平成13年(2001年)に、大阪教育大学附属池田小学校で起こった事件以来、学校の危機管理について対策がなされています。最近でも、幼稚園バスが襲撃されるなど子どもたちを巻きこむ凶悪な事件が起こっています。何らかの犯罪被害に遭った子供(13歳未満)たちの数は、平成30年度(2018年)で1万2947人(警察白書より)にものぼっています。
そんななか、学校における危機管理はどのような対策が講じられているのでしょう。また、家庭や地域での取り組みなどはどのような変化が必要なのでしょうか。
学校における危機管理の重要性について
学校における犯罪の歴史は古く、重大犯罪に限っても1927年の「バス学校爆破事件(米国、ミシガン州)」が米国史上最も犠牲者が多かった事件(死傷者103名)として知られており、近年の日本では「川崎市登戸通り魔事件」が、通学途中の子供たちを襲った事件として記憶に新しいと思います。
子供たちをこのような凄惨(せいさん)な事件から守るために、私たちには何ができるのでしょうか?
冒頭に記した「付属池田小事件(平成13年)」をきっかけに、事件発生翌年の平成14年(2002年)に文部科学省によって「学校への不審者侵入時の危機管理マニュアル」が作成され、平成19年(2007年)には登下校時の犯罪被害への対応が追記されました。そして、平成21年(2009年)に学校安全計画及び危機管理マニュアルの策定を各学校に義務付ける「学校保健安全法」が施行され、子供たちの安全確保が急務であることがうかがえます。そして、命を守る行動の重要性を実感します。
学校の危機管理の現状
子供たちの安全確保には、学校関係者の危機管理意識と綿密な連携を要し、施設・設備(ハード面)と安全管理や体制(ソフト面)など実情に合わせ、総合的かつ具体的な対策を講じなければなりません。
では、どのような対策が実施されているのでしょうか。
1. 植え込みの伐採やブロック塀を撤去し、学校内外からの見通しを確保する。 2. 職員室や校長室の窓を大型化し、管理者の視認性を向上させる。 3. 門扉の施錠やカメラ付きインターホンを設置し、不審者の侵入を防ぐ。 4.来校者の動線・出入口の一本化と受付での記名・名札の着用を義務付ける。 5.防犯カメラと監視モニターによる防犯監視システムの導入。 6.防犯ベルの設置や防犯ブザーの携行で、早期の危険周知を図る。 7.独自の防犯マニュアルの作成や防犯ボランティアなど地域との連携を図る。 8.地元警察と連携した防犯訓練や侵入者迎撃用のさすまたなどを常備する。 9.学校、保護者・PTA、警察などが連携し、「子供110番の家」を設置する。 10.各自治体による「防犯マニュアル」の整備や訓練の実施、警察・消防との連携強化。
以上が、全国の幼稚園、小・中・高等学校などで実施されている防犯対策の代表事例です。わが子の通う幼稚園や学校では、どのような「防犯対策」が実施されているでしょうか。
危機管理における課題は防犯と相反する「地域に開かれた施設」という学校のもう一つの役割
学校における防犯対策の重要点には、不審者の侵入防止、不審者の発見と排除、不審者に備えた取り組み、学校・家庭・地域の連携が挙げられます。また、学校には「地域に開かれた施設」という、防犯と相反する役割があることを忘れてはなりません。
具体的には、不審者の侵入を防ぐために「門扉の施錠」「開放時の監視と立ち合い」、不審者の発見と排除には「動線の一本化」「巡回による監視」、不審者に備えた取り組みとして「さすまたや盾など器具の常備」「防犯訓練と通報要領の確立」、学校・家庭・地域の連携では「保護者や地域での見守り」「防犯ボランティアの協力」があります。
また、地元警察との連携も重要点の1つです。連携の代表としてパトロールの強化が挙げられます。制服を着た警察官の姿は、犯罪を企む者の目には脅威として映り、心理的な抑止効果を発揮します。また、実践的・効果的な防犯訓練や防犯教育でも警察の協力を得ることは重要です。
危機管理とは、日々更新される社会情勢に合わせ、進歩させなければなりません。そして、何よりも重要なのは継続することです。そのためには、犯罪・防犯情報の収集や定期的な点検と見直しを日常にすることが望ましく、興味を持つことが最良の対策と言えるでしょう。
予測できない有事に備え危機管理マニュアルで
学校保健安全法で定める「学校安全計画」には、教育・管理・組織活動に分類して整備することが記されており、「危機管理マニュアル」は、予防・備え・対応・回復と有事に沿った内容で構成されています。
子供たちを犯罪被害から守るためには、地域を含め学校を取り巻く実情に応じた実効性のある対策を講じなければなりません。
防犯対策において「防犯意識の拡充(教育)」は最も重要で、防犯教室など学ぶ機会を増やすことが必要です。また、安全を支える「体制作り(管理)」も欠かせません。犯罪行為は犯罪者の意思によってのみ実行されるので、想定外の無い計画と高い実行力が求められます。そして、計画を実行するためには「家庭や地域、教育委員会など関係機関との連携(組織活動)」が不可欠です。
では、どのように子供たちを守るのか?
