草彅剛演じる議員秘書が、悪しき政治家に復讐を果たすドラマ『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系、月曜夜10時~)。3月20日に放送された10話では、鶴巻(岸部一徳)が政権維持に関するなかなかに過激な発言を口にした。また、2022年10~12月で同時間帯に放送された『エルピス』(カンテレ・フジテレビ系)でも、政権維持についてのセリフが出ている。
◆『罠の戦争』『エルピス』で飛び出した、忘れられない言葉
『エルピス』と言えば、テレビ局に勤める浅川(長澤まさみ)と岸本(眞栄田郷敦)が、とある冤罪(えんざい)事件の真相を究明しようと奮闘する姿が描かれたドラマだった。冤罪事件だけではなく、現実で起きた様々な事件を作品内に盛り込んでおり、ただの“エンタメ”としての消費をさせないほどの熱量があった。
「自分たちが生きている世界で今なお起きていることが、ニュース番組のようにドラマとして今目の前に映し出されている」という危機感も同時に与える鬼気迫る内容で、今でもそのストーリーを鮮明に覚えている人は多いだろう。
今回は、カンテレが手掛ける政治を軸にした両作品を題材に、作中で飛び出した“政権”においての発言に触れながら、勝手に制作側の意図を夢想したい。
◆「この国の人間は気分でしか政治を考えない」
まず、『罠の戦争』だ。渾身のスキャンダルで鶴巻を追い込もうと目論む鷲津(草彅剛)だったが、もう少しのところでかわされてしまう。一応は鶴巻を引退させることに成功するも、それは“名誉の辞任”という印象を与えるもので、最大の敵役を潰すことには失敗する。さらには、当初は鶴巻潰しを支持し、鷲津を応援していた竜崎総理(高橋克典)からも裏切られる始末。
そんな中、失意のどん底にある鷲津に対して、鶴巻は「私ほど政治を守ってきた人間はいないよ」と口にした後、「この国の人間は気分でしか政治を考えない。不満が溜まりすぎてガス抜きが必要になったら総理を代えてやる。それで意見が通ったと満足するわけだ、あの連中は」と続けた。
政権を守ることが政治を守る、ひいては国民を守ることと言わんばかりの傲慢さを感じる。とはいえ、首相が交代した途端に支持率が回復するケースは珍しくない。“気分でしか政治を考えない国民”とは言い得て妙であり、風刺の効いたセリフと言える。
◆テレビの前で羞恥を覚えるシーンでもあった
ただ残念なことに、深刻化する物価上昇に全く対処せず、旧統一協会と関係性のあった自民党議員への措置も不十分であるなど、成果という成果をあげていない岸田政権ではあるが、3月18、19日に実施された朝日新聞の世論調査によると内閣支持率は40%。首相が交代していないにもかかわらず、2月の調査結果(35%)から大幅に上昇している。
もはや現在の国民の政治に対する意識は、鶴巻の認識さえも大きく下回っているように感じる。日本国民として羞恥を覚えるシーンでもあった。
◆「この国の司法は正しく機能していない。すでに危機なんです」
次に『エルピス』。無実の男性に連続殺人の罪を被せるよう指示した黒幕は、副総理の大門(山路和弘)だった。彼のスキャンダルをニュース番組内で報じようと計画している浅川に、大門と“仲の良い”齊藤(鈴木亮平)が放ったのが次のセリフだ。
「国の副総理大臣が強姦事件をもみ消し、被害者が自殺した。君が今夜そのニュースを報じれば望み通り大門は失脚する。しかし、事はそれでは終わらない。政界全体にもまた最大規模の激震が走る。内閣総辞職どころか政権交代もありうる。今これほど世界情勢が緊迫している状況でそんな事態に陥ることが、どれほど危ういことか君にも想像がつくはずだ。国政も司法も混乱を免れない」
正しいことを言っている風ではあるが、「政権維持の前では一市民の強姦被害や自殺なんて小さな問題だ」と言わんばかりの頓珍漢(とんちんかん)な言い分でしかない。ただ、浅川は「確かに影響は計り知れない。でもどれも紛れもない真実なんです」と反論。「この国の司法は正しく機能していない。すでに危機なんです」と矛盾点を突き、救われた気持ちになった。
◆今後のカンテレドラマにも期待したくなる
鶴巻も齊藤もどちらも角度は違うが、長期政権を肯定するようなセリフではある。ただ、それらは「長期政権がいかに政治を歪ませるのか」を伺えるものでしかなかった。
『罠の戦争』は『エルピス』よりもエンタメ寄りな印象だった。『罠の戦争』の次回、つまりは最終回は鷲津の行方、登場人物の心理描写がメインになることが予想される。もう鶴巻が発した以上のパンチラインは見られないかもしれない。しかし、ここへ来て政治的なメッセージを込めたセリフが飛び出し、制作側の思いを勝手に感じた。最終回を控えている『罠の戦争』はもちろん、今後のカンテレドラマにも期待したくなる。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
