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シンママ向け恋活アプリが「危険すぎた」わけ。子連れで恋愛する“困難”は想像以上

女子SPA! 2023年3月29日 17時48分

 前澤友作氏が監修に携わった、シングルマザー限定の婚活・恋活マッチングアプリ「coary(コアリー)」が1月下旬にリリースされ、わずか1日で配信停止となったことが話題になった。

 従来のマッチングアプリには見られない「子どもの年齢層・性別・人数の表示」や「元配偶者との関係」、「都合のつく曜日・時間」など、シングルマザーに配慮した項目が設けられていた。しかし、あえてシングルマザーを狙って子どもに手を出したり危害を加えたりする人間も紛れ込みかねないことから、リリース直後から批判が殺到した。

◆シングルマザーの恋活・婚活がいかに困難か

 公式のSNS等では、「シンママ当事者のご意見をいただきながら、事前に予防措置や監視体制も準備しておりましたが、今回お寄せ頂いたご意見を踏まえ、より慎重に進めるべきであると判断いたしました」と経緯を説明。また「早急にコンセプトや機能・サービス内容を改善し、利用者様の安心・安全を保証できると判断したうえで、改めてお知らせさせて頂きます」と今後のサービス再開の可能性も示した。

 一連の騒動から、いかにシングルマザーの恋活・婚活が困難であるかが浮き彫りになった。シングルマザーが新たなパートナーを探す際には、子どもの身の安全を第一に考えなければならないのだと、我々も考えさせられるきっかけになった出来事であった。今回はシングルマザーの支援を行うNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の理事長を務める赤石千衣子氏に、「coary」リリースの問題点、シングルマザーの婚活の難しさなど話を聞いた。

◆「シングルマザーと恋愛したい男性像」を考える

 まず「coary」の問題点として、「やはり子どもを狙ってシングルマザーに近づく人がいるのも事実です。子どもの年齢層や性別などを入力する項目があったことは配慮に欠けていたように思います」と指摘。

「以前、義父から性的虐待に遭っている子どもを持つ母親から相談を受けたことがあります。ショックを受けながらも、今後の生活に対する不安などから、なかなか義父と離れる決心がつかず、専門機関に繋ぐまで時間がかかりました。児童虐待は、発覚してから次のアクションに繋げるのにいくつものハードルがあるため、やはり可能な限りは児童虐待が『起きない』ように努めなければいけません。

 そのため、トライアル期間をしっかり設定して、専門家の監修のもと『シングルマザーと恋愛したい、結婚したい』という男性像をもう少し把握する必要があったのではないでしょうか」



◆注意すべき男性を見分けるチェック項目

 続けて「『こういう男性には気をつけよう』のようなチェック項目を掲載して、シングルマザー側が勉強する機会を設けても良かったと思います」と提案して、改めてシングルマザーが特に気をつけるべき男性の特徴を話す。

「私たちのNPO法人が運営しているサイト“イーヨ”内でもまとめているのですが(※)、注意すべき男性を見分けるチェック項目として『借金はないか』『子どもとのコミュニケーションが取れているか』といったことが挙げられます。

 その中でも特に『子どもの都合を優先できるか』は重要です。子どもがいるにもかかわらず、自分との関係を優先してほしい人と一緒になると、それはもう一人子どもが増えるのと変わりありません。そうなると女性にも子どもにも負担が一気に増すため、子どもがいることを配慮できる人かどうかは注目ポイントです」

※参考:「再婚の前にチェックすべきことは?」(子そだてシングルの応援サイト「イーヨ」より)

◆その結婚を、子どもは了承しているか?

 また、母親が子どものためにと再婚を望んでいても、こんな注意点があるという。

「子どもはどうしても発言権が弱い立場なので、仮に結婚を意識した関係に発展した際に『子どもが彼氏との再婚を了承しているか』ということは気にしなければいけません。『再婚して苗字が変わったら、まわりから変な目で見られるかも……』という不安を抱える子どももいます。時間をかけて納得してもらうよう、辛抱強くコミュニケーションがとれる男性(彼氏)が望ましいです。

 もちろん、シングルマザーと結婚して子どもともいい関係をつくっている男性も複数知っています。最初は苦労したと聞きます。辛抱強い方たちです」



◆虐待被害を防ぐため、子どもに学んでほしいこと

 子どもが虐待を受けないための方法として、「シングルマザーに限らないのですが、子どもへの暴力や虐待を防止するための『CAPプログラム』を受けることも良いと思います」と話す。

「子どもには安心、自由、自信という3つの権利があるということ、プライベートゾーンは(口、胸、性器、おしり)は人に触らせない、人にも勝手に触らないと伝え、いやな触られ方をしたら「いや」と言っていいということを伝えてくれるプログラムです。

 導入している学校もありますが、本もありますので家庭内でも教えてあげることで、虐待被害を防ぐことが期待できます。そうした考え方を知らない人もいるため、『coary』のアプリ内に知ってもらえるような仕組みを作っているなど、リスクを防止できる仕組みがあるとよかったですね」

◆異性と付き合っているだけで、児童手当が打ち切り?

 最後にシングルマザーの恋活・婚活の難しさについて聞くと、「まず仕事をしながら子育てしているので単純に時間がないため、出会いの機会を見つけたり、デートして関係を深めたりなどが難しいです」という。

「特に強調したいのが、彼氏と同棲すると児童扶養手当(※)が打ち切られることが多いという事実です(※ひとり親家庭向けの手当。受給には収入などの厳しい制限がある)。

 厳しい自治体ですと、彼氏がちょくちょく家に来る程度でも打ち切られる可能性があります。『彼氏が頻繁に家に出入りしているくせに、児童扶養手当をもらっていてずるい』といった連絡が行政に寄せられ、打ち切られるケースも珍しくないのです。

 しかし、子どもがいることで安定した職に就けないシングルマザー、経済的に苦しいシングルマザーは少なくありません。経済的な不安感を抱えており、児童扶養手当は重要なセーフティーネットです。行政はもちろん、近所に住んでいる人もそのことを理解していただけると嬉しいです」

 また、離婚後に自信を失っていたり、心理的にも弱っているシングルマザーも多いという。赤石さんは「まずは自分のいいところをみつけながら、いろいろな人とつながりをもって応援してもらえるようになるといい」という。



◆ひとり親世帯の相対的な貧困率は、先進国で最悪レベル

 しんぐるまざあず・ふぉーらむのまとめによると、子どものいる世帯の貧困率は、大人がふたり以上いる世帯では10.7%なのに対し、ひとり親世帯では48.1%にものぼるそうだ(厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査」の結果より)。この相対的貧困率は、先進国で最悪のレベルだという。

 今回の「coary」の騒動をただの“お騒がせニュース”として消費するのではなく、シングルマザーがどのような課題を抱えているのかを考えるきっかけにしてほしい。

【NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ】

シングルマザー当事者の経験をもち、かつ専門的な支援の資格とトレーニングを受けた支援者が、シングルマザーによりそいながら必要な支援を行う団体。2018年に認定NPO法人として認められた。ひとり親のためのセミナーや情報提供、子育て支援、就労支援などをおこなっている。

<取材・文/望月悠木>

【望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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