災害が起きたとき、避難所で突然生理になったら――。そんな不安を軽減する取り組みが広がりつつあります。
2011年3月に起きた東日本大震災では、「避難所に生理用品が足りない」「必要だと言いづらい」などの問題が起きていたそう。
また「東日本大震災女性支援ネットワーク」が2013年に発表した調査によると、避難所で女性に対する性暴力があったことも明らかになっています。
このような状況から、災害時の女性をとりまく問題や負担を減らすべく、オフィス用品や文具の老舗企業・オカモトヤが女性向け備蓄キット「災害用レディースキット」を開発しました。
◆災害用レディースキットの中身とは?
災害用レディースキットは下記の3種類。2023年8月2日より、オカモトヤ公式オンラインショップなどで販売がスタートしています。
それぞれの中身はというと……。
■3days BOX
生理用品、シンクロフィット、生理用夜ショーツ、デリケートゾーンリフレッシュシート、膣内洗浄、消臭付きポリ袋、非常用ズボン、カイロ、腹巻き、巾着、アロマスプレー、コンドーム
■1dayスリムBOX
Fellneポーチ、ナプキン(4個)、綿棒、コットン、消臭袋、巾着、カイロ、吸水ショーツ、デリケートゾーン用ウェットティシュ、1日分の洗顔用品(洗顔料、クレンジング、化粧水、乳液)
■ミニマムキット
ホイッスル、ライト、リフレッシュシート、FAB、コンドーム、アロマスプレー、マスク、絆創膏
中身には、ズボン、アロマスプレー、コンドームなど、ちょっと意外に感じるモノも。
そこで今回は、開発の経緯や思い、災害時に女性が直面する問題について、オカモトヤの代表取締役、鈴木美樹子さんに話を聞きました。
◆防災グッズに生理用品が入っていない現状も
――この商品はオカモトヤによる性差による働きにくさの解消を目指した事業「Fellne(フェルネ)」の企画として開発されたそうですが、災害用レディースキットを販売しようと考えたきっかけは何ですか?
鈴木:私たちは総務の方と取引することが多く、東日本大震災以降、水やかんパン、簡易トイレなどの防災グッズを納品するなかで、生理用品が含まれているケースは少ないと感じたことがきっかけです。
働く女性が増えるなか、災害時に仕事場で生理になってしまう人は決して珍しくありません。そんなときに女性用防災グッズがあれば、3日間少しでも快適に過ごせるのではないかと思い、この商品が生まれました。
――女性用防災グッズは少ない現状があるのでしょうか?
鈴木:ネットで調べると、リュックに水やかんパン、生理用品が入った女性用防災グッズはよくみられます。しかし、女性に配慮した防災グッズは、女性個人が自分で購入して用意することがほとんどなため、オフィスなどで準備されているケースは少ないです。そのため、私たちは被災して3日間会社にいなければならないケースを想定し、突然生理になったときに必要なものを考え、災害用レディースキットをつくりました。
――どのようにして女性が災害時に必要なものを考えましたか?
鈴木:女性社員から意見を聞いたり、Fellneのメンバーと話し合ったりして決めました。プロジェクトに参加したメンバーはほとんどが女性ですが、なかには3人ほど男性もいます。フェムケアアイテムを取り扱い始めたこともあり、プロダクト自体に抵抗感を覚える人はいませんでした。
◆緊急時、経血が漏れたときのことも想定
――Fellneから販売している災害用レディースキットは3種類ありますが、それぞれの用途は異なりますか?
鈴木:3daysBOX、1dayスリムBOX、ミニマムキットの3種類です。オフィス待機など、緊急時の被災状況を踏まえた3daysBOXには、生理用夜ショーツやリフレッシュシートなど、12種類の衛生用品が入っています。
被災時に生理で経血が漏れたときや、スカートを履いた女性社員がいることを想定し、黒色の非常用ズボンが入っているのが特徴です。
――1dayスリムBOXとミニマムキットは、3daysBOXと比べるとコンパクトな仕様となっているようですね。
鈴木:もう少しコンパクトな防災グッズがほしいというお客様のご要望もあり、1dayスリムBOXは2cmの厚さにしてつくりました。生理用品のほか、化粧品や乳液など、1日の洗顔用品を入れています。
ミニマムキットは、取引先に行く社員や在宅勤務をする社員に会社が配ることを想定してリリースしています。災害時にかかわらず、お泊まりなどのシーンでも使えるような仕様になっています。
――鈴木さんが特にこだわった部分は何ですか?
鈴木:巾着袋を入れることにはこだわりましたね。キットにはナプキンを捨てる黒色の消臭袋が入っているのですが、消臭袋をもってトイレに並んだり移動したりすることに、恥じらいを感じる人はいると思います。そういった人たちのために、巾着袋は有効だと思います。
◆災害用レディースキットにコンドームが入っている理由
――どのレディースキットにもコンドームが入っていますが、どんな理由があるのでしょうか?
