健康被害のリスクが高まる受動喫煙への対策が進む
6月15日に衆院厚生労働委員会が、受動喫煙対策を強化する政府提出の健康増進法改正案を可決するなど、2020年の東京オリンピック開催に向けて、喫煙に対する規制が強まっています。
受動喫煙とは、タバコを吸わない人が、他人の吸ったタバコの煙(副流煙)を吸わされることで、長期にわたりその状況が続くと、健康被害を生ずるといわれています。国立がんセンターの研究(平成29年)でも、受動喫煙による日本人の肺がんリスクは、それがない場合の1.3倍になるとの結果が出ています。
参考:国立がんセンター
(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0831/index.html)
嗜好品であるタバコをどこまで規制するのが妥当なのか
喫煙する・しないは個人の自由ですから、「体に悪い」と知りながらタバコを吸うのは構いませんが、自分は喫煙しないのに、副流煙を吸い込むことで健康が損なわれるのは、なんだか納得がいきません。そのため、受動喫煙防止対策を強化するのはやむを得ないと思います。
その一方で、「タバコを吸うことが気分転換になり、モチベーションが上がる」「余りにも厳しい規制は、喫煙者の人権侵害になるのでは?」などと、こうした動きを疑問視する声も聞こえてきます。賛否両論、様々な意見があるこの問題ですが、会社における喫煙規制は、どのように考えればよいのでしょうか。
会社には受動喫煙防止対策をとる「努力義務」が課されている
知らない方が多いかもしれませんが、実は会社には、受動喫煙防止対策をとる、法律上の「努力義務」が課されています。平成27年6月1日に労働安全衛生法が改正された第68条の2では「全ての事業者は、労働者の健康を保持、促進する観点から、受動喫煙の現状を把握・分析し、その防止のために、(以下のような)適切な措置をとるよう努力しなければならない」と定めています。
(厚生労働省「事業主の皆様へ 平成27年6月1日から職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりました」より抜粋)
引用元:(https://www.jaish.gr.jp/user/anzen/sho/panf/panf_gimu_all.pdf)
妊婦や未成年者などには「格別の配慮」まで求められている
また、この法律に関連した通達(基発0515第1号)では、「妊娠している方」「呼吸器・循環器疾患のある方」「未成年者」について、「受動喫煙の影響を受けやすい懸念がある」ため「格別の配慮」を要することが明記されています。
したがって、社員の中にこうした「受動喫煙弱者」がいる場合はもちろん、社員ではない関係者~病院における患者や、高齢者など福祉施設のご利用者、小・中・高校の生徒など~で、一日の多くの時間をそこで過ごさなければならない人々のことも考えた受動喫煙対策をとることも必要でしょう。
適切な分煙ができるかどうかが快適な職場環境を構築するカギ
とはいえ、前述のように、タバコを吸う人には彼らなりの理由があり、それを全て否定してしまうと、職場の人間関係がギクシャクしてしまう可能性もあります。
受動喫煙被害をもたらさないような喫煙室の設置や、喫煙場所と喫煙可能な時間を明確に定めるなど、喫煙者を一方的に排除するのではない、「共生の措置」を講ずることも大切です。分煙のための設備投資などには、一定額の助成金が出る制度もありますので、それらを上手に活用して、喫煙者、非喫煙者双方にとって快適な職場環境を実現できるよう、工夫していきましょう。
(五井 淳子/社会保険労務士)