新型コロナウイルス感染症の感染者が、国内外で増え続けているなか、タレントの志村けんさんの訃報に、日本中がショックを受けました。所属事務所によると、志村さんは持病や基礎疾患はなく、数年前から禁煙していたと言いますが、もともと日常的に1日3箱ほども喫煙する愛煙家だったとのこと。長期に渡る喫煙が呼吸器疾患に少なからず影響を与えた可能性は否定できないようです。
折しも、4月1日から「改正健康増進法」が施行されたばかり。たばこの煙は本人だけでなく、その煙を吸い込んだ人の健康を害する危険性があることは、これまでも言われていましたが、受動喫煙の被害から人々を守るための対策が、さらに厳しいものになったようです。
延期が決まった東京オリンピック・パラリンピックが開催できれば、新型コロナウイルス禍を乗り越えた象徴として、日本は世界から注目されるはず。これまで以上に公衆衛生に敏感になりつつある社会で、今回の改正法を機に、日本の対策は世界レベルに近づくのでしょうか。臭気判定士の村井敏夫さんに聞きました。
WHOとIOCの求める「例外なき禁煙」には未だ届かず。「マナーではなくルール」と謳うなら、例外だらけではない対策を徹底すべき
Q:これまでの受動喫煙に対する取り組みは、どのようなものですか? -------- 喫煙による健康影響を防ぐための日本の受動喫煙防止対策は、2002年の「健康増進法」から始まっています。つまり、公共交通機関やオフィスなど様々な場所で受動喫煙対策が〝努力義務〟として盛り込まれ、原則屋外禁煙の条例が各地で始まりました。 店舗や施設では、それぞれ禁煙や分煙の取り組みがされましたが、対策はまちまちで、受動喫煙にさらされる機会が依然としてある状況が続いていました。
2016 年厚生労働省が出した「受動喫煙防止対策の強化について」によると、原則建物内禁煙(喫煙室設置可)としましたが、小規模のバー、スナック等は、喫煙禁止場所としないうえ、旅館・ホテルの客室、老人福祉施設の個室については制度の対象外としました。
他国では、屋内の喫煙についてはそれぞれ規制があるものの、屋外は基本的に喫煙可能です。 日本は、当初、屋外禁煙にしたために、屋内の喫煙については、なかなか全面禁煙に踏み切れなかったことは否めません。
Q:受動喫煙を防止する対策が、マナーからルールになると謳っています。「改正健康増進法」で、何が変わるのですか? -------- 「改正健康増進法」の大きな目的が受動喫煙の防止で、これまでより厳格なルールとなります。
多数の利用者がいる施設や旅客運送事業、船舶・鉄道、飲食店などの施設が屋内で原則禁煙になります。 学校・病院・児童福祉施設・行政機関などは、屋外を含めた施設全体が禁煙に。 また、屋内での喫煙には、喫煙室の設置と、標識掲示が必要になります。 20歳未満なら、来店客だけでなく従業員も、喫煙エリアへの立ち入りが全面禁止に。
ただ、「改正健康増進法」で例外とされる小規模飲食店の基準を、国は、「客席面積100平方メートル以下の店」としていて、東京都は、「従業員のいない個人経営の店」となっています。
Q:喫煙者や禁煙の規制対象の店舗などが、この法令に違反すると、どのような罰則がありますか? -------- 禁煙エリアに灰皿などを設置した施設管理者に50万円以下、禁煙エリアで喫煙した人に30万円以下の罰則もあり、都道府県知事らの指導や勧告、命令に従わない場合に適用されます。また、店頭の見えやすい場所に標識を掲示しなかったり、紛らわしい標識の掲示、汚損などは指導の後にすぐ罰則の適用となることもあります。
Q:これまで分煙などの対策を講じてきた飲食店などに、どのような影響がありますか? -------- 小規模店舗などは、喫煙ルームを設置するスペースや経済的な余裕もないため、結果的に全面禁煙となります。またその場合の届け出などの必要はありません。 その点、規模の大きな、例えば全国チェーンのカフェや飲食店なら、喫煙ルームを設置することも可能で、喫煙者は当然そうした店舗に流れてしまうでしょう。 既に小規模店舗の来客数に影響が見られていましたが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下にある現時点では、それどころではないかもしれません。
今般の営業自粛要請でもそうですが、こうした取り決めの際に、どこまでが対象になり、例外はどこまでなのかがわかりにくく、その結果どうしても小規模店舗にしわ寄せがくるということが、何より問題ではないでしょうか。
Q:東京オリンピック・パラリンピックが予定通り来年開催できれば、コロナ後の世界平和の象徴として、全世界から注目されることになります。今回の改正で日本の受動喫煙防止対策は世界の基準に近づくのでしょうか? -------- 世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピック憲章で「たばこのないオリンピック」を共同で推進することを掲げています。 しかもIOCが求めているのは、オリンピックを契機に、開催期間中だけではなく、それ以降の社会基盤として残すことです。
日本を除く近年の競技大会開催地及び開催予定地は、公共の施設や職場について、罰則を伴う受動喫煙防止対策を行っています。過去開催都市のロンドン、リオデジャネイロにおいては、会場のみならず、関係施設・ホテル宿泊施設等については建物内全館禁煙としてきました。喫煙大国の中国でさえ、北京オリンピックの際には、大規模な啓発活動と法規制を行いました。
WHOとIOCが日本に要望する「例外なき禁煙」からは、今回の改正をもってしても、ほど遠いと言えるでしょう。 今回の改正で、国が「マナーではなくルールに」と言うなら、例外だらけではない有効な受動喫煙防止対策を徹底すべきだと思います。
(村井 敏夫/臭気判定士)