結婚を考えているカップルのうち、入籍や結婚式の前に同居を始める人が増えているようです。一昔前の同棲のイメージは、「責任逃れ」「覚悟が感じられない」「けじめがない」など、マイナスイメージの方が大きい傾向がありました。特に妊娠の可能性がある女性はリスクが大きく、社会的に保障されない状況に嫌悪感を抱く親世代は依然として多いかもしれません。
実際、結婚準備を落ち着いて進められるといった理由で、カップルのどちらかの家に住む、あるいは新居を借りるなど、婚約期間に一緒に住み始め結婚に進むことは、珍しいことではなくなっています。また、将来的に結婚はしたいけれど、実際の生活が破綻せずできるのかどうかを見極めるために、あえて同棲期間を設けるというカップルも増えています。
結婚後のモラハラやパワハラが社会問題にもなっている昨今、お互いの愛情に疑いを持っているわけではなくても、できることなら、そうしたリスクは回避したいという現実的な意図もうかがえます。「一緒にいると楽しいから」「ただなんとなく」という成り行きではなく、堅実なカップルこそが選択するようにも見えるイマドキの同棲。幸せな結婚生活ヘのステップとなるのでしょうか。婚活&キャリアコンサルタントの自念真千子さんに聞きました。
堅実世代の同棲はモラハラ・パワハラのチェックの意味も。同棲前の両家顔合わせ「プチウエディング」が幸せな結婚生活へ大きく近づくポイントに
Q:女性の社会進出が進み、晩婚化も話題になって久しいですが、若年層の結婚願望はここ数年、高レベルで推移しているようです。コロナ禍による結婚観の変化はありますか? -------- 現在の若年層を取り巻く環境は、一昔前のように「就職すれば、とりあえず安心」という時代ではなくなっています。キャリア志向が進む女性においては、「できれば20代のうちに結婚・出産をし、早い段階で社会復帰をして自分のキャリアを大切にしたい」という、明確なライフプランを持つ人がほとんどと言ってもいいでしょう。
2019年新成人の「恋愛・結婚」に関する意識調査でも、将来結婚したいと考えている人は約8割で、そのうちの8割以上が「恋愛結婚をしたい」との回答結果があります。晩婚化と言われつつも、30歳前後には結婚へ踏み出したり、婚活を考えたりする人は少なくないという印象です。
さらに、コロナ禍では、人との接触を避けることが感染予防のポイントとされました。多くの人が外出自粛で孤独を感じたり、生活に不安や恐怖を覚える一方、大切な人と過ごすことの意味を痛感したはずです。
「このままずっと一人で生きていくのだろうか」「この人とこのまま一緒でいいのだろうか」といったさまざまな考えを、より現実的なものとして受け止めはじめ、人生設計を顧みるきっかけとなったのではないでしょうか。
Q:入籍のタイミングはカップルの事情によってさまざまですが、一昔前のように結婚式や一緒に住み始める時とほぼ同時ということが必ずしも一般的ではなくなっているようです。世代間の結婚観に、どのような違いがありますか? -------- 過去20年ほどの傾向を見ると、恋愛結婚だけでなく、私どものような結婚相談所を介して成婚に至ったカップルでも、入籍や結婚式を待たずに同居を始めるということが一般的になっているのを実感しています。入籍3年以内の既婚者のうち半数近くが、入籍前に同居を始めたという調査結果もあります。その期間はおおむね1カ月~1年と、決して長いものではなく、結婚式の日取りを決めて、それまでのいずれかのタイミングで始めることが多いようです。しかもこの傾向は、一人暮らしかどうかに関わらず、双方ともが実家暮らしであっても、大きな違いはないようです。
結婚に関する考え方は、世相を色濃く反映するものです。世の中が経済的に厳しい時代しか知らずに成長した、現在20代~30代前半の「ゆとり世代」は、仕事よりもプライベートを重視、物への執着が薄いというほかに、堅実で争いを好まず、現実的という傾向があります。
この世代は、結婚式にしても、たとえば、ごく小規模なパーティーなど「地味婚」を選ぶことが多く、中には「結婚式はしない。それよりも新生活の充実に重きを置きたい」という声もあるようです。そう考えると、バブル期を知る親世代とは、結婚のイメージにズレがあるのは仕方がないのかもしれません。