◆『罠の戦争』『エルピス』で飛び出した、忘れられない言葉
『エルピス』と言えば、テレビ局に勤める浅川(長澤まさみ)と岸本(眞栄田郷敦)が、とある冤罪(えんざい)事件の真相を究明しようと奮闘する姿が描かれたドラマだった。冤罪事件だけではなく、現実で起きた様々な事件を作品内に盛り込んでおり、ただの“エンタメ”としての消費をさせないほどの熱量があった。
「自分たちが生きている世界で今なお起きていることが、ニュース番組のようにドラマとして今目の前に映し出されている」という危機感も同時に与える鬼気迫る内容で、今でもそのストーリーを鮮明に覚えている人は多いだろう。
今回は、カンテレが手掛ける政治を軸にした両作品を題材に、作中で飛び出した“政権”においての発言に触れながら、勝手に制作側の意図を夢想したい。
◆「この国の人間は気分でしか政治を考えない」
まず、『罠の戦争』だ。渾身のスキャンダルで鶴巻を追い込もうと目論む鷲津(草彅剛)だったが、もう少しのところでかわされてしまう。一応は鶴巻を引退させることに成功するも、それは“名誉の辞任”という印象を与えるもので、最大の敵役を潰すことには失敗する。さらには、当初は鶴巻潰しを支持し、鷲津を応援していた竜崎総理(高橋克典)からも裏切られる始末。
そんな中、失意のどん底にある鷲津に対して、鶴巻は「私ほど政治を守ってきた人間はいないよ」と口にした後、「この国の人間は気分でしか政治を考えない。不満が溜まりすぎてガス抜きが必要になったら総理を代えてやる。それで意見が通ったと満足するわけだ、あの連中は」と続けた。
政権を守ることが政治を守る、ひいては国民を守ることと言わんばかりの傲慢さを感じる。とはいえ、首相が交代した途端に支持率が回復するケースは珍しくない。“気分でしか政治を考えない国民”とは言い得て妙であり、風刺の効いたセリフと言える。
◆テレビの前で羞恥を覚えるシーンでもあった
ただ残念なことに、深刻化する物価上昇に全く対処せず、旧統一協会と関係性のあった自民党議員への措置も不十分であるなど、成果という成果をあげていない岸田政権ではあるが、3月18、19日に実施された朝日新聞の世論調査によると内閣支持率は40%。首相が交代していないにもかかわらず、2月の調査結果(35%)から大幅に上昇している。
もはや現在の国民の政治に対する意識は、鶴巻の認識さえも大きく下回っているように感じる。日本国民として羞恥を覚えるシーンでもあった。
◆「この国の司法は正しく機能していない。すでに危機なんです」
次に『エルピス』。無実の男性に連続殺人の罪を被せるよう指示した黒幕は、副総理の大門(山路和弘)だった。彼のスキャンダルをニュース番組内で報じようと計画している浅川に、大門と“仲の良い”齊藤(鈴木亮平)が放ったのが次のセリフだ。
「国の副総理大臣が強姦事件をもみ消し、被害者が自殺した。君が今夜そのニュースを報じれば望み通り大門は失脚する。しかし、事はそれでは終わらない。政界全体にもまた最大規模の激震が走る。内閣総辞職どころか政権交代もありうる。今これほど世界情勢が緊迫している状況でそんな事態に陥ることが、どれほど危ういことか君にも想像がつくはずだ。国政も司法も混乱を免れない」
正しいことを言っている風ではあるが、「政権維持の前では一市民の強姦被害や自殺なんて小さな問題だ」と言わんばかりの頓珍漢(とんちんかん)な言い分でしかない。ただ、浅川は「確かに影響は計り知れない。でもどれも紛れもない真実なんです」と反論。「この国の司法は正しく機能していない。すでに危機なんです」と矛盾点を突き、救われた気持ちになった。
◆今後のカンテレドラマにも期待したくなる
鶴巻も齊藤もどちらも角度は違うが、長期政権を肯定するようなセリフではある。ただ、それらは「長期政権がいかに政治を歪ませるのか」を伺えるものでしかなかった。
『罠の戦争』は『エルピス』よりもエンタメ寄りな印象だった。『罠の戦争』の次回、つまりは最終回は鷲津の行方、登場人物の心理描写がメインになることが予想される。もう鶴巻が発した以上のパンチラインは見られないかもしれない。しかし、ここへ来て政治的なメッセージを込めたセリフが飛び出し、制作側の思いを勝手に感じた。最終回を控えている『罠の戦争』はもちろん、今後のカンテレドラマにも期待したくなる。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki