2022年から物価上昇が止まらない状況下において、“物価の優等生”と言われる鶏卵(たまご)までもが値上がっており、家計へのさらなる追い打ちとなっている。ここ最近の鳥インフルエンザの影響によって鶏卵の供給不足が深刻化しているからだ。市場に出る鶏卵は不足し、さらには価格高騰も止まらない。
このままいくと鳥インフルエンザの猛威は、鶏卵だけではなく鶏肉にも及ぶのではないだろうか。牛肉や豚肉と比較しても安価で、鶏肉も家計を支えていた貴重な食材であり、価格の動向が気になるところ。株式会社半澤鶏卵の3代目後継者である半澤清哉(@hanzawa_seiya)さんに鶏肉の今後について話を聞いた。
◆今まさに“火の車”。生産抑制や、辞めてしまう養鶏場も
まず鶏卵の高騰や品薄の背景として、「鳥インフルエンザにより供給量が減少していることが主な要因であるのは間違いありません」としつつ、「卵の生産コストの大部分を占める“飼料代”が大幅にコストアップしており、生産現場にとっては大きな負担となっています」という。
「さらには、追い打ちをかけるように水道光熱費、資材費、運賃、人件費なども全て高騰しました。もともと鶏卵の生産は利幅が少なく、『今後も維持することは難しい』という理由から辞めてしまう養鶏場や、『市場の相場が上がるまで生産を抑制する』という養鶏場が多いです。そのため、価格高騰や供給量不足が鳥インフルエンザの流行によって深刻化する事態になっています」
これまで供給側が何とか対処してくれていた問題が、物価上昇や鳥インフルエンザなどの影響によって一気に顕在化してしまったようだ。
◆卵だけでなく鶏肉も高騰。外食産業への影響は?
「卵に続いて、鶏肉も値上がりするのでは?」と心配している人も少なくないはずだ。鶏肉の高騰・品薄の可能性を聞くと、「国内の鳥インフルエンザの発生は採卵鶏が大部分を占めていますが、鶏肉も例外ではありません」と回答。
「先ほど述べたように飼料高騰などは深刻化しており、その影響は同じです。鶏肉も既に価格は高騰しつつあります。また、鳥インフルエンザは日本だけでなく、世界的に大流行しており、海外からの輸入も今後抑制される可能性は高く、供給面も予断を許さない状況です」
続けて、「目玉焼きや玉子焼き、パンケーキなど、卵を活用したメニューを休売している外食チェーン店さんは増えています。また、カステラやバウムクーヘン、シュークリーム、プリンなどのスイーツを製造しているお菓子メーカーさんでも卵の供給制限に紐づいて、数量制限や休売の動きが少なくありません。スーパーマーケットさんでも、プリンコーナーでは卵を使用していないプリンの陳列が目立ってきたように感じます」と鶏卵の価格上昇を受けて、様々な食料品にも派生していると話した。
◆鳥インフルエンザが落ち着いても、卵の価格は戻らない?
鶏卵や鶏肉に留まらない物価上昇が今後も予想されそうだが、どの程度で落ち着きを見せるのだろうか。半澤さんは「過去に、これだけの鳥インフルエンザが国内で発生したことはありません。また、近隣の養鶏場が足りていない部分を補って供給していた部分もありましたが、現在ではそうした補填(ほてん)がどの養鶏場さんでもできていない状態です」と予想が難しいと口にする。農林水産省は9日、高病原性が疑われる鳥インフルエンザの発生が過去最大になったと発表しいている。
「また、仮に鳥インフルエンザが落ち着いたとしても、鶏卵が以前のような価格に戻るとは考えにくいです。飼料やその他のコスト増で、今の段階で元の価格で売って利益が出る養鶏場は全国どこにもありません。鶏卵に限りませんが様々な食材の生産コストのベース自体が上がっており、販売価格自体も上がってくると考えます」
さらには、「鳥インフルエンザが発生した養鶏場が、完全に復活するまでに最低でも1年~1年半かかることが見込まれています。供給量が元通りになるのは、早くても来年の春以降ではないでしょうか。目に見えないウイルスとの闘いですので、本当に深刻な状況です」と答える。
◆「卵の存在価値や意義を考えるきっかけに」
現在(2023年3月下旬)の状況はどうなのか。
「鳥インフルエンザの発生は、若干ではありますが落ち着いてきました。回復傾向ではありますが、10月末からはまた鳥インフルエンザの流行時期に差しかかってきてしまいます。
もし今回と同じような規模で発生してしまえばさらに状況が悪化しますし、なんとも断言ができません」と油断しない姿勢を見せる。
「最大限の対策を私たち生産者も取ってはいきますが、見えないウイルスとの闘いでは、『大丈夫』という発言はできません。今回の価格高騰や供給の面で、鶏卵にスポットライトが当たりやすくなっていますので、改めて卵の存在価値や意義を考え直すきっかけになれば嬉しいです」
養鶏場で働く人たちの頑張りによって家計が支えられてきたことがよくわかった。今後も卵や鶏肉を美味しくいただくために、養鶏場の運営については高い関心を持ちたい。
参考:鳥インフルエンザに関する情報(農林水産省)