鈴木:2月に起きたトルコ・シリア大地震や東日本大震災でも取り上げられていましたが、災害時に女性が性暴力を受ける事態が相次いでいます。そういった現状で、本来ならば(女性が主体的に選べる避妊方法である)緊急避妊薬を入れたかったのですが、日本では医師に処方してもらわないと入手できない状況なので、「自分の身を守るためのお守り」としてのメッセージをこめて、コンドームを入れることにしました。また、コンドームは止血や水を汲むこともできるので、さまざまな用途として使えます。
――女性がコンドームをもつことに対して、まだまだネガティブに捉える人もいる印象です。
鈴木:女性がコンドームをもつことは「はしたない」「淫らだ」と考える風潮はまだ残っていますよね。ですが、女性が自分の身を自分で守ることは、恥ずかしいことではありません。望まない妊娠を避けるなど、しっかりと計画を立てることが女性が長く働き続けるための重要なことだと思います。それでも、会社によってはコンドームを抜いてほしいという意見もあるので、そのときはご要望に合わせて納品しています。
――会社としてコンドームに抵抗感をもつ理由は何ですか?
鈴木:女性より男性のほうが抵抗を感じるケースが多く感じます。理由として、コンドームをもつことで、「女性側が性交渉をしたいと勘違いされてしまうのではないか」という意見を聞きます。しかし、被災地ではさまざまな場面が想定されます。
もちろん性生活が当たり前のものとして、被災地でも性交渉がおこなわれる可能性は考えられるため、望まない妊娠を防ぐためにコンドームが使用されることもあります。さまざまなケースでコンドームが役に立つことも、より多くの人に知ってもらいたいです。
◆第三者が入ることで生理の話題が生まれる
――どのような企業が災害用レディースキットに関心を示していますか?
鈴木:私たちは中小企業を中心に販売し、すでに26社ほどに納品させていただいています。なかでも、女性活躍推進やダイバーシティ推進に取り組んでいる企業が多い印象です。
何となく女性用防災グッズはあったほうがいいことはわかっていても、生理の話をするのには抵抗があるといったことから、具体的な問題点や現状がわからないという声を多く聞きます。そういったときに商品があることで話しやすくなるのは、導入していただいている企業さんから好評をいただいている点です。
――商品を介して、普段話せないような話題を話しやすくする雰囲気ができるのですね。
鈴木:そうですね。なので出張展示会もおこない、商品の使い方などを説明をしています。会社で生理について話せない人は多数いらっしゃるので、第三者が入ることで、女性の健康課題を男性にも理解してもらいながら、女性が働きやすい環境をその企業なりに考えるきっかけになると考えています。
――関心のない層に届けることは難しいように感じますが、どのようにアプローチしているのでしょうか?
鈴木:商品を広めるために営業に行くことがあるのですが、興味がないからといって断られるケースはたしかに多いです。ですが、一度断られたからといって永遠に関心を示さないわけでもないと思うので、伝え続けることは大事なのではないでしょうか。
今は人材不足も叫ばれているので、女性が働き続けることは企業にとっての緊急課題でもあります。なので、いつか伝わるだろうと長い目でみて、発信し続けることを意識しています。
◆まだまだ拡大していないフェムテック市場
――日本のフェムテック市場は拡大していると思いますか?
鈴木:徐々にフェムテック市場が海外から日本に流れてきているので、今後拡大するのではないでしょうか。とはいえ、現状日本のフェムテック市場は十分に拡大していないのも事実なので、女性が表で性について話すことへのハードルが下がるまでには、時間がかかりそうだとは感じています。
――企業としても、フェムテックでビジネスをおこなうことは難しいと感じていますか?
鈴木:そうですね。オカモトヤがFellneの事業を立ち上げられたのは、母体となる事業があるからこそだと思います。なので、フェムテック単体で注目してもらうことは難しいかもしれません。ですが、このように記事に取り上げてもらったりすることで、より多くの人に広まり、結果ビジネスにもいい影響が出ていくと思いますね。
――Fellneとして今後どのような活動をおこなっていきたいと考えていますか?
