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PISA調査で日本の読解力低下が浮き彫りに 原因は読書の量ではない!

JIJICO 2019年12月20日 7時30分

2019年12月4日の新聞各紙に経済協力開発機構(OECD)が3日に発表した2018年実施の学習到達度調査(PISA)で、日本の高校1年生の読解力が低下したことが報じられました。記事で論じられたのは、読書不足とそれに伴う思考力の低下です。でも私は、それはちょっと違うと思います。実はそれ以前の問題があるのです。脳科学と幼児教育の視点から説明します。

目で見た文字は音声情報に書き換えられた後、脳の記憶装置に記憶される

脳科学の視点からいうと、読書とはどういうことでしょうか。耳から聞いた音声による情報は、音韻貯蔵庫という脳の記憶装置に直接記憶されますが、目で見た文字による情報は脳の記憶装置には入りません。文字による情報は、音声による情報に書き換えられた後、音韻貯蔵庫という脳の記憶装置に記憶されます。

また目で見た文字による情報は音声による情報に書き換えられるため、悪条件の下では情報の記憶に失敗することがあります。しかし、耳から聞いた音声による情報は音韻貯蔵庫という脳の記憶装置に自動的に直接記憶されるため、情報の記憶に失敗することはありません。

私の経験もまじえて整理してみましょう。

読書して思考するためには、文字情報を必要な量だけ記憶し、それらを材料にして思考を行います。ところが文字情報は音声情報に変換しないと記憶できないので、ここに第一関門があります。

みなさんも注意深く文字を読んでください。自分の頭の中で声を出していることがわかるでしょう。時には小声でぶつぶつ声を出しながら読書する人がいます。幼児にはよく見られます。その原因はここにあるのです。

文字情報を音声情報に変換するのが下手な人は思考がうまくいかない

文字情報を音声情報に変換するのが上手な人と下手な人がいます。文章を音読させるとすぐわかります。

この変換作業が下手な人は思考がうまくできません。なぜなら、この変換作業に集中しているために思考する余裕がないからです。

こういう子供たちに読書後の感想を聞くと、感想になっていません。文章の内容をコピーした内容を述べるだけです。小学1年生によくあります。

このタイプの子供たちには、音読練習や読書量を増やすのがある程度効果的です。学校などでもよく行われています。でも残念ながら、文字情報を音声情報に変換するのが上手な子供たちに後れをとるのが普通です。

音声情報への変換が下手な場合は「読み聞かせ」が有効

文字情報を音声情報に変換するのが下手であっても、解決策がないわけではありません。

上項で「耳から聞いた音声による情報は音韻貯蔵庫という脳の記憶装置に自動的に直接記憶されるため、情報の記憶に失敗することはない」と説明しました。つまり多量の文字情報を事前に音声情報に変換して与えれば、文字情報を音声情報に変換するのが下手な人でも文字情報を必要な量だけ記憶し、それらを材料にして思考することができるのです。

つまり「読み聞かせ」です。

文字を読めない幼児に「読み聞かせ」は効果的ですが、文字を読める小学生にも効果的です。

私の経営する学習塾では幼児から小学3年生まで「読み聞かせ」をしていましたが、その後、生徒側から希望があったので現在は小学6年生まで延長しています。文字情報を音声情報に変換するのが下手な生徒に効果があるのはもちろん、そうではない生徒でも読解力が向上する効果があることを確認しています。

途中で質問や関連する話を入れながら読み聞かせをすることが大切

ただし、この方法には2つ弱点があります。

ひとつは音声情報を記憶するのが下手な人もいることです。例えば乳児は上手にできません。そのため、母親などが話しかけて音声入力の訓練をして少しずつ発達していきます(ここから「会話」も読解力の基本であることがわかります)。

その能力が少しずつ発達していくことから推測できるように、この能力の発達が早い子も遅い子もいます。幼児でも「読み聞かせ」の反応が悪い生徒は、口頭の指示が伝わりにくい傾向があります。