<取材・文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
このままいくと鳥インフルエンザの猛威は、鶏卵だけではなく鶏肉にも及ぶのではないだろうか。牛肉や豚肉と比較しても安価で、鶏肉も家計を支えていた貴重な食材であり、価格の動向が気になるところ。株式会社半澤鶏卵の3代目後継者である半澤清哉(@hanzawa_seiya)さんに鶏肉の今後について話を聞いた。
◆今まさに“火の車”。生産抑制や、辞めてしまう養鶏場も
まず鶏卵の高騰や品薄の背景として、「鳥インフルエンザにより供給量が減少していることが主な要因であるのは間違いありません」としつつ、「卵の生産コストの大部分を占める“飼料代”が大幅にコストアップしており、生産現場にとっては大きな負担となっています」という。
「さらには、追い打ちをかけるように水道光熱費、資材費、運賃、人件費なども全て高騰しました。もともと鶏卵の生産は利幅が少なく、『今後も維持することは難しい』という理由から辞めてしまう養鶏場や、『市場の相場が上がるまで生産を抑制する』という養鶏場が多いです。そのため、価格高騰や供給量不足が鳥インフルエンザの流行によって深刻化する事態になっています」
これまで供給側が何とか対処してくれていた問題が、物価上昇や鳥インフルエンザなどの影響によって一気に顕在化してしまったようだ。
◆卵だけでなく鶏肉も高騰。外食産業への影響は?
「卵に続いて、鶏肉も値上がりするのでは?」と心配している人も少なくないはずだ。鶏肉の高騰・品薄の可能性を聞くと、「国内の鳥インフルエンザの発生は採卵鶏が大部分を占めていますが、鶏肉も例外ではありません」と回答。
「先ほど述べたように飼料高騰などは深刻化しており、その影響は同じです。鶏肉も既に価格は高騰しつつあります。また、鳥インフルエンザは日本だけでなく、世界的に大流行しており、海外からの輸入も今後抑制される可能性は高く、供給面も予断を許さない状況です」
続けて、「目玉焼きや玉子焼き、パンケーキなど、卵を活用したメニューを休売している外食チェーン店さんは増えています。また、カステラやバウムクーヘン、シュークリーム、プリンなどのスイーツを製造しているお菓子メーカーさんでも卵の供給制限に紐づいて、数量制限や休売の動きが少なくありません。スーパーマーケットさんでも、プリンコーナーでは卵を使用していないプリンの陳列が目立ってきたように感じます」と鶏卵の価格上昇を受けて、様々な食料品にも派生していると話した。
◆鳥インフルエンザが落ち着いても、卵の価格は戻らない?
鶏卵や鶏肉に留まらない物価上昇が今後も予想されそうだが、どの程度で落ち着きを見せるのだろうか。半澤さんは「過去に、これだけの鳥インフルエンザが国内で発生したことはありません。また、近隣の養鶏場が足りていない部分を補って供給していた部分もありましたが、現在ではそうした補填(ほてん)がどの養鶏場さんでもできていない状態です」と予想が難しいと口にする。農林水産省は9日、高病原性が疑われる鳥インフルエンザの発生が過去最大になったと発表しいている。
「また、仮に鳥インフルエンザが落ち着いたとしても、鶏卵が以前のような価格に戻るとは考えにくいです。飼料やその他のコスト増で、今の段階で元の価格で売って利益が出る養鶏場は全国どこにもありません。鶏卵に限りませんが様々な食材の生産コストのベース自体が上がっており、販売価格自体も上がってくると考えます」
さらには、「鳥インフルエンザが発生した養鶏場が、完全に復活するまでに最低でも1年~1年半かかることが見込まれています。供給量が元通りになるのは、早くても来年の春以降ではないでしょうか。目に見えないウイルスとの闘いですので、本当に深刻な状況です」と答える。
◆「卵の存在価値や意義を考えるきっかけに」
現在(2023年3月下旬)の状況はどうなのか。
「鳥インフルエンザの発生は、若干ではありますが落ち着いてきました。回復傾向ではありますが、10月末からはまた鳥インフルエンザの流行時期に差しかかってきてしまいます。
もし今回と同じような規模で発生してしまえばさらに状況が悪化しますし、なんとも断言ができません」と油断しない姿勢を見せる。
「最大限の対策を私たち生産者も取ってはいきますが、見えないウイルスとの闘いでは、『大丈夫』という発言はできません。今回の価格高騰や供給の面で、鶏卵にスポットライトが当たりやすくなっていますので、改めて卵の存在価値や意義を考え直すきっかけになれば嬉しいです」
養鶏場で働く人たちの頑張りによって家計が支えられてきたことがよくわかった。今後も卵や鶏肉を美味しくいただくために、養鶏場の運営については高い関心を持ちたい。
参考:鳥インフルエンザに関する情報(農林水産省)
<取材・文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki