がんの宣告時から、気持ちは激しく揺れ動き続ける
ある日、突然、がんと宣告されたら、あなたはその病気と向き合うことができるでしょうか?日本では、男性の2人に1人、女性の3人に1人が生涯のうちにがんになる可能性があり、今やがんはいつ侵されてもおかしくない病気です。
がんという言葉が即座に「死」というものを連想させてしまうので、宣告時には誰しも大きな衝撃を受け、頭が真っ白になり、その現実を冷静に受け止めるのは困難なことでしょう。強いストレスから家事や仕事が手につかないほど落ち込み、食欲がなく眠れない日々が続き、「そんなことはない。何かの間違いだ」「自分がなるはずがない」と、がんである現実を否認する反応、「なぜ、こんな目に遭わなければならないのか」「何も悪いことをしてこなかったのに、なぜ私が…」といった健康な人々ヘの羨望、家族や友人、医療関係者への攻撃的な気持ちが生じるかもしれません。
また、手術し退院したとしても「これから先、死への恐怖を抱えながら生きなければならないのか」と再発の不安に苛まれ、仕事に復帰しても孤独感や疎外感を覚えて「今後、家族や仕事はどうすればいいのか」と自分の運命に失望を感じるかもしれません。
がんと宣告された後は、人それぞれ治療段階においてさまざまな葛藤を抱え、気持ちは激しく揺れ動き続け、病気を受容するまでに多くの時間を要します。その間、ずっと心理不安、情緒不安が続き、強いストレスにさらされ続けることになるわけです。
がんを受け入れていく過程は大変に心細く不安なこと
がん患者が診断後、1年以内に自殺する危険性は、がん患者以外の約20倍に上るという国立がん研究センターによる研究結果があります。このことは、がんという病気を受け入れていく過程、すなわち、がん患者として生きていくことを自分自身で引き受ける作業が困難なことを示しています。がんと向き合って生きるのは心細く不安なことで、治療と同時に誰かが心理面で支えていかなければ崩れ落ちてしまいます。
がんの宣告を受けると、ショックを受けている自分を見せたくない、親しい人に心配を掛けさせてはいけないとの思いから、一人で抱え込む人もいます。しかし、「がんになって悔しい、つらい」「これから先が不安」「落ち込んでどうしようもない」などの気持ちは、ためらわずに吐き出してもいいのです。
がんという病気と向き合うということは、一人では抱えきれないほどの問題と対峙することです。信頼できる家族や友人、または患者同士のコミュニケーションの場、あるいは医療関係者やカウンセラーなどの専門家に、自分の今の気持ちを伝えてみましょう。
一緒に考えてもらっている、支えてもらっている、理解してもらえたと感じるだけで落ち込んでいる気持ちが少し軽くなり、癒やされたりする場合があります。そして、そのような対人関係によるコミュニケーションの中に、希望を見出すこともできるのです。
(杉山 裕子/心理カウンセラー)