女優の篠原涼子さんが、「スーパーハケン」大前春子に扮し、派遣社員の現実を描いたドラマ「ハケンの品格」(日本テレビ系)。前回の2007年から13年ぶりとなる続編が4月から放送されると発表されました。今回のドラマも、「働き方改革」「副業」「AI導入」など、現代の働く環境をリアルに盛り込んだ内容になるようです。
ちょうど4月から、働き方改革の一環で、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差を改善する「同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)」が施行されます。中でも、派遣社員の同一労働同一賃金を規定した「改正労働者派遣法」は、大手、中小など事業規模に関わらず、一斉にスタートします。
派遣社員の待遇はよくなるのでしょうか。また、「派遣切り」など、デメリットとなる可能性はあるのでしょうか。キャリアコンサルタントの折山旭さんに聞きました。
法的に正社員との均等・均衡待遇により手当や退職金などの支給も。まずは改正内容をきちんと理解することが大切
Q:派遣社員の同一労働同一賃金を規定した「改正労働者派遣法」とは、どのようなものですか? -------- 同一労働同一賃金とは、雇用形態にかかわらず、同じ労働に従事する者は同じ賃金を受け取るという原則です。改正派遣法では、派遣元事業者が、派遣労働者の待遇を決定する方法を制度化しています。
具体的には、下記いずれかの方式で決定されます。
① 「派遣先均等・均衡方式」 派遣先企業の正社員の待遇と同等以上に設定されます。派遣先企業は派遣元事業者に賃金についての情報を開示しなければなりません。
② 「派遣元労使協定方式」 派遣元事業者が、従業員の過半数からなる労働組合(または代表者)との間で、労使協定を結び、待遇を決定します。同じ地域で働く同一職種の正社員と、同等以上の水準に設定されることが条件となります。
①の「均等・均衡方式」では、派遣先企業に合わせますので、派遣先が大企業の場合は給与が高くなりますが、中小企業になった場合は給与が下がり、不安定になる側面もあります。このため、①の「均等・均衡方式」を原則としながらも、特例として②の「労使協定方式」を認めています。
ただ、①の「均等・均衡方式」は、派遣先企業と派遣元事業者(派遣会社)のパワーバランスなどの関係性や、派遣先企業が派遣元事業者に賃金についての情報を開示しなければならないことから、実現が難しい面もあります。このため、すでに②の「労使協定方式」を採用すると公表している派遣会社も出ています。
Q:実際に、派遣社員が期待できる待遇改善は? -------- 賃金の面では、賞与、手当(通勤手当など)、退職金について、前述の「均等・均衡方式」では、派遣先企業の正社員への支給があれば、派遣社員にも同様に支給されます。ただ、派遣先企業が変わるごとに、賃金の変動があります。
「労使協定方式」では、同一地域・職種の正社員の平均的な賃金が基準となります。
退職金は、
「① 勤続年数などで算出される一般的な退職金制度」 「② 時給に上乗せする『退職金前払い』」 「③ 中小企業退職金共済制度への加入」
のいずれかの方法で支給されます。
また、食堂や休憩室などの福利厚生施設の利用や、研修など社員教育についても、派遣先企業の正社員と同等に扱われます。
仮に、派遣先企業の正社員と待遇差があった場合は、派遣会社に対して、待遇差の内容や理由について説明を求めることができ、派遣会社は、待遇差の明確な理由を提示しなければなりません。
これまで正社員に退職金があり、派遣社員には支給がない場合、この法改正により派遣社員にも退職金が支給されることは、大きなメリットになります。とはいえ、このことを知らない派遣社員も多いため、派遣で働く一人一人が、改正後の制度をきちんと理解しておくことが大切です。
Q:施行後、派遣会社にはどのような影響がありますか? -------- 派遣会社は、人件費の負担が増加します。ただ、本来支払うべき適正賃金になるともいえます。賃金の上昇により、派遣社員の満足度やモチベーションアップにつながり、優秀な人材を確保しやすくなります。デメリットではなく、チャンスと受け止めて、体制を整えていくことが必要です。
資金面などで今回の法改正に対応できない派遣会社は、廃業したり、大手に吸収されたり、淘汰されるなど、大きく混乱する可能性があります。
Q:改正をきっかけにした「派遣切り」など、働く側にとって懸念されることは? -------- 派遣先企業でも、人件費の負担増となるため、「雇い止め」など派遣社員を削減する可能性はあります。パートや契約社員などを全員「正社員化」する企業があったように、雇用形態の一本化をはかる動きも出てくるかもしれません。
一方、派遣から個人請負に形態を変え、今回の法改正の対象に含まれないように偽装する派遣会社が出てくる可能性も考えられます。
派遣社員は派遣先企業の上司の指揮・命令下で働くことが可能ですが、請負契約では、それはできません。もし、形態が請負にもかかわらず、派遣先の上司が仕事のやり方を指図すれば、「偽装請負」ということで派遣法違反となります。
法律違反に問われると、悪質な場合は企業名を公表されて社会的信用を失墜させることになります。
Q:今後、派遣社員が求められる職種や業界は? -------- これからの時代に求められる派遣社員は、二つの可能性が考えられます。
IT業界やAIを活用する業界では、高い専門性を持つ派遣社員に活躍の場があります。一方、医療・福祉、農業など、ITやAIが普及してもダイレクトに「人の手」が必要となる業種でも、派遣へのニーズが高まるでしょう。
働き方改革により、労働の多様化が進んでいます。企業と労働者をつなぐ派遣会社が新たな役割を担うことが期待されます。
まず、企業が副業を認める流れから、複数の仕事を持つ人が増加するでしょう。ワーク・ライフ・バランスを大切にしたい子育て中の女性や、仕事以外のやりたいことを叶えたい人などには、時短勤務などが選べる派遣は、柔軟な働き方の選択肢の一つとなります。 特に、IT業界やWeb広告関連業界などでは、派遣先企業での就業と在宅ワークを組みあわせた派遣も増えてくるかもしれません。
次に、退職後や早期退職などで第二のキャリアを考えるシニア層にとっても、これまでの経験を生かして働くことができる派遣は魅力です。シニアに特化した派遣会社も、今後注目されるでしょう。
また、国内の人口減少による労働力不足を解決するため、外国人労働者を派遣社員として活用することも有効です。例えば、介護業界では、外国人労働者を雇用している企業があります。ただ、言葉の壁により、介護記録を残すなどの実務に支障をきたすケースもあります。今後、派遣会社で教育を行った人材を介護施設などに派遣できれば、スムーズなマッチングにつながります。
働き方の多様化が進む中、派遣という働き方の可能性は広がっているといえます。
(折山 旭/産業カウンセラー)