鈴木:災害用レディースキットは、3種類あれば用途に合わせて選択していただけると思いますが、今後もお客様の要望があれば、それに応じて少しずつ改善していきたいです。
Fellneとしては、女性活躍を推進していきたいというお客様に対して、オールジェンダートイレを提案しています。今後も継続してこのような活動に取り組んでいきたいです。また、出張展示会や研修を通して、女性の健康課題を共有するサービスも展開していきたいと考えています。
<取材・文/Honoka Yamasaki>
【Honoka Yamasaki】
ライター、ダンサー、purple millennium運営。Instagram :@honoka_yamasaki
2011年3月に起きた東日本大震災では、「避難所に生理用品が足りない」「必要だと言いづらい」などの問題が起きていたそう。
また「東日本大震災女性支援ネットワーク」が2013年に発表した調査によると、避難所で女性に対する性暴力があったことも明らかになっています。
このような状況から、災害時の女性をとりまく問題や負担を減らすべく、オフィス用品や文具の老舗企業・オカモトヤが女性向け備蓄キット「災害用レディースキット」を開発しました。
◆災害用レディースキットの中身とは?
災害用レディースキットは下記の3種類。2023年8月2日より、オカモトヤ公式オンラインショップなどで販売がスタートしています。
それぞれの中身はというと……。
■3days BOX
生理用品、シンクロフィット、生理用夜ショーツ、デリケートゾーンリフレッシュシート、膣内洗浄、消臭付きポリ袋、非常用ズボン、カイロ、腹巻き、巾着、アロマスプレー、コンドーム
■1dayスリムBOX
Fellneポーチ、ナプキン(4個)、綿棒、コットン、消臭袋、巾着、カイロ、吸水ショーツ、デリケートゾーン用ウェットティシュ、1日分の洗顔用品(洗顔料、クレンジング、化粧水、乳液)
■ミニマムキット
ホイッスル、ライト、リフレッシュシート、FAB、コンドーム、アロマスプレー、マスク、絆創膏
中身には、ズボン、アロマスプレー、コンドームなど、ちょっと意外に感じるモノも。
そこで今回は、開発の経緯や思い、災害時に女性が直面する問題について、オカモトヤの代表取締役、鈴木美樹子さんに話を聞きました。
◆防災グッズに生理用品が入っていない現状も
――この商品はオカモトヤによる性差による働きにくさの解消を目指した事業「Fellne(フェルネ)」の企画として開発されたそうですが、災害用レディースキットを販売しようと考えたきっかけは何ですか?
鈴木:私たちは総務の方と取引することが多く、東日本大震災以降、水やかんパン、簡易トイレなどの防災グッズを納品するなかで、生理用品が含まれているケースは少ないと感じたことがきっかけです。
働く女性が増えるなか、災害時に仕事場で生理になってしまう人は決して珍しくありません。そんなときに女性用防災グッズがあれば、3日間少しでも快適に過ごせるのではないかと思い、この商品が生まれました。
――女性用防災グッズは少ない現状があるのでしょうか?
鈴木:ネットで調べると、リュックに水やかんパン、生理用品が入った女性用防災グッズはよくみられます。しかし、女性に配慮した防災グッズは、女性個人が自分で購入して用意することがほとんどなため、オフィスなどで準備されているケースは少ないです。そのため、私たちは被災して3日間会社にいなければならないケースを想定し、突然生理になったときに必要なものを考え、災害用レディースキットをつくりました。
――どのようにして女性が災害時に必要なものを考えましたか?
鈴木:女性社員から意見を聞いたり、Fellneのメンバーと話し合ったりして決めました。プロジェクトに参加したメンバーはほとんどが女性ですが、なかには3人ほど男性もいます。フェムケアアイテムを取り扱い始めたこともあり、プロダクト自体に抵抗感を覚える人はいませんでした。
◆緊急時、経血が漏れたときのことも想定
――Fellneから販売している災害用レディースキットは3種類ありますが、それぞれの用途は異なりますか?
鈴木:3daysBOX、1dayスリムBOX、ミニマムキットの3種類です。オフィス待機など、緊急時の被災状況を踏まえた3daysBOXには、生理用夜ショーツやリフレッシュシートなど、12種類の衛生用品が入っています。
被災時に生理で経血が漏れたときや、スカートを履いた女性社員がいることを想定し、黒色の非常用ズボンが入っているのが特徴です。
――1dayスリムBOXとミニマムキットは、3daysBOXと比べるとコンパクトな仕様となっているようですね。
鈴木:もう少しコンパクトな防災グッズがほしいというお客様のご要望もあり、1dayスリムBOXは2cmの厚さにしてつくりました。生理用品のほか、化粧品や乳液など、1日の洗顔用品を入れています。
ミニマムキットは、取引先に行く社員や在宅勤務をする社員に会社が配ることを想定してリリースしています。災害時にかかわらず、お泊まりなどのシーンでも使えるような仕様になっています。
――鈴木さんが特にこだわった部分は何ですか?
鈴木:巾着袋を入れることにはこだわりましたね。キットにはナプキンを捨てる黒色の消臭袋が入っているのですが、消臭袋をもってトイレに並んだり移動したりすることに、恥じらいを感じる人はいると思います。そういった人たちのために、巾着袋は有効だと思います。
◆災害用レディースキットにコンドームが入っている理由
――どのレディースキットにもコンドームが入っていますが、どんな理由があるのでしょうか?