もうひとつは「読み聞かせ」をする側に大きな負担がかかることです。かといって機械が音声を流すのもダメです。

なぜなら、途中でストップしてくれませんので思考する暇がありませんし、聞く側の反応を考慮してくれません。

「読み聞かせ」をする場合でも、生徒の思考を無視して(例えば高速で)読むと生徒が理解していないことがよくあります。途中で質問や関連する話などを交えながら生徒の反応を観察し、ていねいに「読み聞かせ」をしてはじめて生徒は理解し思考してくれます。

こういう経験を積んだ生徒は、中学生になっても高校生になっても高い読解力を維持します。読書も大好きです。私の経験からそれを実感しています。逆にていねいな「読み聞かせ」を受けていない生徒は伸びません。

幼児に読書させる、内容を考えさせずに読み聞かせをするのは危険です。思考せずに内容をコピーするだけのような状態になってしまいます。

例えば、読書量が多量で高速で読書するような子は内容理解に乏しいことがよくあります。読解力や思考力の向上は冊数ではなく、価値ある1冊を深く読むことがさらなる発展につながります。

PISAによると「情報を探し出す」「評価し、熟考する」能力が低下

話を本題に戻しましょう。今回何が話題になったかというと、PISAの読解力成績が、2012年4位から、15年8位、18年15位と続落したことにあります。

原因としてあげられているのは、今回のテストがパソコンで出題されて、それを操作しながら回答するため、日本の生徒が不慣れであったのが原因であるということです。これは何の問題もありません。今の若者はすぐに慣れます。

その他の原因について、文部科学省のホームページには次のように書かれています。

「情報を探し出す」能力については、2009年調査結果と比較すると、その平均得点が低下。特に、習熟度レベル5以上の高得点層の割合がOECD平均と同程度まで少なくなっている。

「評価し、熟考する」能力については、2009年調査結果と比較すると、平均得点が低下。特に、2018年調査から「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」が定義に追加され、これらを問う問題の正答率が低かった。

また、各問題の解答状況を分析したところ、自由記述形式の問題において、自分の考えを根拠を示して説明することに引き続き課題がある。誤答には、自分の考えを他者に伝わるように記述できず、問題文からの語句の引用のみで説明が不十分な解答となるなどの傾向が見られる。

これは以前からある問題で、今に始まったことではありません。要するに深い読書と、それに伴う深い思考が欠けていることが原因です。深い思考があれば思考内容が客観化されているため、自分の考えを他者に伝えることができます。

乳幼児の脳の発達には「話す・聞く」の親子のコミュニケーションが重要

SNSやスマホ原因説も多いですが、深い読書とそれに伴う深い思考ができる人間がSNSやスマホ中毒になったとしても、その能力がなくなるわけではありません。本人や親がSNSやスマホを多用し、それ原因で家庭内の会話が乏しく、読み聞かせも受けていない場合は、深い読書とそれに伴う深い思考が育っていないことはあり得ます。

各紙紙面の隅に書かれていますが、経済格差の問題も大きいと思います。朝日新聞では「(家庭の経済状況の)最も厳しい層では、読解力の最下位水準の子が4人に1人以上いた」とあります。恐らく読み聞かせなどは受けていないのでしょう。

私の義理の祖母は、私が幼児の時に「読み聞かせは大切らしい」とすでに言っていました。京都新聞では、「新指導要領の検討過程では、小学校入学段階で既に語彙量の差が開いていると指摘された」とあります。

文部科学省のホームページで「国語力を身に付けるための国語教育の在り方」にはこう書かれています。

(1)3歳までの乳幼児期【コミュニケーション重視期】 生後から3歳にかけて、前頭前野の神経細胞は急激に成長する。乳幼児の脳の発達に最も重要なのは、親子のコミュニケーションである。「話す・聞く」を中心とした親子のコミュニケーションを通じて、家庭の中で言葉を育てることが重要である。乳幼児は親とのコミュニケーションによって語句・語彙力を身に付けることができる。

(2)幼児期 この時期は、「読み聞かせ」や可能であれば読書により言葉の数を増やし、さらに「言葉と社会や事物との関係」を習得するために、家庭や地域で多くのさまざまな経験を積ませることを意識すべきである。これにより、情緒力や想像力も身に付けることができる。

参考にすべき内容だと思います。

(杉田 昌穂/教師)

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