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告知されない場合も?事故物件の曖昧な境界線

JIJICO 2015年5月4日 18時0分

事故物件ニーズの高まり。背景には経済的な理由も

最近、不動産を借りる際に、わざわざ事故物件を借りようとする人が増えているそうです。 事故物件の正確な定義ははっきりしないのですが、一般には、「前の居住者がその場で亡くなった」「建物に欠陥があった」など、売買や賃貸借の際に、買い手や借り手が気にするような「何らかの問題点」を抱えている不動産のことを指すと考えて良いでしょう。

事故物件は通常、買い手や借り手が敬遠しがちなので、価格や賃料が低くなる傾向にあります。事故物件が求められる背景には、心理的抵抗よりも「経済的な理由を優先しなければならない」という人が増えているからかもしれません。

仲介業者等には、契約成立前に告知義務がある

ところで、事故物件だと売買代金や賃料が下がるのであれば、所有者はなるべく事故物件であることを知らせたくないと考えるでしょう。他方、中古不動産を買いたい人や貸家を探している人は、事故物件であるかどうかは非常に気になると思います。不動産の取引の際、売主や大家は事故物件であることを知らせなければいけないのでしょうか。逆に隠しても何も問題はないものなのでしょうか。

不動産取引では、仲介業者に間に入ってもらうことが多いと思いますが、仲介業者等(宅地建物取引業者)には法律により、不動産取引に関する重要な事実について告知義務があります。それゆえ、こうした業者が仲介に入っている場合には、基本的に契約成立前に必ず告知されることになるはずです。

売主や大家には法律的に「告知しなければならない」という明確な規定があるわけではないのですが、自殺があったことなど、買い手や借り手が嫌悪するような一定の事実については、「建物の瑕疵(かし、傷という意味です)」に該当し、契約後であっても契約の解除や損害賠償が認められる可能性があります。よって、売主や大家も、後に解除や損害賠償されないためには、契約前に告知をしておかなければならないと考えて良いでしょう。

後の紛争を予防するため、「正確な事実の告知」を行うべき

実は、最も難しいのが「事故物件であるかどうか」の判断です。 自殺や他殺の事実については、告知義務があるということであまり異論はないと思いますが、単に「その部屋で死亡した」という事実については、評価が分かれるところだと思います。建物に何らかの欠陥があったという場合も、欠陥の程度があまりにも軽いのであれば「告知する必要はない」と考える人もいるでしょう。

また、仮に事故物件と評価されるような事実があったとしても、「何年前のことまで説明しなければならないのか」ということについては、明確な規定はありません。

過去の裁判例を見ても画一的な水準は見出すことができず、あくまでも似たようなケースでの判断を参考にするしかありません。このように「何が事故物件にあたるのか」は、はっきりしないケースが多いのが現状です。判断に迷うようなケースでは、「後の紛争を予防する」という観点が重要になると思います。売主や大家側としては、「高く売ったり貸したりしたい」との考えから、安易に事実を隠そうとするのではなく、後の紛争を予防するためにきちんと調査を行い、可能な限り「正確な事実の告知を行うこと」を心がけるべきでしょう。買い手や借り手側としては、契約の前に、「大事な事実についての告知漏れがないかどうか」ということについて、きちんと売主や大家、業者に確認を求めることが大切です。

(川島 英雄/弁護士)

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