鈴木:2月に起きたトルコ・シリア大地震や東日本大震災でも取り上げられていましたが、災害時に女性が性暴力を受ける事態が相次いでいます。そういった現状で、本来ならば(女性が主体的に選べる避妊方法である)緊急避妊薬を入れたかったのですが、日本では医師に処方してもらわないと入手できない状況なので、「自分の身を守るためのお守り」としてのメッセージをこめて、コンドームを入れることにしました。また、コンドームは止血や水を汲むこともできるので、さまざまな用途として使えます。
――女性がコンドームをもつことに対して、まだまだネガティブに捉える人もいる印象です。
鈴木:女性がコンドームをもつことは「はしたない」「淫らだ」と考える風潮はまだ残っていますよね。ですが、女性が自分の身を自分で守ることは、恥ずかしいことではありません。望まない妊娠を避けるなど、しっかりと計画を立てることが女性が長く働き続けるための重要なことだと思います。それでも、会社によってはコンドームを抜いてほしいという意見もあるので、そのときはご要望に合わせて納品しています。
――会社としてコンドームに抵抗感をもつ理由は何ですか?
鈴木:女性より男性のほうが抵抗を感じるケースが多く感じます。理由として、コンドームをもつことで、「女性側が性交渉をしたいと勘違いされてしまうのではないか」という意見を聞きます。しかし、被災地ではさまざまな場面が想定されます。
もちろん性生活が当たり前のものとして、被災地でも性交渉がおこなわれる可能性は考えられるため、望まない妊娠を防ぐためにコンドームが使用されることもあります。さまざまなケースでコンドームが役に立つことも、より多くの人に知ってもらいたいです。
◆第三者が入ることで生理の話題が生まれる
――どのような企業が災害用レディースキットに関心を示していますか?
鈴木:私たちは中小企業を中心に販売し、すでに26社ほどに納品させていただいています。なかでも、女性活躍推進やダイバーシティ推進に取り組んでいる企業が多い印象です。
何となく女性用防災グッズはあったほうがいいことはわかっていても、生理の話をするのには抵抗があるといったことから、具体的な問題点や現状がわからないという声を多く聞きます。そういったときに商品があることで話しやすくなるのは、導入していただいている企業さんから好評をいただいている点です。
――商品を介して、普段話せないような話題を話しやすくする雰囲気ができるのですね。
鈴木:そうですね。なので出張展示会もおこない、商品の使い方などを説明をしています。会社で生理について話せない人は多数いらっしゃるので、第三者が入ることで、女性の健康課題を男性にも理解してもらいながら、女性が働きやすい環境をその企業なりに考えるきっかけになると考えています。
――関心のない層に届けることは難しいように感じますが、どのようにアプローチしているのでしょうか?
鈴木:商品を広めるために営業に行くことがあるのですが、興味がないからといって断られるケースはたしかに多いです。ですが、一度断られたからといって永遠に関心を示さないわけでもないと思うので、伝え続けることは大事なのではないでしょうか。
今は人材不足も叫ばれているので、女性が働き続けることは企業にとっての緊急課題でもあります。なので、いつか伝わるだろうと長い目でみて、発信し続けることを意識しています。
◆まだまだ拡大していないフェムテック市場
――日本のフェムテック市場は拡大していると思いますか?
鈴木:徐々にフェムテック市場が海外から日本に流れてきているので、今後拡大するのではないでしょうか。とはいえ、現状日本のフェムテック市場は十分に拡大していないのも事実なので、女性が表で性について話すことへのハードルが下がるまでには、時間がかかりそうだとは感じています。
――企業としても、フェムテックでビジネスをおこなうことは難しいと感じていますか?
鈴木:そうですね。オカモトヤがFellneの事業を立ち上げられたのは、母体となる事業があるからこそだと思います。なので、フェムテック単体で注目してもらうことは難しいかもしれません。ですが、このように記事に取り上げてもらったりすることで、より多くの人に広まり、結果ビジネスにもいい影響が出ていくと思いますね。
――Fellneとして今後どのような活動をおこなっていきたいと考えていますか?
鈴木:災害用レディースキットは、3種類あれば用途に合わせて選択していただけると思いますが、今後もお客様の要望があれば、それに応じて少しずつ改善していきたいです。
Fellneとしては、女性活躍を推進していきたいというお客様に対して、オールジェンダートイレを提案しています。今後も継続してこのような活動に取り組んでいきたいです。また、出張展示会や研修を通して、女性の健康課題を共有するサービスも展開していきたいと考えています。
<取材・文/Honoka Yamasaki>
【Honoka Yamasaki】
ライター、ダンサー、purple millennium運営。Instagram :@honoka_yamasaki