突然、仕事や職場がなくなるという想定外の事態に直面し、働く人の多くが危機感を覚えています。働き方改革により、サラリーマンの副業・兼業への意欲が高まる中、いくつかの本業、収入源を持つ複業・パラレルワークという働き方に注目が集まっているようです。
特に、コロナ禍で家事や育児の負担が増えたうえに、「パート先の休業などで職場を失う」といった経験をした女性を中心に、多様な働き方を模索する動きが活性化しています。そこには、一つの職場や一つの収入源に依存しないというリスク回避の目的だけでなく、女性のライフワークバランスの考え方に、ある変化が起こっているようにも見えます。
主婦パートの不安定な働き方に疑問を持ち始めた人が、今からでも、自分の裁量で自由に働くことは可能でしょうか?また、特別なスキルや準備は必要でしょうか? 女性起業支援アドバイザーの橋本かんなさんに聞きました。
パラレルワークとは時間の切り売りではなく、もう一つ輝けるステージを増やすこと。理想の未来は自分が作るという意識と家族の理解が大きな力に
Q:「働き方改革法」施行前後から注目され始めた「パラレルワーク」ですが、副業やダブルワークとどのような違いがあるのですか? -------- 人生100年時代、「生涯にわたり同じ企業で仕事をする」という人が、少なくなりつつあります。雇用形態に関わらず、本業以外の仕事で収入を得る副業や、複数の本業を持つ複業、アルバイトの掛け持ちのようなダブルワークなど、さまざまな働き方があります。話題になっているパラレルワークにしても、明確な定義が確立されているわけではないようです。
個人的には、パラレルワークは単なる働き方のパターンというより、生き方の選択肢の一つと捉えています。たとえば子育て世代の女性なら、母親でもあり妻でもあることを考えると、複数の重要な役割を担っていると言えます。さらに年齢を重ねるごとに、PTA、地域活動などのメンバー、介護者と、それぞれ重要な立場を兼任するようになります。
仕事を持つ女性が、自分自身で人生をプロデュースしたいという欲求をさらに強めたとき、次のステップへ踏み出そうとます。その中に、「もう一つの仕事」という選択肢があると思います。
今の仕事のキャリアをあきらめずに、「自分が輝ける、また別のステージへ上がる」、そんなイメージを持つ人こそパラレルワーカーと呼びたいと考えています。つまり、仕事をしながら、趣味など好きなことをするだけでは満足せず、自分がやっていることにビジネスとしての価値、その可能性を見いだし、軸足をどちらに置いても自立できるレベルを目指す。
社会との関わりの中で、自分を高めていく女性の生き方が、大きな意味での「パラレルワーカー」と言える気がします。
Q:女性が、ひとつの職業に限定しない働き方を選ぶのには、どのような背景がありますか? -------- 残念ながら、働き方改革が進んだとは言え、女性、それも経験値の少ない若年層の能力を正当に評価して仕事を任せる企業風土は、日本ではごく一部にしか見られません。少し厳しい言い方ですが、企業というのは一人一人の従業員のやりたいことを実現するために存在しているのではなく、企業がその企業目的に添って利益を出すための場所なので、チャンスが平等に与えられないのは致し方ないとも思います。
女性起業家支援の講演会や相談に来られる、20代~30代の独身女性の多くから、「仕事にやりがいを持てず、順調にキャリアを積んでいけるのか不安」という声が聞こえてきます。「仕事のやりがい」「自分の成長」は、人生の満足度に密接に関わるので、それを求めるのも自然なことです。
自分が思う働き方と現実とのギャップを埋めるために、もっとチャレンジできる方法はないのか、起業を含めて学びたいという願望が感じられます。ライフスタイルの多様化や、経済的な不安要素も多い今、彼女たちは結婚や仕事、働き方をフレキシブルに探ろうとしています。「生活の安定と挑戦を両立したい」と悩んだその先に、パラレルワークという働き方が見えてくるのかもしれません。
