昨年、某迷惑系ユーチューバーが逮捕されたというニュースが流れ、これまでの迷惑行為もクローズアップされました。この人はどの段階で誤学習をしてこういった迷惑行為に至ったのか?それを修正する人や機会はなかったのでしょうか?
誤学習はどんな人にも起こりえます。誤学習によっては事件にまで発展することもありますが、多くは日常生活範囲内で留まります。当然、発達障害のある人にも誤学習はあり、問題行動に移行するケースも多々あります。長年特別支援教育に携わっている者としては、誤学習はかなり身近な問題です。
※これから書くことは、全ての発達障害のある人に当てはまるわけではありません。同じ診断名でも、誤学習や修正の仕方は人によって異なりますことをお含みおきください。
■誤学習とは?
学校の先生が授業で間違ったことを教えてしまい、それを生徒が覚えてしまった。誤学習と聞いて、そのようにイメージされる方もいるのではないでしょうか。広義な意味ではこれも誤学習です。
しかし、ここでお話しする誤学習とは、『自分にとって都合の良い風に解釈した学び』のことを指します。自分にとって都合の良い解釈というのは処世術として活用できますが、自分や周りの人達に不利益が生じることもあります。そんな不利益が生じた時に誤学習していると判断できます。
よく聞く事例として、店前で子供が泣くからおもちゃを買い与えた。すると、他の店でも同じように泣くようになった。泣いた事で得した子供は、泣けば買って貰えると誤学習してしまったのです。誤学習というのは誰もが起こりえることで、決して珍しいことではありません。
■何故誤学習をしてしまうのか?
誤学習をしてしまう最たる原因は『自分の起こした行動が自分にとって有益であると感じること』にあります。迷惑系ユーチューバーは迷惑行為によって炎上しますが、結果的に多くの人達の注目を浴び、お金を稼げます。また、色々な人達と出会うキッカケにもなり、承認欲求も満たされます。
発達障害のある人もそういった原因がほとんどですが、発達障害の中のADHD(注意欠如・多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)には、他にも誤学習の原因になりえる要素があります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)は集中力がない、注意を持続するのが苦手、気が散りやすい等の特徴があります。そのため、ある事象をパッと見聞きしただけでこういう事かと自己完結してしまい、その結果誤った学びに繋がることがあります。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の場合は、ある事象をしっかり見ているものの、見ている部分が局所的なために、全体像を把握しきれていないことがあります。また、見聞きした情報を真に受け過ぎて誤学習してしまうこともあります。
■発達障害のある子供の誤学習を防げるのか?
ひだち教室に相談に来られる保護者の多くは、我が子の問題行動や失敗経験の多さに頭を悩まされ、心身共に疲れています。問題行動にどういう対応をとればいいか、どうすれば失敗経験を減らせるかと尋ねてこられます。
問題行動や失敗経験の原因は様々ですが、誤学習が原因というケースはよくあります。誤学習をしないよう、その子に合った学び方を提供しているつもりが、結局はどこかで誤学習をしていて、「なんで?」「そんなことも分からないの?」と無力感にさいなまれた経験はないでしょうか?
予測できることなら誤学習を防げるかもしれませんが、予測できない範囲で誤学習をしていることが多いので完璧に防ぐことはできません。しかし、修正を図ることはできます。
■ASD(自閉症スペクトラム障害)の中学生の誤学習と修正
ひだち教室の課外活動(外での活動)での出来事です。 10人程度の生徒達を連れて、三重県で忍者修行体験をしていました。木々に括り付けられたロープを忍者のようにして渡るという修行があったのですが、なかなか難しく、多くの生徒達は渡ることが出来ませんでした。最後に私が渡ろうと試みたものの大失敗。生徒達は大爆笑しました。
大爆笑のまま、次の修行場に行こうとしたその時、A君はニコニコしながら私のもとに近寄り、「そんなんじゃダメでしょう!」と眩暈がするほどの強烈なビンタを私にしました。私はあまりのことに思わず注意をしましたが、A君は「なんで怒られるの?」といった表情をして凹んでしまいました。
A君は普段から皆を笑わせたいと思っており、笑わせるためにテレビでお笑い番組を見ます。番組内で芸人がツッコミとしてバチーンと頭等を強く叩いている様子を見て、強く叩けば笑ってもらえるのだとA君は学びました。見聞きした情報を真に受け過ぎるという、ASD(自閉症スペクトラム障害)の特徴が起因の誤学習です。
今回のような誤学習の修正を図る上で大切なのは、正しい認識と実践経験です。 ・芸人のツッコミはプロ仕様だから強く叩くのは間違いと説明 ・相手が怒らず、皆が楽しいと思えるようなツッコミの練習をする ・TVで学んだことを実践する時は、まずは私で試す A君は間違いを指摘された上で練習をしたことにより、正しいツッコミの仕方を学びました。また、私を練習台にしたことで実践経験を積むことができたため、クラスメイトに対して強いツッコミをすることはありませんでした。
■ASD(自閉症スペクトラム障害)の成人の誤学習と修正
釣り好きのB君は課外活動で海釣りを希望したので、夜遅くに海釣りをすることになりました。秋で、しかも午前3時。海風が強く吹く釣り場は非常に寒くて、暖かい服装でないと風邪をひいてしまうので、行程表の持ち物欄の中に『防寒着』と書きました。事前にどういう物かをB君に確認をとったところ、「分かる」ということだったので、それを信じて活動当日になりました。
B君がカバンの中から取り出したのはフードのついた薄手の長袖の服でした。今回の釣り場が非常に寒いのは伝えていますが、それは意識していません。B君なりに学んだ防寒着を持ってきたのです。釣りは暖かくなるまで我慢せざるをえなくなりました。
B君は防寒着=フードのついた長袖の服と誤学習していました。どこで学んだかは分かりませんが、これまでの生活で自ら学んだものだと推測されます。こういった誤学習の修正は、一緒に服屋へ行き、色々な種類の服を触りながら説明すると理解しやすいです。B君は私と共に店へ行き、防寒着に該当するものに触れながら説明を受けたことで、学びなおすことができました。
■誤学習の発見と修正方法
子供がどんな誤学習をしているか、家庭内では気づきにくいものです。行動がある程度パターン化されているからです(慣れていない作業を除く)。しかし、外に出かけると発見できることが多くなります。外では予想外なことが起きる確率が高く、表面化しやすいためです。実際私は生徒達の誤学習を数多く目の当たりにしていますが、そのほとんどが外での活動中です。
誤学習の発見と修正はセットで行うのが理想。発見してから可能な限りすぐに修正を図る方が良いです。では、そのようなことを保護者に求めるべきかというと、私は求めるべきではないと思っています。保護者は日々の生活でストレスを抱えています。修正するとなると、保護者も子供も感情的になってしまって、せっかくの修正チャンスを逃してしまう可能性が高いからです。 そこで私は下記のことを提唱・実践しています。
・支援者や教育者など、その人に影響力を及ぼせる人物が修正を図る ・保護者は誤学習の発見を優先にする(修正は無理ない程度で) ・外で多種多様な活動をする ・間違い部分を明確に指摘(説明)する ・体験を通した学びの機会を設ける(あえて失敗体験をさせて誤学習に気づかせることも) ・実践経験を積み理解を高める
再度申し上げますが、誤学習を完璧に防ぐことはできません。しかし、修正を図ることは可能です。保護者自身で何とかしようとするのではなく、修正してもらえる人や場を探してみてはいかがでしょうか?そういう人や場があるだけで心にゆとりを持てるようになり、子供との関係も良くなります。
(安藤 和行/ひだち教室長)