■肉離れって筋肉のどこが切れるの?
「肉離れ」とは、筋肉が部分的に切れた状態を指します。医学的には「筋損傷」と言い、筋肉が完全に切れてしまうと「筋断裂」と言います。筋肉は全身に600を超える数があり、骨格筋、心筋、内臓筋に分類されます。肉離れは、「骨格筋(こっかくきん)」に見られる現象です。骨格筋は別名「随意筋(ずいいきん)」と言われ、意識的に筋肉を収縮させる事が可能です。そのため、関節を自由に動かす事が出来ます。 骨格筋は、7つの形状に分類されます。その多くは、「紡錘形(ぼうすいけい)」です。筋肉は、主に2つの骨に付着して関節を動かします。筋肉の始まる部分は「起始部」、終わる部分は「停止部」と言います。関節運動は、起始部と停止部が近づく事つまり骨格筋が収縮する事です。 骨格筋の筋線維はまっすぐかつ細長い細胞である事から、「横紋筋(おうもんきん)」とも言われます。横紋筋は、その形状から「筋線維(筋細胞)」と言われます。骨格筋は、直径1μm(マイクロメートル・1mmの百万分の1)の筋線維(筋細胞)が10~100μmの束になると筋鞘(きんしょう)と言い、「筋内膜(きんないまく)」が包みます。さらに筋鞘が束になり「筋周膜(きんしゅうまく)」が包み、太い筋線維になります。その太い筋線維がさらに束となり「筋上膜(きんじょうまく)」が包みます。3つの筋膜が「一定の束になった筋線維」を包み太い筋肉になります。運動する時、筋肉が収縮し膨張しても形状が元に戻るのは、筋膜に包まれているからです。 肉離れとは、筋膜内にある筋線維の断裂です。言い換えると、筋細胞の破壊という事になります。
■肉離れが起きると切れた部分は空洞状態になります 悪化させないためには関節を動かさないのが一番
筋線維の細胞内は、大部分「筋原線維(きんげんせんい)」が占めています。電子顕微鏡レベルで見ると、細い「アクチンフィラメント」と太い「ミオシンフィラメント」という糸状構造が規則的に配列されています。骨格筋の収縮活動は、この2つがスライドするためと考えられています。 筋肉の収縮運動を長時間繰り返す事により、この働きに狂いが生じて来ます。筋肉に疲労が生じてくると、痛みやしこりが生じます。この状態は、休息が必要な時です。痛みを我慢して運動を繰り返すと、筋肉が炎症を起こし、痛みを感じ、熱を持ち、赤くなって、腫れてきます。この状態は、肉離れを起こす直前です。シップを貼り、炎症が治まるまで身体を休ませる必要があります。炎症が治まらないまま運動を続けて、強い外力が加わった時、筋線維(筋細胞)が断裂します。この状態を「肉離れ」と言います。筋原線維が断裂すると、収縮活動が出来なくなるため、運動が困難または不能になります。 筋肉が収縮している時、細胞は紡錘形の内側にスライドし始めますが、一定の形を保つために外側にも同じ位の力が働いています。そのため、筋線維細胞が壊れる(切れる)と、筋線維は反動で起始部と停止部に移動し始めます。切れた部分(患部)は小さな空洞状態になり、皮膚上から押すと皮膚面の緊張が減少して力ない状態となります。患部の筋線維に沿った上下(左右)は、筋線維が寄り集まるため、やや膨らみます。運動を続けると、この現象が大きくなります。 肉離れが起きたら、直ちに該当する関節の運動をやめる必要があります。
■肉離れを起こした後運動続行は困難 無理に動かすと二次的被害が起こる
骨格筋は、関節の運動を主っていますので、肉離れ(筋損傷)が起きると、関節を動かした時、痛みを感じるようになります。筋肉線維全てが切れる(筋断裂)と強い痛みを感じ、関節運動を止めようとします。しかしながら、動かざるを得ないときやスポーツの試合中等の時は、緊張感が強いので、痛みを我慢して動こうとしてしまいます。運動は、いくつもの筋肉が連動し協調しながら行っています。そのため、1つの筋肉が切れても他の筋肉が代用しますので、運動することが可能です。 軽度の肉離れ(筋損傷)は、痛みが軽く、動かさなければ痛みが発生しません。熱を持つことも殆ど無いため、この状態を軽視する傾向にあります。わずか数%の筋損傷が、運動を繰り返すことにより十数%の損傷に広がります。 中等度の肉離れ(筋損傷)は、20~40%程度の筋損傷が生じたときと考えられます。運動時に強い痛みを覚え、患部に違和感を持つようになります。完全な関節運動が出来なくなります。患部がふくらはぎであれば、膝を深く屈伸することが出来なくなります。このような状態になると、多くの方が、医療機関の受診を検討し始めます。ただ、この状態でも運動を止めないと、急激な負荷がかかった時に筋肉の完全断裂を起こします。部分断裂をした場所がふくらはぎであれば、損傷している脚を引きずらなければ歩く事が出来なくなります。 重度の肉離れ(筋損傷)は、50~60%もしくはそれ以上の損傷が生じている時です。患部に熱を生じ腫れて来ます。内出血を伴い、関節を動かしていない時でも、痛みを感じるようになります。重度の肉離れ(筋損傷)は、不慮の行動やスポーツ時に見られる現象です。そのため、運動が極めて困難な状況でも、行動・運動を継続する傾向にあります。損傷した場所によりますが、活動を止めないと、筋損傷が大きくなるばかりではなく、筋肉を構成している腱の断裂、筋肉が付着している骨膜の損傷やはく離骨折、神経損傷に繋がる恐れがあります。複数の筋損傷が生じると、運動する際に後遺症が残ることも考えられます。
いずれも場合も、患部を押すと強い痛みがありますので、損傷部位は専門家でなくても気付く事が出来ます。二次的被害を起こさないために、運動は、直ちに止める必要があります。
■肉離れを起こしたら まずは痛い部分を広く圧迫して固定する事
受傷直後は、まず第1にその部分(患部より少し広め)を抑えることが重要です。一番簡単な方法は、手を当てることです。文字通り「手当」です。血液の流れが止まらない程度に掌(てのひら)で圧迫します。5分ほど圧迫したら、テープでその部分を縛るように圧迫します。テープがなければ、バンダナや手ぬぐいの様なものでも大丈夫です。痛みがある場所に対して、すぐ湿布を貼るという話を良く聞きますが、患部を圧迫しないで湿布をしても、筋損傷は治りません。痛みが強いようなら、圧迫した患部の上から4℃程度の冷却をしても良いですが、それ自体は痛みが軽減されるだけで、筋損傷部の悪化防止には全く役立ちません。むしろ、痛みは我慢していた方が、治りは良いと言えます。 大事なことは、患部の圧迫と活動の停止です。
■筋肉の部分断裂はお近くの整骨院へ 6時間以内に徒手整復して固定すると筋肉線維の再生が可能
肉離れ(筋損傷)を放置すると、損傷部位は筋線維が離れたままで固まりますので、筋肉本来の働きが低下します。軽度の損傷であれば、日常生活への支障は左程ありませんが、中等度や重度の損傷は生活の質が低下する事も考えられます。損傷部位によっては、スポーツに支障を生じる場合があります。 骨格筋の肉離れ(部分断裂)は、筋肉が部分的に離れた状態です。そのため、筋肉を元の位置に戻す必要があります。「筋内膜」や「筋周膜」内の断裂であれば部分断裂と言えますので、修復が可能です。筋肉線維が数%でも残っていれば保存療法が適応です。「非観血療法による外科手術・徒手整復術」を行い、患部を固定すれば筋肉線維が再生されます。痛みの程度が大きくかつ運動が全く困難な場合は、筋断裂の他に、腱や靭帯の完全断裂を伴っていることが考えられますので、整形外科の受診が必要です。その際は、「観血療法による外科手術」の適応となります。患部を切開し、一本一本筋線維を繋ぎ合わせる手術になります。 軽度の肉離れは、1週間程度で修復され痛みが消失します。中等度の肉離れは、再生に約2週間を要します。重度の肉離れは、約3週間程度必要です。内出血が細胞の再生を阻害しますので、初期の段階で内出血に対する処置を行わないと、固定期間が長引きます。複数の個所に損傷がある場合も同様です。 柔道整復師は、骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷(筋損傷・腱損傷・靭帯損傷)が専門の医療資格者です。肉離れをしたかもしれないと思ったら、放置せず、お近くの整骨院・接骨院を受診していただきたく思います。
(清野 充典/鍼灸師)