コインチェック社の流出事件以降も仮想通貨の取引は拡大している
仮想通貨交換業者であるコインチェック社から仮想通貨NEM約580億円分が不正流出した事件から、ほぼ4か月が経過しました。その後、仮想通貨交換業を行う登録業者やみなし登録業者に対して金融庁が立入検査を行い、様々な内部管理態勢等の不備が把握されました。その他にも、
仮想通貨の価格が乱高下する一方で投資者保護が不十分 仮想通貨による資金調達などの新たな取引の登場といった様々な動きが見られます。
それでは、現在の仮想通貨の取引状況はどうなっているでしょうか。
金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」において、一般社団法人日本仮想通貨交換業協会から提出された資料によると、代表的な仮想通貨であるビットコインのグローバルでの1日当たりの取引量は、以下の通りでした。
H29.03.31:501億8千万円 H30.01.05:2兆6902億715万円(年度内の最大取引量) H30.03.31:4837億4千万円その後も、世界で発行されている仮想通貨などの時価総額、取引価格、取引量などがわかるコインマーケットキャップというサイトによると、ビットコインは直近24時間で5500億円以上の取引がされています(2018年5月23日時点)。すなわち、現在は1日で5500億円以上の取引が発生している=月刊に換算すると約17兆円規模という状況です。
つまり、昨年度の取引量は今年の1月にピークを迎え、その後の一連の事件や規制強化等により取引量は減少したものの、結果的には昨年度末から1年間で1日の取引量が約10倍となっています。そして現在も取引量は増え続けているという状況です。
参考:コインマーケットキャップ(https://coinmarketcap.com/)
仮想通貨交換業者に大きな変化!増える大手企業の参入
コインチェック事件までの仮想通貨交換業者は新興のベンチャー企業が大半でした。金融庁は2017年4月に改正資金決済法を施行し、仮想通貨交換業の登録制を導入しましたが、登録申請は文書審査だけであり、かつ登録前でも法施行前に営業していれば「みなし業者」とする等、ほぼ野放し状態でした。
大手IT企業やネット証券界会社の参入が目立つしかしコインチェック事件以降、不正流出の手口の解明や金融庁の立入検査により、仮想通貨交換業者のずさんな管理体制が明らかになると、仮想通貨交換業者にも多大なセキュリティ投資やガバナンス構築が求められるようになりました。その結果、みなし登録業者の幾つかは仮想通貨交換業者の登録申請を取下げ、事業から撤退することになりました。その一方で、大手のIT企業やインターネット証券会社による新規参入の動きが相次いでいます。
マネックス証券:コインチェック社の買収 SBIグループ:子会社を仮想通貨交換業者として登録し、営業開始の準備中 ヤフー:子会社を通じ、ビットアルゴ取引所東京に資本参加 その他…メルカリ、LINE、サイバーエージェント等も参入準備中 大手の参入による消費者保護の拡大・通貨安定化に期待こうした大手企業はセキュリティ対策の重要性も認識していることから、コインチェック事件の様な事態が発生する可能性は低くなると考えられます。(絶対、とは言えませんが)また、仮想通貨取引を行う消費者の保護に力を入れることにもなるでしょう。また、仮想通貨の価格の乱高下を抑え、安定化させる効果も期待できます。
重要なのは既存の仮想通貨ではなくブロックチェーン技術
新規参入する大手企業の目指すところは何処にあるのでしょうか。短期的には仮想通貨取引における高い利益率にあると考えられます。仮想通貨交換業者の取引形態によっては、利ざやが最大10%にも達すると言われています。コインチェック社が約463億円の補償ができたのも、この高い利益率に基づいているとも考えられます。
しかし、新規参入組は目先の利益だけに囚われている訳ではありません。まずはブロックチェーン技術の習得です。ブロックチェーン技術は仮想通貨の取引を記録するものであり、いわゆるFinTechを支える重要な要素技術の一つです。その後、独自の仮想通貨を発行したり、自社グループ内の決済サービスに仮想通貨を利用したりすることも視野に入れているでしょう。仮想通貨はこうした大手企業の信用を背景にして、現状の投機的商品から、本来の決済手段としての働きを実現することができるのかもしれません。
(金子 清隆/ITコンサルタント セキュリティコンサルタント)