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NHK放送受信料の時効をめぐる攻防 民法168条1項前段の時効とは

JIJICO 2018年7月31日 7時31分

最高裁がNHK受信料の時効適用に関して支払い義務は消滅しないと判断

先日、最高裁判所は、NHKが20年間受信料を請求していなかった事案で、その場合でも民法の時効は適用されず支払義務は消滅しないとの判断を初めて示しました。

NHKの受信料債権と民法の時効をめぐる法律問題はとても複雑です。少し整理してみましょう。

受信料という定期金債権に民法168条の時効が適用されるかが問題となった

今回、最高裁は、NHKの受信契約に基づく受信料債権が、いわゆる「定期金債権」にあたることは認めました。定期金債権というのは、ある期間、定期的にお金などを受け取ることを目的とする債権のことで、年金や恩給などがこれに当たるとされています。最高裁は、受信料も一定のお金を定期的にもらう以上定期金債権に当たるとしました。

定期金債権に当たる場合、民法168条1項前段の、「定期金の債権は、第一回の弁済期から20年間行使しないときは、消滅する」という規定が適用されるかどうかが問題となります。今回の裁判で、上告人は、NHKは20年以上受信料の請求をしていなかったのだから、民法168条1項前段によって消滅時効が完成しており自分に受信料を支払う義務はないと争いました。

最高裁は放送法の趣旨にかんがみて時効は適用されないと判断

しかし、最高裁は、受信料債権が定期金債権に当たるとしたにも関わらず、民法168条1項前段の時効の規定は適用されないと判断しました。そんな「払わなかった者得」を許せば、公平に受信料を負担させる放送法の趣旨に反すると考えたのです。

この点、法律にルールが書いてあるのに適用されないの?と不可解に思う人がいるかも知れません。ここが定期金債権のややこしいところで、定期金債権というのは、基本権と支分権という2つの権利に分かれます。基本権というのは「受信料を徴収できる根本的な権利」のことで、支分権というのは、この基本権から生み出される「毎回の具体的な受信料請求権」です。

こう書いてもわかりにくいと思いますが、民法168条1項前段の時効というのは、この定期金債権のなかの「基本権」の消滅時効について書かれたものです。仮にこの規定が適用され放送受信料の「基本権」自体が消滅してしまえば、NHKは毎回の受信料を請求する根本的な権利を失うことになります。

そうなると、NHKはこの上告人が今後将来も同じ場所にテレビを設置していたとしてもずっと受信料を請求できないということになるのです。最高裁は、それではあまりにも不公平だから、民法168条1項前段を適用するのはやめようと判断した、と理解してもらえればよいと思います。

民法168条はあまり適用されない傾向にある?

それにしても、そんな感覚的なことで、定期金債権の(基本権の)消滅時効について明確に規定しているように読める民法の規定を適用しなくてよいのか、という疑問は残ります。しかし実際には、定期金債権であっても民法168条が適用されるのは非常に稀であるのが実態です。日本の裁判所はできるだけ、あまりに大きな力を持ってしまう民法168条を適用しないようにしようとしている、といってもよいかと思います。

このように、今回は、放送受信料の中でも根本的な権利(基本権)についての時効が争われた事案でした。他方で、この基本権に基づく毎月(毎回)受信料請求、つまりは支分権に関する時効もこれまで争われています。

これについては、平成26年に最高裁が、民法169条により5年の消滅時効にかかると判断し、長年、時効が5年か10年かと争われていた問題に決着をつけました。そのため、冒頭の今回の裁判でも、NHKは上告人に対して、最後の5年分の受信料しか請求していませんでした。

少し複雑な受信料の時効に関する問題でしたが、ご理解いただけたでしょうか。

(永野 海/弁護士)

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