーを楽しむという層から、なるべく安く宿泊をしたいという層へ移行していくという変化も起きました。
現在、Airbnbで東京銀座の物件を調べてみると、物件数が約340で、宿泊代の平均額が9416円/泊になっています。銀座では、ビジネスホテルでも1泊1万円以上するのが普通なので、Airbnbが提供している物件の宿泊代が安いことが確認できます。
民泊新法によって民泊市場がますます活性化するかは不透明
民泊新法によって、これまで不透明な印象が強かった民泊業界に対して、ゲストからの安心感が増し信頼性が高まることで、民泊市場がますます活性化するという見方がありますが、そう断言することは難しいでしょう。
民泊提供日数180日制限による赤字の懸念先ずは、民泊に提供できる年間日数が180日までに制限されたので、完全なビジネスとして民泊を行っている者にとっては、残りの185日部屋を遊ばせていたのでは商売が成り立ちません。新経済連盟の調査では、民泊を営むホストのうちホスト不在型の9割、在室型の7割が180日の日数制限で「赤字になる」と答えていることが、そのことを裏付けています。
そこで、残りの半年は短期賃貸物件として貸し出すことを検討しているホストもいるようですが、1月から6月を民泊に使用し、7月から12月までを短期賃貸物件として使おうとしても、集客コストが倍増しそれぞれの形態での稼働率が落ちるというマイナス効果しか生まれないでしょう。
各種書類や窓口設置などの義務付けがホストの大きなコスト負担にまた、民泊新法によって、各種書類の届出、避難経路の表示、宿泊者名簿の備え付け、外国語での注意事項の表記、苦情受け付け窓口の設置などの義務が罰則付きで課されるために、民泊運営のコストは増加します。
年間180日の上限と合わせて考えると、ビジネスとしての民泊の採算性は民泊新法によって、限りなくゼロに近付きます。一方、民泊の初心に立って部屋を提供するホストにとっては、損得の問題は相対的に小さくなりますが、年に数回しか提供しない部屋のために、上記のような手続きや整備を面倒がらずにやりたいと思うホストがどれだけいるでしょうか。
結果的に、民泊新法によって合法民泊市場が拡大するというシナリオの実現は不透明で、むしろ違法民泊の存続を助長する可能性があります。
実際の届け出も受付け開始後1か月で232件と低調な滑り出し実際、全国の地方自治で民泊新法が6月に施行されるのを前に、3月15日から届出を受け始めましたが、4月15日までの約1ヵ月で232件の届出しかなかったことが観光庁から発表されています。
すでにAirbnbで儲けるのは難しい状況になってきている
新規登録物件数よりも登録抹消物件数が上回ってきている実は、民泊新法によって180日の上限日数が設定されていない現時点でも、Airbnbのホストをして儲けることは難しい状況になっています。例えば、民泊ビジネスの情報提供をしているエアラボのデータを見ると、昨年8月の時点で、Airbnbへの1ヵ月間の新規登録物件数は3285件でしたが、反対に登録抹消物件数は新規登録数を上回る4276件もありました。つまり、伸びゆく民泊市場に後押しされて、どんどん民泊物件数が増え続けている時期はすでに終わっているのです。
低価格化で稼働率は上がっても採算性を確保できない状況に物件数が飽和しているために、予約をとるために宿泊代を安くする競争が起きていますが、安くすることで多少稼働率は上がっても採算性を確保できない物件が増えていることが背景にあります。
銀座でワンルームマンションを民泊物件にした場合の具体例で検証具体的に民泊ビジネスの収支構造を見てみましょう。東京銀座ではワンルームマンションでも最低月10万円は家賃がかかりますが、銀座のワンルームマンション1室でAirbnbに登録して民泊をすると仮定します。
Airbnbで銀座のワンルームマンションの宿泊代を調べると、1万円以下が多く、7000円程度の宿泊料を設定している物件も目に付きます。もし1泊7000円にした場合、1ヶ月で稼働日が14日を下回ると、家賃をカバー出来ずに赤字になります。人気物件の場合、月に20日は稼働するので、その場合は、売上は7000円/日×20日=14万円となり、月4万円の儲けが出ます。
ただし、この4万円を丸々儲けにするためには、予約受付、チェックイン、掃除・洗濯等をすべてホスト自身が行う必要があります。しかし実際には、代行業者へ運営を丸投げしているホストが多いので、売上の20~30%+清掃料が経費として必要になります。加えて、Airbnbに仲介手数料3%を支払う必要があります。
Airbnbはゲストからも手数料を6~12%とるので、Airbnbのサイトに表記されている宿泊料がそのままホストの売上になりませんが、計算を簡単にするためにAirbnb関係の費用は無視します。
仮に売上の25%+5000円/回の清掃料がかかるとすると、(14万円×20%)+(5000円/回×6回)=28000円+30000円=58000円の経費を代行業者へ支払う必要があるので、18000円の赤字になってしまいます。この代行業者を使って、収支トントンにするためには宿泊代を8125円に設定する必要があります。さらに、すべて自分で運営した場合と同じ40000円を稼ぎたければ、10625円の宿泊代にしなければなりません。
しかし、あくまでも20日稼働をする前提なので、15日しか稼働しなくなると、10625円の宿泊代でもほとんど利益はなくなります。ところが、1泊1万円以上の宿泊代となると、築地や新富町などの銀座と隣接するエリアに行けば安いホテルが利用できるので、民泊を利用する価格的メリットが希薄になります。だからと言って、宿泊代を9000円程度にして月間稼働日20日を維持しても、ホストの手元に残る儲けは1万円程度しかないので、これでは儲かるビジネスとは言えません。
ホストにとってもゲストにとっても魅力が減ってしまうことにこのように見ると、民泊がホストとして簡単に儲かるビジネスではなく、またゲスト側から見ると、圧倒的な低価格が魅力な宿泊先でもなくなっていることが分かるはずです。
現在民泊で儲けているのは、部屋のオーナーではなく、仲介サイトや運営代行業者などに移っています。シェアハウスで起きたことと同じ現象が民泊でも生じています。
東京や大阪はホテルが大量に廃業したパリの二の舞になるのか
日本より民泊が早く普及したパリで、2017年の1年間だけで800軒のホテルが廃業に追い込まれ、さらに民泊に回すアパートメントが増えたために家賃相場が高騰し、契約を更新出来ずに郊外へ引っ越す住民が続出している状況です。
こうしたパリの姿を知って、東京や大阪でも民泊によってお客を奪われてしまうことを危惧するホテル事業者がいるかもしれません。また、交通至便なエリアで部屋を借りられなくなることを心配する人がいるかもしれません。
パリと日本では異なる道筋になるであろう3つの理由しかし、日本ではパリの二の舞にはならないと考えます。理由は3つあります。
一つ目は、パリで民泊が一気に普及したのは規制が行われる以前のことで、現在は日本より厳しい年間120日の上限日数が定められています。この日数でビジネス的に民泊提供するのは、極めて難しいため、今後少なくとも合法な物件数は増加するどころか減少していく可能性が高いはずです。ちなみに、日本の年間180日の制限が厳しすぎると言うホストが多いのですが、ロンドンは90日、アムステルダムは60日に制限されているので、日本は諸外国に比べると一番甘い制限日数になっています。
二つ目は、パリという街はイベント開催が多い場所で、パリコレの時期などはどのホテルも満室で予約がとれないことで有名です。そうしたピーク時の客室不足を民泊が補う形だったものが、逆に民泊にホテルが食われることになった理由は、パリのホテル事情が影響しているのではないでしょうか。
パリのホテルは高級なランクでも部屋が驚くほど狭いことでも有名です。三つ星ホテルでも部屋の中でスーツケースを2つ広げるには工夫が必要だとか、エレベーターが3人乗れば満員になるという話を聞きます。
また、1部屋に宿泊できる人数が、2ベットルームには2名までと厳しく制限されています。したがって、子供が2人いる家族の場合、もともと高くて狭い部屋を2つ予約する必要があります。つまり、パリではホテルへ宿泊することへの満足度がもともと低かったので、その分、価格や広さにおいて民泊が優位に立てる余地が大きかった可能性が考えられます。
