今や音楽配信は5人に1人、動画配信は4人に1人の利用率
日常生活で、Apple Music、Amazon Music Unlimited、Spotifyなどの音楽配信サービスやNetflix、hulu、Amazon Prime Videoなどの動画配信サービスを利用する人が増えています。マクロミルが2018年6月に行った調査によると、利用経験率は動画配信が24.2%、音楽配信が17.2%となっています。
音楽や動画の配信サービスを使うと、CDプレーヤーやDVDプレーヤーがなくても、スマホ・タブレットさえあれば、ヒット曲を聴いたり最新の映画を観たりすることが、いつでも気軽にできます。また、月単位の定額制料金を設定していることが多いため、1,000円前後の月額料金で、聴き放題、見放題というお得感があります。
このようにコンテンツや商品を買い取るのではなく、利用権を借りて、利用した期間に応じて料金を支払う方式をサブスクリプションサービスと言います。もともと英語のサブスクリプションは「年間購読」の意味があり、それが転じて「有限期間の使用許可」の意味になりました。
衣料・美容・飲食など生活のあらゆる分野に拡がるサブスクリプションサービス
サブスクリプションサービスが増えている分野は、音楽や動画などの無形のデジタルコンテンツだけに留まりません。有形の商品を対象としたファッションや日常品の分野にも拡がっています。一例をあげると次のようなサービスがあります。
MECHAKARI 月額5,800円~ 洋服の借り放題 SPARKLE BOX 月額2,500円~ アクセサリーの借り放題 LAXUS 月額6,800円~ バッグの借り放題 BLOOM BOX 月額1,620円~ 旬なコスメの定期お届け MEZON 月額9,800円~ 美容室の定期利用 1日一杯野郎ラーメン生活 月額8,600円 毎日一杯ラーメン提供 NOREL 月額19,800円~ 最短90日で車の乗り換え放題音楽や動画配信と比べると、有形の商品を対象としたものは、まだ多くの人に知られていないサービスですが、今後さらにサブスクリプション方式で提供する分野が拡大していくはずです。
企業でも導入・利用が進むSaaS・サブスクリプションサービス
日常生活だけではなく、会社でもサブスクリプションサービスを利用する機会が増えています。例えば、グループウェアとしてMicrosoft Office 365、サイボウズOfficeを使い、社内SNSとしてChatWorkを使っている企業は多いはずです。その他WEB環境で利用するERP、人事、財務・会計の各分野のソフトウェアが数多くあります。
出典:BOXIL「SaaS業界レポート2018」
このように、従来パッケージ製品として提供されていたソフトウェアをインターネット経由で提供・利用する形態を指して、SaaS(サース:Software as a Service)と呼びます。SaaSの特長としては、「データをインターネット上に保存することができる」「PC、スマートフォン、タブレットなど端末を選ばずにデータにアクセスできる」「複数の人間が同一データを共有し、さらに編集もできる」ことがあげられます。SaaSもサブスクリプションサービスの提供モデルの一つです。
最近サブスクリプションサービスが注目を浴びている3つの理由
日常生活や企業活動の中でサブスクリプションサービスの利用が増えていますが、サブスクリプション自体は、イノベーションではありません。サブスクリプションとは支払方式の一つで、宅配の新聞購読によって既に生み出されていました。また、頒布会というかたちで、毎月定額で商品が届けられるスタイルは以前からあります。(これをサブスクリプションボックスといいます。)
それが最近、サブスクリプションサービスという呼び方で脚光を浴びている理由は、大きく分けて3つあります。
1. これまで著作権で保護され高額だった音楽や動画が定額低価格で、聴き放題・見放題になったこと。
2. 複製容易なデジタルコンテンツ以外の現物商品についても、定額料金で借り放題・使い放題を提供し始めたこと。
3. これまで企業が利用するソフトウェアは自前主義が強かったが、SaaSというかたちで、外部リソースを活用する方法の優位性が増したこと。
つまり、サブスクリプションサービスがもたらした変化は、提供するサービスの内容より、提供方法にウエイトがあります。これまで営業活動をして、一つの商品やサービスを受注販売することが当然とされていた分野でも、定額で利用権を提供する方法を持ち込み、さらには借り放題・使い放題というユーザー・メリットを打ち出した点が、ビジネスに大きな変化をもたらしたのです。
サブスクリプションサービスへの移行は、ユーザーとしてはありがたいことです。購入時の意思決定の負担を減らし、一時的な大きな出費を避け支払いが平準化できることに加え、不必要と思えばいつでも止められるからです。
企業がサブスクリプションサービスを積極的に拡大している2つの背景
従来の販売方法では商品・サービスが売れなくなってきた次に、サブスクリプションサービスが急速に拡大した背景を考えてみます。まず最大の理由は、これまでの販売方法では「売れなく」なったからです。市場が拡大期から成熟期に入ると、各企業の成長も鈍化します。それでも、自分だけは成長を続けようとする企業は、ユーザーの細かいニーズの違いに対応することが販売増に繋がると考えて、商品バリエーション拡大という手を打ちます。
しかし買い手は、無数の類似商品を前にして、適切な商品を選び出すことの難しさを感じます。結果的に消費者が失敗をおそれ購入を控える行動に出ると、企業側の期待は裏切られ、販売増にはなりません。
単純に「価格を下げる」では利益が減ってビジネスとして厳しくなるつぎに企業は、買い手の購入負荷を減らすために、価格を下げる策に出ます。低価格だからという理由で、買い手が購買決定をすることで、売上個数は伸びても利益は大幅に減るために、やはりビジネスがジリ貧になるという悪循環からは抜け出せない。これが、長引くデフレ経済という環境のもとで、業種を問わず、多くの企業が陥っている状況です。
