連日ワイドショーをにぎわせた芸能人や政治家の謝罪会見。なぜかいつも「見てスッキリした」となりません。一方、社会現象にもなったTBS系ドラマ「半沢直樹」では、前回シリーズの土下座シーンに続き、2020年版でも「わびろわびろわびろ~」が大きなインパクトを残しました。他人が謝罪するシーンは、ドラマでも実生活でもなぜか心がザワつくもの。謝罪をプレッシャーに感じる人向けに、「謝罪代行業者」まで登場するほどです。
ビジネスシーンでは危機管理のひとつとして、社外的な謝罪について事前に対策を講じている企業は少なくありませんが、同じ部署内やチーム内ではどうでしょうか。家庭内では意地を張り、パートナーや子どもに自分からは謝らないということも多いでしょう。しかし、職場では「上司の指示が的確でなかったせい」「他の人のミスが原因なのに」といった不満を残しながらも、謝らなければならない場面もあります。
モヤモヤを残さず、人間関係を修復したり仕事のステップとなるような謝罪とは?チームビルディングコンサルタントの土屋佳瑞さんに聞きました。
「相手の怒りをしっかり受け止めること」が謝罪の原点、それは日々のあいさつと同じく相手の存在を認めるということ。コミュニケーションスキルを上げる訓練は、自分の思考タイプを知ることからはじまる
Q:職場で個人のミスによってトラブルが発生した場合。事態を収拾する過程で謝罪のしかたを間違えると、その後の業務のモチベーションに関わることがあります。どのような点が問題なのでしょうか? -------- 職場では、個人レベルから対外的なものまで、大小さまざまなミスが発生します。トラブルが起きたとき、案件ごとの対処法が適正かどうかとは別に、チーム内など組織の中で気まずくいたたまれない雰囲気が広がって、人間関係が悪化するなど、その後の業務に影響を及ぼしてしまうことがあります。
謝罪を伴うようなケースでの問題点については、大きく分けて2つのポイントがあります。
まず、自分の明らかな失敗について部下が上司に報告、謝罪をする場面で、双方にマイナス感情が残ってしまうような場合。こういったケースでは、そもそも2人の関係性に問題があることが多いようです。日頃から会話が少なく、「相手の考えていることがよくわからない」といったコミュニケーション不足が主な問題点ですが、「上司に柔軟性がなく話しかけにくい」「部下は感情表現が苦手」など、世代間ギャップや個人的な相性が原因になっていることもあります。
次に、「組織として円滑に業務を進めたり、情報共有ができていなかった」など、個人のミスが構造上の不具合に起因する場合。情報管理や伝達の仕組みに潜在的な課題を抱えている状況では、誰もがミスしやすくなってしまいます。組織・業務体制そのものがミスを生む環境では、チーム全体に「自分だけのせいではないのに」「彼が素直に謝罪できないのも無理はない」というような空気が流れてしまいます。
仕事上のトラブルは、今後の改善ポイントが明確になるチャンスでもあるので、そこで人間関係が悪化してしまうのは避けたいものです。課題解決のためには、個人で改善できることと、組織全体で取り組むべきことに分けて考える必要があります。
Q:謝罪を伴うトラブルに際して、部下へのフォローがおろそかになる場合があります。指導的立場の人が注意すべきことはありますか? -------- 部下が対外的なミスをした際、責任者が本人に同行して先方へ謝罪に行く場合があります。先方への謝罪については、それぞれの企業でマニュアルなどがありますし、担当者から十分な事実確認の情報を得ておくこと、改善案や今後の対応策を用意するなどの基本は、どの企業でも押さえているはずです。
慎重になるべきなのは、むしろ組織内への対応のほうではないでしょうか。
部下の失敗の後始末をするために、息詰まる場面に出なければならなくなったことを感情的に捉えてしまっては、組織内で「リーダーとしての資質に問題がある」と認識されてしまいます。トラブルが起きたときは、部下との日常的な関係性の良し悪しが露呈するものです。事情をくまず一方的に叱責することはもちろん、過去の失敗を持ち出して再び厳しく指摘するなどは、どちらにとってもあまり良い結果とはなりません。
経験の浅い部下にとっては、自分のミスで上司が真剣に謝罪する姿を見ることは、仕事に向き合うための刺激にもなるでしょう。
なお、場合によっては上司の指示ミスが原因になることもあります。職歴が長くなると、リスクを指摘されたりアドバイスをされたりという機会が少なくなります。こうした中で起きた自分のミスを素直に認めることは当然ですし、間違っても「自分も悪かったが、君も悪い」などとは言うべきではありません。
Q:職場で人間関係を危うくするような感情の行き違いがあるとき、冷静に対処できるように日頃からできることはありますか? -------- 前述のように、「日頃から十分なコミュニケーションがとれるよう、組織内のメンバーそれぞれが個人で意識する」「業務管理上の構造を見直し、情報共有できる仕組みに改善する」などは、通常の仕事の効率アップにおいてもごく基本的なものです。
人によってコミュニケーション能力に差がありますし、世代間ギャップや立場の違いがフランクな日常会話の妨げになっていることも多いかと思います。特に、経験の浅い20~30代前半の若年層は自己表現があまり得意ではなく、マイナス感情すらあまり表に出さないため、他の世代から理解されにくいという特徴があります。「ミスを指摘しても、謝罪どころか反省すらしているのかどうかわかりにくい」「それほど負担に感じていないのかと思うと、突然出社しなくなる」というケースが多いのも、この世代です。
一方で年長者はとかく「大の大人が軽々しく謝るものではない」「若輩のほうからわびるものだ」などと思いがちです。
指導的立場の人は、こうした世代の特徴的な傾向を知りつつ、日頃からギャップを埋めるためのこまめな声掛けをするなどの努力が必要です。
Q:「上手な謝り方」などは本来考えるべきではないかもしれませんが、ビジネスマナーのように、謝罪の場面を乗り切るためのトレーニングなどはないのでしょうか? -------- 多様化と変化のスピードが速い現代は、現場ごとに解決しなければならないことがたくさんあり、コミュニケーション能力が重要なビジネススキルであることは言うまでもありません。これまで述べてきたように、謝罪もコミュニケーションの一つですから、その意味では相手に謝罪の気持ちが伝わりやすい方法を知り、対策を考えることが大切です。
ビジネスコーチングでは、個人の思考スタイル(利き脳)を可視化し、その特性を知ることでビジネススキルの向上につなげるためのツール「ハーマンモデル」を用いることがあります。まずは「得意・不得意」や「好き・嫌い」といった人の「ものの見方や考え方の傾向」を4つのタイプに分け、自分にどのような特性があるのかを知ります。
【ハーマンモデルの4タイプ】 Aタイプ(論理・理性脳)…冷静、事実重視、数学的、技術的 Bタイプ(堅実・計画脳)…慎重、計画的、秩序を重んじる Cタイプ(感覚・友好脳)…感受性が強い、人間関係重視 Dタイプ(冒険・創造脳)…直感的、冒険、挑戦を望む
たとえば感覚的な傾向が強い人は、他人の気持ちに敏感な特性があります。相手の表情や言葉に合わせてアイコンタクトや相づちが自然にできるため、上手な言い回しができなくても、「ごめんなさい」だけで相手に伝わるものがある場合も。一方理性的で常に冷静な人は、感情的になることなく合理的に解決をすることに長けていても、批判的な視点が表面に出やすいため、謝罪の言葉が本心と思われない場合があります。
実際のケースはこれほど単純なものではありません。たとえば他人の気持ちに寄り添い過ぎて、自分の仕事がおろそかになるタイプや、仕事も対人関係もそつなくこなせるが、共感のひと言が足りないなど、その人の特性はそれぞれのシーンによって、良くも悪くもなり得るのです。
Q:家庭内でも、自分に非があるのにパートナーや子どもに素直に謝ることができないという人が多いようです。悪感情を長引かせないための心得などはありますか? -------- 子どもが原因のトラブルやご近所トラブルなどで、謝罪に出向くことはよくあります。子どもの話をよく聞いて事情を把握するなど、ビジネスシーンの対処法で参考にできることもありますが、子育てという点においては、また別の観点から慎重に考えるべきこともあります。
わが子への関わり方の程度はどうあれ、子どもの保護者として、起きたトラブルに対してきちんと謝罪するのは当然ながら、同時に子どもの気持ちに寄り添うことも忘れてはなりません。親のそうした姿を見せることは、子どもの成長過程でも大きな学びになるでしょう。
夫婦げんかでは、どちらもなかなか素直に謝れません。親しい仲ほど、自分に非があるとわかっていても言葉にするのは難しいものです。日頃から家族間の会話が多い家庭では、「ごめんなさい」の言葉も比較的自然に出るようです。「おはよう」「ただいま」「ありがとう」は、お互いの存在を認めているというサインでもあります。家族のコミュニケーションのベースとして、あいさつほど大切なものはありません。
どのような謝罪シーンでも、相手に不利益や悪感情を与えたという点において、心から謝罪するのは基本中の基本です。
怒りが収まらない大きな理由の一つに、その怒りが謝罪している本人にしっかり届いているのかが実感できないということがあります。謝罪の言葉や弁解、巻き返しの方法を考えること、謝罪スキルを磨くことなどよりも、まず「怒りをしっかりと受け止める」、このことなしに、相手との関係が修復できるということはありません。
(土屋 佳瑞/人材コーディネーター)