三つ目は、すでに日本ではビジネスとしての民泊のうま味が薄れているうえ、民泊新法の施行によって、さらに制約が増えることで、民泊ブームがこれ以上過熱する可能性が低いことです。
訪日旅行者が増える中国系の民泊は今後も増える可能性
民泊は「Airbnb」だけではないAirbnbは今回の民泊新法の施行を歓迎して、全面的に協力していく姿勢を表明しています。したがって、届出が行われていなかったり、設備の整備がされていなかったり、年間180日以上の営業をしている物件はサイトに掲載されなくなるでしょうし、掲載されている物件でも違反が見つければ削除を積極的に行うはずです。
ただし、Airbnbは民泊の創始者で圧倒的な知名度とシェアを持っているため、Airbnb次第で民泊業界は大きく変わると考えるのは早計です。
中華系旅行者向け・中国系の民泊サイトの成長日本を訪問する国別の旅行者数を見ると、中国・台湾・香港の3つで50%を超えています。こうした中華系の旅行者向けに中国系民泊サイトが成長を続けています。「自在客(ツーザイクゥ)」「住百家(ジュバイジャ)を」「途家(トゥージャ)」といった中国系の民泊サイトが存在しますが、自在客のサイトで日本を指定して物件検索を行うと、7730Homestays 8778Roomsという数字が示され、すべて中国語で表記された物件紹介のページが表示されます。
中国系のサイトの場合、中国で使用している電話番号やIDの登録が必要なため、他の国の人が利用することは難しく中国人専用でビジネスが成立しています。中国人ゲストは英語をメインにやり取りするAirbnbよりも中国語だけで使える中国系民泊サイトの方が使いやすいためにAirbnbは使わない人が多いのです。民泊新法が施行された後に、こうした中国語と中国人だけで完結している民泊サイトの物件が適法かどうかの監視を徹底して行うことが出来るのか疑問です。
海外の民泊事業者が増えると実態把握が困難になり日本にとっての利益も減るそもそも中国人は事故やトラブルを恐れることなくグレーな領域に積極的に進出してビジネスチャンスにするマインドが強い人種ですから、現在問題になっている白タクと同様に中国企業が手掛ける中国人向けの民泊事業は、摘発を受けることがあっても消滅せずに拡大する可能性が高いでしょう。また、収益性を高めるためや苦情回避のために、中国人が民泊用に物件そのものを1棟丸ごと買い上げることが増えているため、実態把握も難しくなるでしょう。
合法か違法かの問題は別にして、中国系民泊サイトが成長してもお金は中国人の中で循環するだけなので、日本の経済にはあまりプラスに働かないことだけは事実です。
観光立国化のために宿泊分野で必要なのは欧米圏・富裕層旅行者の獲得
政府は観光立国に向けて、訪日外国人旅行者の数だけに目を向けがちですが、観光の経済効果を高めていくためには、売上(数量×単価)における数量だけを気にするだけではなく、単価を上げていくことの方がより重要です。その意味で、宿泊分野については、宿泊先としてホテルの他に優良で値頃感の高い民泊を整備することも大切ですが、それ以上に重要なことがあります。
アジア以外の地域特に欧米からのからの旅行者を増やすことが重要これまでは、先ずは近いところからという理由で、近隣のアジア諸国から外国人旅行客を誘致する方針が効を奏して、2017年は中国、韓国、台湾、香港の東アジア諸国とタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどの東南アジア諸国からの外国人旅行客が全体の8割を超えています。一方で、欧米豪からの旅行者の割合は11.3%しかありません。
今後、2020年に4000万人へ訪日外国人旅行者を増やしていく場合、これ以上アジアを中心とした国々だけに依存しているのではなく、元々海外旅行をする人が多い欧米の旅行者の数を増やしていくことが必要になります。
富裕層のためのホテル・リゾートがまだまだ不足しているなぜ欧米の旅行者は日本にあまり来ないのでしょうか。この問いに対して、「日本は距離が遠いから旅行するには時間もお金もかかるからだ」と答えるのが一般的でしょう。この答は半分正しいけれど、半分は間違っています。「距離が遠いから日本へ行くのに時間とお金がかかる」ことは事実です。しかし、より深いところにある理由は「そこまでして行きたいとは思わない」からです。事実、欧米から行くには時間もお金もかかる東南アジアの高級リゾートには、欧米人観光客がたくさんいます。