そこで、さらに一歩踏み込んで消費者の購入負荷を減らすために、購入という消費行動自体を不要にしたのが、サブスククリプション方式と言えます。「買わなくていいので、利用をしてください」ということです。
サブスクリプションサービス成長の背景には、「所有から利用へ」「モノからコトへ」という
消費者側の変化があるだけではなく、企業側の台所事情も大きく影響しているのです。
こうした市場の状況に加えて、サブスクリプションサービスが拡大している背景には、高品質なインターネットとスマホ・タブレットなどの情報端末の普及というWEBインフラ整備が進んだことがあります。市場動向と技術動向がうまくマッチしたから、いまサブスクリプションサービスが広がりをみせているのです。
企業がサブスクリプションサービスを提供するための検討は必要だが簡単ではない
今後、サブスクリプション方式での商品やサービス提供は、ビジネスのあらゆる分野へ拡大していくことが確実です。企業を経営していくうえで、ユーザーとしてサブスクリプションサービスをうまく使いこなすことが必要です。同時に、現在提供している自社の商品やサービスの販売方法に、サブスクリプション方式を取り入れるかどうかの検討が、すべての企業に求められます
とは言うものの、これまでの販売方法に慣れ親しんでいる企業が、サブスクリプション方式を取り入れることは、簡単ではありません。支払方法に一括の他に分割を加えることとは次元が違います。
○従来のセールスの考え方とは大きく異なることを理解しなければ成功しない
まず、マーケティングにおいて、伝統的なセールスファネル(多数集められた見込客が成約までの間に絞り込まれていく様子を漏斗=ファネルに例えたもの)という考え方が通用しなくなります。
従来の販売方法では、成約がゴールですが、サブスクリプション型の場合は、成約がスタートになります。新規顧客の獲得をメインに考えていたこれまでのセールスと違って、既存顧客の離脱(チャーン)を防ぎ、契約更新率を高めることがサブスクリプション型では重要な取り組みになります。これは、マーケティング対象を既存顧客にまで広げる必要があることを意味します。
しかし、新規顧客獲得のためのマーケティングと既存顧客維持のためのマーケティングは内容が異なるために、既存の組織で兼務することは難しく、カスタマーサクセスを実現する新たな組織が求められます。
サブスクリプションサービス事業に必須の「カスタマーサクセス」とは
「カスタマーサクセス」はサブスクリプション型ビジネス成功のキーワードです。日本語に直訳すると「顧客の成功」になるこの言葉は、実際の組織と理念の2つ意味しています。カスタマーサクセスとは、既存顧客の離脱を防ぎ、顧客生涯価値を高めるために、「顧客が使って良かった」「引き続き使いたい」と思うように提案と改善を行う組織です。
同時に、目先の一時的な売上至上主義とは異なり、先にギブを行い、その後も常に顧客の成功を第一に考えて先回りした提案や改善を続けることで、後から大きな収益に繋げるという経営理念でもあります。サブスクリプションサービス導入のためには企業文化の変革が必要なのです。
サブスクリプションサービスは既存のセールス方法との併存が難しい
したがって、サブスクリプション型を導入する初期段階で既存ビジネスと併存することはありえますが、最終的にはすべてサブスクリプション型へ切り替える覚悟が必要です。あるいは、別会社を設立して新たな事業として取り組むべきです。
商品やサービスの提供方法の選択肢を増やす程度の目的で、既存スタイルとサブスクリプション型を併存させることは、共倒れのリスクを高めます。
実際のところ、新規で起業してサブスクリプションサービスを提供する場合、サブスクリプション型に特化していることがほとんどです。またAdobeのように、既存のビジネスにサブスクリプションを取り入れた企業では、最終的にすべてサブスクリプション方式に切り替えています。
サブスクリプション型へのシフトには豊富な自己資金が必要
サブスクリプションサービスの事業展開には一定期間の赤字の覚悟が必要サブスクリプション型ビジネスへのシフトには、経営理念の刷新と組織への浸透が不可欠ですが、さらに財務的条件が備わっていないと成功できません。サブスクリプション型に切り替えることで、販売時に一括で得られていた売上がなくなるために、営業収支が大幅に減少し固定費をカバー出来ず、一定期間赤字になります。
さらにサブスクリプションサービスでの新規顧客を獲得し損益分岐点をクリアするまで、1年以上マーケティングに投資し続ける資金が必要になります。
SaaSの場合は、サブスクリプション型で提供するために、ソフトウェア自体を作り直すために大きな投資額が必要になります。
資金をすべて借入で賄うような資金計画はリスクが過大また、現物の借り放題というサブスクリプションサービスを始めるためには、最初に多量の商品を確保しなければなりませんが、当然、そのためには多額の資金が必要になります。さらに、資金の問題とは別に、提供を終えた商品の転売や処分の仕組みを確立しなければなりません。
こうしたサブスクリプション導入に関わる運転資金や投資資金をすべて借入で賄うような資金計画では、失敗したときのリスクが過大になるため、自己資金が潤沢でないと一歩目を踏み出せないでしょう。
中小企業はBtoCのサブスクリプションボックスからスタートするのが現実的
サブスクリプションサービスというビジネスモデルは、従来のビジネスモデル以上に、規模の利益がものを言う世界であることが分かります。そのため、小資本の中小企業にはハードルが高いのです。
そこで、中小企業の場合、BtoCでサブスクリプションボックスの導入することが従来の販売形式とも併存しやすいでしょう。ただし、単に毎月詰め合わせ品を発送するだけでは顧客を増やすことは難しく、カスタマーサクセスの理念を掲げ、顧客価値を高めて行く王道の取り組みを徹底的に行うことが必須です。
(清水 泰志/経営コンサルタント)