労働基準法では労働時間は1日8時間、週40時間という上限
「裁量労働制」による長時間労働が原因と推測される「過労死」や「自殺」がニュースになっています。そもそも「裁量労働制」とはどのような働き方なのでしょうか。労働基準法では「一日の労働時間は8時間、一週間では40時間」と上限が決められています。
労働基準法ができたのは昭和22年で、当時の日本は製造業をはじめ人間による労働力が主体の「労働集約産業」が大半でした。放っておけば、労働者は何時間でも働かされてしまうので、法律で縛りをかけたわけです。
創造的な仕事に馴染まない業務は裁量労働制が適切
しかし、時代は変わりました。多くの日本人が、人間の体を使った仕事に就いていた時代から、知識や創造力など能力を活かす仕事に就く人が増えてきました。創造的な仕事には、時間による管理はなじみません。むしろ仕事をやる上での方法や時間配分等を労働者自身の「裁量」に任せてしまったほうが成果も出ます。こういった背景があって作られたのが「裁量労働制」です。
私は、大手小売業で人事教育を担当する前に、営業企画の部署にいたことがあります。具体的には、お店で販売する商品のプロモーションビデオを制作する仕事です。当時私は、映像制作会社の人達と一緒に、いいビデオを作るために一生懸命に企画を考え、映像を探して撮り、ナレーションのシナリオを書き、音楽を選んでいました。上司に「早く帰れ」と言われても、よりいいものを作りたくて毎日のように深夜まで仕事をしていました。でも、それを負担には感じていませんでした。むしろ充実していて楽しかった覚えがあります。
裁量労働制で働く労働者の健康確保が重要になる
「裁量型労働制」には「専門型」と「企画型」とありますが、「専門型」は19の仕事にしか適用されません。研究職、新商品の開発、放送番組のディレクター、ゲームクリエイターなど、社会的ステータスが高く、携わる者としても高い「ミッション(使命感)」を感じる仕事です。
労働集約型の仕事に比べると、「やらされ感」はかなり少なく、「好きでやっている」「やりたいからやっている」と思ってしまいがちな仕事で、自分自身で働きすぎに気づきにくくなります。
また、仕事で目に見える成果が出せているときはいいのですが、思うような成果が出せないときなど、何とか成果を出そうと焦ることもあるでしょう。労働集約型の仕事と違って、長時間やれば成果が出るというわけでもありませんが、精神的負担は非常に重くなります。
「裁量労働制」は、仕事の手段や時間配分を本人に任せて、会社が具体的な指示をしてはいけないことになっているため、管理が甘くなりがちです。そのため、「裁量労働制」の労働者の健康を確保するための会社の対応が具体的に決められています。日々の労働時間のチェック、定期的な面談などを実施することによって常に労働者の様子に気を配ることが会社としては必要です。
(小倉 越子/社会保険労務士)