Q:結婚の意思を固めているにも関わらず、あえて同棲期間を設けるのは、結婚や結婚式の準備をスムーズに進められるということのほかに、どのような意味がありますか? -------- 結婚は、自分自身では予測のつかない未知の経験です。進学や就職は、自分で選択してきたように見えて、そこには成績や世間的なランキングなど、ある程度の相対的評価のデータがありました。
ところが、恋愛や結婚は初めて「ゼロ」から自分で作り上げていかなければなりませんし、人の幸せを測る評価の基準もありません。しかもその作業は、自分一人だけではどうにもならないものです。「堅実で争いを好まず現実的」といった世代が、自分の家族以外と親密な関係を築くために、最も合理的な方法を考えた結果、入籍前の同棲を選ぶのは自然な流れかもしれません。
また、「離婚」についての認識も、以前は「人生経験の一つ」「ステップアップの手段」という捉え方もありましたが、この世代にとってはマイナスイメージの方が強いようで、できる限り回避したいという思いがあるようです。「入籍する」ということに重みを感じていて、同棲は、そこに向けての入念な準備期間と捉えています。親世代が同棲に対して感じるような、責任回避や安易な逃げ道というだけのものではないのです。
Q:より大きなリスクを伴うように思われる女性のほうにも、明確な意図があるのでしょうか? -------- 交際中は、自分をよく見せようとするものです。特にこの世代は争いを好まず、お互いに少しがまんして相手に合わせているのですが、結婚生活となるとそうはいきません。男女ともに、結婚生活をシミュレーションして、お互いの本来の姿を確認したいという現実的な意図が大きいようです。
女性もキャリアを重視するとなると、お互いの家事や経済的な分担も簡単ではありませんし、そのための価値観のすり合わせにも、それなりに時間がかかりそうです。恋愛中には気づかなかった相手の一面を厳しく観察する意味もあります。モラハラやパワハラといった、結婚後のトラブルにつながる大きな要因は、同居してみなければなかなか見えてこないものです。
近年の傾向として、女性のほうが厳しく見極めたいのは、こうしたDVの傾向や性癖、偏った趣味趣向などではないでしょうか。
Q:同棲期間中に関係が悪化するなど、懸念されることは? -------- 実際、結婚相談所を介して婚約に至ったカップルでも、同棲期間中に結婚まで至らないケースが1~2割程度あります。恋愛と結婚の間に、よく言われるような「ちょっとした違和感」が大きくなったこともあれば、お互いの家族に抱く違和感など、本人以外が要因の場合もあります。
また、特に男性のほうに結婚に対する覚悟が少なければ、「結婚への準備期間」という意識が日々の気楽さの中に紛れ、結婚をすることの意味が薄れていきます。妊娠の可能性もある女性にとっては、不利益を被るリスクもあるうえに、社会的な理解を得にくいということも、少なからずあるかもしれません。
中でも、どちらかが一人暮らしをしているなど、結婚の意思や同棲期間を確認しないまま安易に暮らし始めると、ただいたずらに時間だけが過ぎてしまいます。こういった状況は、お互いの人生設計に有益とは言えません。着地点を共有しない同棲は、前向きな同棲とは別のものとなってしまいます。
Q:同棲を結婚へと進む現実的なステップとするために、欠かせない心構えと準備は? -------- 結婚という明確な目的と覚悟があることを、まずはお互いの両親に宣言すること、これに尽きるかもしれません。同棲の期間、結婚へのタイムスケジュール、同棲中のルールなど、あらかじめ決めておいた方が良いポイントはいくつもありますが、それよりもまず、この段階で両家の顔合わせができれば理想的です。
いわば「プチウエディング」のようなものが、同棲を「結婚へと進むための準備期間」という位置づけに、より近づけるものになります。たとえ具体的なことが決まっていなくても、そこである程度の話は進みますし、特に男性にとっては、覚悟を決めるきっかけになります。平和な時代に育った世代は、自分たちだけで幸せになろうというよりも、お互いの親兄弟とも「いさかいなく付き合っていきたい」と考える人が意外に多いようです。
逆を返せば、自分の愛情に自信がないと、家族の印象に少なからず影響を受けてしまうこともありますが、いずれにしても、両家が顔を合わせることで、結婚後の親との距離感をイメージしやすくなります。場合によっては、どうしても婚約を解消せざるを得ないことになるかもしれません。その勇気も必要ですが、見極めを長引かせないためにも、このプロセスを大切にしてほしいものです。
(自念 真千子/キャリアコンサルタント)