■尿管結石(尿路結石)の疝痛発作は夏に多いが冬には良くなる?
尿管結石(尿路結石)という名前を聞いたことがあるでしょうか。日本人が一生のうちで尿路結石になる確率は、2015年の疫学調査(※日本における上部尿路結石症の疫学的特徴の経時的変化)によると、男性が7人に1人、女性が15人に1人です。10%を超える疾患ですので、知っている人は多いのではないかと思います。 尿路結石とは、腎臓から尿道までの通り道に結石が出来る疾患のことです。中年以降の男性や閉経後の女性に多く見られます。 尿路結石は、結石のある位置によって、
1. 腎臓結石 2. 尿管結石 3. 膀胱結石 4. 尿道結石
と言い方が異なります。尿路結石を発症した人は、再発率が5年で45%、10年で60%です。好発年齢は男性が40歳代、女性は50歳代です。 結石が作られる理由は、食生活、年齢、男女差、職業、ストレス、遺伝、気候、尿路の奇形など色々言われていますが、はっきりわかっていません。その中で、気候により発作状況が異なる報告は、東洋医学の養生に視点を向けると関係性が見えて来ます。
1. 冬季がある地域では夏期に約2倍結石発作があるものの排石は冬季が多い 2. 高気圧で晴天の日は結石発作が少ない 3. 気温が20℃を超えると結石発作が多い 4. 急に低気圧になると結石発作が多い
台湾では、結石の疝痛発作は、性別、年齢にかかわらず7~9月に多く、10月に減少すると報告しています。 東洋医学では、春は肝臓、夏は心臓、秋は肺臓、冬は腎臓、季節の変わり目は脾臓・膵臓が気候により働かされる季節、言い換えると活発に働く季節という考えがあります。一方で、季節によっては内臓が休息しているように働かない季節、言い換えると左程活動しなくても大丈夫な季節があるという考え方もあります。 腎臓の働きに置き換えると、夏の暑い時は休息している時期で、冬になると活発に活動すると考えます。
7月は盛夏 暑いので腎臓は休息している 8月は晩夏から初秋への移行期 まだ暑いので腎臓は休息傾向 9月は仲秋 夜の気温が下がるので腎臓が少し働き始める 10月は晩秋 気温が日中も下がるので腎臓が働き始める 11月は初冬 全体的に気温が低いので腎臓が活発に働く 12月は仲冬 寒い日が続くので腎臓が大いに働く 1月は晩冬 1年で最も寒い日が続くので腎臓がフル稼働する
12月は腎臓が活発に働く時期なので、腎臓や尿管に結石がある人は、排石が多いのではないかと、東洋医学の視点で考えることが出来ます。尿管結石のガイドラインによると、冬季がある地域では、夏期に約2倍結石発作があるものの排石は冬期が多く、特に12月の排石は一番多いとあります。 以上のことを整理すると、尿管結石は、夏(7月から8月上旬)から秋(8月中旬から9月)にかけて疝痛発作が多いものの、10月に一旦落ち着いた(疝痛発作減少)後、冬(11月から1月)に排石が多いと言えます。特に、12月が多いとのことです。 見方を変えると、冬は腎臓が大いに働かなければならないので、腎臓が弱い人は腎臓病になりやすく、腎臓病を患っている人は悪化する季節でもあります。東洋医学では、病気の原因は環境が影響すると考えます。春は肝臓、夏は心臓、秋は肺臓、冬は腎臓、季節の変わり目は脾臓・膵臓の調子が悪くなるという考えは、いま述べた考えを四季に当てはめた考えです。
■尿管結石は夏から秋に作られる?結石が形成される期間は5年から10年!?
結石が疝痛を引き起こすまで大きくなるには、かなりの期間を要していると思われます。数年を要すると考えられますので、ある意味で生活習慣病と言えます。結石が出来る原因の研究は盛んに行われていますが、季節に関連した原因に目を向けると、興味深い内容がガイドラインにあります。 外気温が高くなり発汗すると、細胞外液の減少に伴い抗利尿ホルモンの分泌がなされ、尿が濃縮されて尿量が減少する、ということに着眼した研究です。アメリカのボストンでは、24時間蓄尿検査を行った際の外気温・湿度と蓄尿検査の結果を解析すると、
1. 尿中カルシウム濃度が外気温に依存し上昇する 2. シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムの過飽和が起きる 3. 尿中ナトリウム排泄が減る
上記が報告されています。 外気温の上昇が結石の疼痛発作に関与すると仮定すれば、地球温暖化は結石の有病率に関与する可能性があるため、アメリカにおける結石の有病率と地球温暖化の関係を推論した論文では、2050年までに結石患者は約30%増加するとのことです。 以上の考えに基づいて考えると、四季がある地域では、気温が高い時期に結石が少しずつ作られるのではないかと推測されます。再発率から紐解くと、結石が大きくなるのは半数の人が5年から10年くらいで、長い人はそれ以上を要しているのだろうと推測出来ます。男性は30歳代、女性は40歳代の生活が大きく関係していると言えます。
■疝痛発作が多い7月から9月の過ごし方は?
尿管結石は、適切な生活が送れていないと出来やすいようです。30~40歳代は人生で最も時間に余裕がない世代と言えますので、規則正しい生活を送ることは難しいと思います。生活の基本は、睡眠、休息、運動、食事、環境です。大きなポイントは、以下の通りです。
睡眠 1日7~8時間 休息 1時間に5分休憩 運動 週1~2回 1~2時間運動 食事 規則正しい時間の食事 22時以降の食事は控える 環境 日当たりの良い場所で生活
日常的に上記生活を実行することは難しいと思いますが、理想的な生活に近付けることで、結石の発生予防に繋がります。また、汗を出した後の水分補給は大切です。人工透析をしている人は、一日の摂取量を約800mlに制限されますが、健康体であれば、1.5ℓから2ℓは必要です。摂取量は、汗を出す量や食べるものによりますので、一日の尿量を参考にすると目安になります。一日5~6回トイレへ行くようであれば、水分量は足りていると考えます。 東洋医学では、「前の季節」または「前の前の季節」の過ごし方が原因で生じる病気があるという考え方があります。つまり、腎臓の病は、夏の過ごし方または秋の過ごし方が原因で生じます。冬の過ごし方が原因の時は、急性期の病ですが、秋または夏が原因だとすれば、慢性病という事になります。尿路結石がある人は、年間を通じた生活節制が必要ですが、特に「前の前の季節」つまり夏の過ごし方が重要です。また、冬に排石出来ても、「次の次の季節」である夏の過ごし方は、大切です。詳しい内容をお知りになりたい人は、清野鍼灸整骨院ホームページ内の「くらしと養生」をご覧戴きたく思います。
■尿路結石は放置すると危ない!腎臓病の悪化につながる?
尿路結石は腎臓で作られます。結石が腎臓の中にとどまっている間は全く痛みを感じません。また、1mm程度の大きさであれば、自然に排石されることが多い様ですが、移動している時強い痛みを伴うことがあります。大きくなった腎臓結石が尿管に入ると、腎臓で作られた尿が尿管に流れなくなり、尿が流れ出る場所である「腎盂(じんう)」内に尿が渋滞して溜まり、腎臓が拡張します。この状態を「水腎症」と言います。また、尿管に「攣縮(れんしゅく・けいれんのこと)」が起き収縮します。腰部、背部に強い痛みを伴いますので、疾患に気付きます。 水腎症は、長期化すると身体に慣れが生じて痛みが消失します。水腎症を治療せずに放置すると、腎臓は次第に尿を作らなくなり、腎臓が萎縮して機能を果たせなくなります。この状態を無機能腎といいます。強い痛みが出た際にはすぐに専門医の受診が必要です。
■尿管結石の排石には鍼灸治療が有効です
尿路結石は、個人的に
1. 腎臓から腎盂に出る部分 2. 腎臓と尿管との出入り口 3. 尿管の下3分の1
で停滞しやすいと考えます。腎臓から尿道に移動する際、その部分に近い腰やお腹に、多くの場合強い痛みを伴います。 薬草治療(漢方薬治療)では、
今の季節が原因の急性病には○○湯を約2週間服用 前の季節が原因の慢性病には○○散を約3か月服用 前の前の季節が原因の慢性病には○○丸を約6か月服用
という考え方があり、数日から2週間程度の服薬で早く身体の変化を促す方法の他に、季節(3か月)に応じた期間の服用をして、ゆっくり身体の変化を待つ方法があります。尿管結石に対する薬草治療(漢方薬治療)は、服用してから排石するまで、時間を要しているようです。 結石は丸いつるつるな形ではなく、形や長さが様々ですので、コロコロ移動するわけではありません。結石に、砕石術や破砕術を行った場合、破壊して砂状になった結石が自力で排石することは困難だと考えられています。 尿路結石(腎臓結石や尿管結石等)と診断され、専門医の治療を受けても排石が困難な人は、鍼灸治療をご検討頂きたく思います。即効性が期待出来る鍼灸治療を受けて戴きたく思います。 尿管結石は1回の治療で排石することが多い疾患ですが、石の大きさが直径5mmを超えている場合は、数回を要します。また、結石を砕いた後、鍼灸治療を2~3回行うことにより、砂の様になった結石が全て排出した症例は数多くあります。尿路結石の改善をご希望の人は、お近くの鍼灸院にご相談戴きたく思います。 尿路結石に対する鍼灸治療の効果については、学会で多数発表されています。清野鍼灸整骨院では、尿管結石について国内では第53回全日本鍼灸学会(2004年)・第62回全日本鍼灸学会学術大会(2013年)、国外では第2回国際統合医療学会(2006年・オランダ)等で発表しています。疝痛発作が起きている時が排石を助けるタイミングです。鎮痛剤を服用せずに来院出来る地域にお住いの人は、ご相談ください。 尿路結石は、食生活の欧米化や運動不足との関連が分かっています。生活習慣病やメタボリックシンドロームの一疾患と考えられていますので、運動不足解消にヨガ(YOGA)をお考えの方は、清野メディカルヨーガもしくはお近くのヨガ教室をご利用戴きたく思います。
(清野 充典/鍼灸師)