その手法を具体的に記したものが「危機管理マニュアル」です。その内容は「危険の早期発見と点検(予防)」に始まり、万が一の事件・事故に対応できる「危機管理体制づくり(備え)」、即時対応を可能にする「役割を明確にしたマニュアル(対応)」、事態収拾直後から始まる「教育再開と再発防止対策(回復)」が明瞭に記されています。
事件・事故は、誰にも予測できません。被害を未然に防ぎ、規模を最小限に収め、迅速に復旧することが「危機管理」の役割です。そして、学校を中心とした危機管理は「地域社会の安心・安全」に大きく貢献するものと確信しています。
危機管理の3要素「犯行者」「標的」「機会」について
犯罪は「犯行者」「標的」「機会」の3要素で構成されており、この3つが交わった時だけ事件が発生します。つまり、3つのうちどれかを排除できれば、犯罪を未然に防ぐことが可能になります。「犯行者」と「標的」を特定するのは困難を極めることから、犯行の「機会」を奪うことに着目してください。犯行者に犯行の機会を与えないことが防犯の基礎です。
まず、見守りやパトロールなどで人の目を増やします(視認性の確保)。次に、清掃やあいさつなどの道徳意識で犯行者を遠ざける環境をつくり、看板や案内板の設置で相乗効果が期待できます(領域性の強化)。最後に、門扉の施錠やさすまた・盾などを常備することで安全を担保します(接近・侵入の制御)。
以上3点が「防犯環境設計」と呼ばれる防犯対策の基礎になります。
本質的に危機管理として重要なこと
子供たちの命を守る行動には、何よりも「危機管理意識の向上」が不可欠です。「意識の向上は難しい…」と考える方も多いと思いますが、「興味を持つ」と考えれば印象が変わるはずです。
また、「風が吹けば桶屋が儲かる」になぞられる、思いがけない効果にも気づいていない可能性が多々あるはずです。 例えるなら、子供たちに教える「寄り道をしない」では、規則的な行動が犯行者を遠ざけています。本来、子供たちの健全な成長を促すための「道徳教育」は、防犯教育(対策)にも直結しているのです。このように、見過ごしがちな日常から得る「気づき」こそが、危機管理に最も重要なポイントです。
見守りやパトロールにおいては、笑顔やあいさつ・声がけなどのコミュニケーションが重要です。また、防犯教育では親子で一緒に学ぶことが最良です。子供たちからの「思いがけない言葉」は、危険の早期発見に役立つことが稀ではありません。
まとめ
近年、子供たちが犠牲になる凄惨な事件が目立ちます。また、子供たちが加害者になるケースも見逃すことができません。私たち大人がつくる環境は、子供たちにどのような影響を与えているのでしょうか。前に進むことは重要なことですが、立ち止まって考えることも大切ではないでしょうか。子供たちの未来に良い影響を及ぼす環境づくりこそが、子供たちの命を守り、犯罪を減らす危機管理だと提言します。
(神田 正範/防犯コンサルタント)