Q: 40代以上の女性を中心に、本業やアルバイトなどと並行して新たなキャリアに関心を持つ人が、在宅ワークをその手段と考える傾向があるようですが -------- 企業に勤めている40代以上の女性が、起業など別のキャリアを考える場合、若年層と同じように、「評価されていない」「やりがいを感じない」などのほかに、「培ったスキルをもっと生かしたい」「好きなことで収入を得たい」と、セカンドキャリアを求めることが多いようです。
体力の衰えを感じる年齢でもあり、ライフステージも変化してきます。特に経済活動が不安定な時代には、できることから始めるとなると、在宅ワークは有用な手段と言えるでしょう。ただ、ともすれば、キャリアアップどころか、時間の切り売りのような働き方になってしまう可能性があります。何ができるのか、どういったことに興味があるのかという模索期間なら仕方ありませんが、大切な時間や労力を費やすのであれば、キャリアにつながりにくいような働き方は、なるべく避けたいものです。
今は、求人サイトや在宅ワークの仲介業者など、誰でも簡単に新しい仕事を在宅で始められる環境が整っています。それはそれで、選択肢を広げたり、子育てや介護などをしながら仕事ができたりと、有効な働き方ではあります。
前述のように、キャリアアップや理想のライフスタイルを実現したいという思いが強いなら、常にその仕事が、これまで培ったスキルを生かせるものか、好きなことで対価を得るためのステップとなるかを、見極めていく必要があるでしょう。
Q:在宅ワークに限らず、起業や別の仕事を始めるにあたって、仕事のスキルや求職方法などのほかに、どのような準備が必要ですか? ------- 家庭を持つ主婦が新しいことを始めようとするとき、何より押さえておかなければならないのは、家族への説明と理解を得ること。これに尽きるかもしれません。家庭の中で大きな役割を担う女性だからこそ、複数の仕事を持つことで不便を強いられる家族に、「ひとりよがりのワガママにすぎない」と取られてしまうと、望んでいたような結果にはつながりません。家族が納得して応援できるような、客観的・論理的な分析や資料、専門家の意見、実例、収入見込み、展望など、できる限りたくさん集めて提示しましょう。そして、家族と夢を共有しましょう。
この準備の過程は、自分自身の思いを「現実的なもの」と再認識することにもつながります。「新たなステージを得て輝くことができる」「多少は不便だとしても、その分経済的に潤う」など、家族全員にとってのメリットをも共有することは、夢の実現の大きな原動力になります。
Q:ウイズコロナの時代に突入していきます。理想のワークライフデザインの実現を求め続けることは可能ですか? -------- 夢や理想を、現実的な仕事やキャリアにつなげていけるかどうかのポイントは2つあります。
まずは、ビジネス的な感覚を育てること。女性の多くは、お金やビジネスの面から考えることに、苦手意識を持っています。ぼんやりと思い描いていることを形にしたいなら、少なくともビジネスの視点を持つための意識が必要です。
加えてパソコンやスマホ、SNSなどのITの知識は、ウイズコロナの仕事には欠かせないものになりますし、パラレルワーカーや起業の近道となります。たとえば「自分の好きなものだけを扱うショップを開店したい」「クリエイティブな仕事をしたい」「今までの経験を生かした講師やアドバイザーになりたい」など、さまざまなことが、ウエブ上なら最小限のリスクで実現できますし、こんな時だからこそ、需要も高まっています。
以上のことは、少しの勇気がありさえすれば、いくらでも学んだり、相談したり、行動に移せる時代です。コロナをきっかけに、仕事や生き方についての考え方が変わったという人も多いでしょう。せっかく新しい一歩を踏み出すのであれば、その思いを大切にしたいものです。それは、必ずしも大きく人生を変えるというような、一大決心でなくても構いません。具体的なことが何も決まっていない人は、自分に何ができるのか、自分が興味を持てることは何かなどを思いつくまま書き出してみましょう。そこに、新しいステージが見えてくるはずです。
今は、国や会社、夫があなたを守ってくれる…という甘い時代ではありません。「明るい未来は自分が作る」という当事者意識と、理想の自分をあきらめないことが、一番の成功の秘訣だと思います。
(橋本 かんな/女性起業支援アドバイザー)