なぜ「そこまでして行きたいと思わない」理由は複数あるでしょうが、宿泊分野に限って言えば、富裕層が泊まりたいと思うような高級ホテルが日本には少ないことは大きな原因の一つです。富裕層にとって快適なハイグレード・ホテルがないのに、わざわざ時間とお金をかけて行きたいとは思わないわけです。
日本には帝国ホテルやホテル・オークラなどの高級ホテルがあるし、最近ではリッツ・カールトン、ペニンシュラ、コンラッド、マンダリンオリエンタルなどの外資系高級ホテルも出来ているのだからラグジュアリー・ホテルはあると思うかもしれませんが、残念ながら圧倒的に数が少ないのです。
ホテルの世界では星の数でランクを表しますが、最高ランクは5つ星になります。ファイブ・スター・アライアンスという団体が情報提供していますが、日本には最高ランクの5つ星ホテルは30軒しかありません。東京だけで見ると19軒しかりありません。
この数を国際的に比較してみましょう。アジア圏の国を見ると、香港35軒、シンガポール33軒と国土が極端に狭い国より少なく、日本より経済レベルが低いインドネシア58軒、タイ111軒には遠く及びません。中国には既に135軒の5つ星ホテルがあります。欧州に目を移すと、英国131軒、イタリア184軒、フランス125軒となっています。世界でもっとも5つ星ホテルが多い国は、米国で484軒もあります。
富裕層へのサービス拡充による単価アップを期待したい当然、5つ星ホテルに泊まるような旅行者は、滞在中に飲食、買い物、体験などにたくさんお金を使ってくれるので、外国人旅行者の数を増やすだけではなく、経済的な波及効果を高めようとするなら、先ずはインフラ整備として富裕層を受け入れる5つ星ホテルの数を増やすことは、有効な対策の一つになるはずです。そのために何をした良いかは、また別の議論に譲ります。
今後の民泊の方向性は農林漁業者がカギを握る!?
現在法律で認められている民泊5種類最後に、民泊については、都市部でホテルに対抗して安い宿泊費で差別化を図るという路線より、地方の「農家民宿・民泊」に力を入れる方向に舵を切った方がよいと考えます。実は、合法的に認められている民泊には次の5種類があります。
1.簡易宿所としての民泊(旅館業法) 2.特区民泊としての民泊(国家戦略特別区域法) 3.民泊新法による届出住宅としての民泊(住宅宿泊事業法) 4.イベント民泊 5.農家民宿・民泊(旅館業法及び農山村余暇法) 農家民宿・民泊の活用が日本独自の民泊カルチャーにつながるかここまで民泊の話は、もっぱら3番目の届出住宅としての民泊に集中していましたが、農家民宿は、農業・漁業・林業に従事する人たちが、自宅などを宿泊施設とし、農山魚村での生活体験や職業体験を提供する民泊サービスです。
営業行為として宿泊サービスを提供する場合は、簡易宿所の許可を得る必要がありますが、農家民宿の場合、客室延床面積33平方メートル以上という要件が緩和されて、それより狭くてもOKとなっています。
また近時、実際に農林漁業者以外の者であっても、近隣の農林漁業者の協力を得るなどして、職業体験の提供または斡旋が可能ならば農家民宿を行うことが可能になりました。さらに、宿泊料に当たる代金は徴収せずに、食事代や体験指導の対価だけを受け取る場合には、簡易宿所の許可は不要になります。
外国人旅行客も単なる観光地巡りをするだけではなく、日本の文化や生活を体験したいという人が増えています。実際Airbnbのサイトを見ても、宿泊の仲介だけではなく「体験」の仲介に力を入れていることが分かります。
そこで、観光による地方創生の一助として、農家民宿あるいは農家民泊を推進することは、外国人旅行者のニーズにもマッチすると同時に日本の観光資源を豊かにすることにも繋がる.はずです。体験の内容については、現在の農林漁だけに留まらず、伝統工芸などを加えていくことを検討しても良いのではないでしょうか。
※本コラムは2018年4月30日時点のサービス・法律に基づいて作成しました
(清水 泰志/経営コンサルタント)