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TBSの元人気アナ、幼い頃から否定されてきた母の“本音”を聞いて「本当に良かった」と思った理由

女子SPA! 2024年3月16日 8時46分

 元TBSアナウンサーの久保田智子さん(47歳)が、ドキュメンタリー映画『私の家族』で初メガホンを握りました。

 本作は「TBSドキュメンタリー映画祭2024」の一作で、東京・大阪・京都・名古屋・福岡・札幌と全国6都市で3月15日(金)より順次開催されます。

 その題材は、ほかならぬ自身と家族のこと。2019年に特別養子縁組で新生児の娘を家族に迎えた久保田さんは、2歳になった頃(当時)から娘に生みの母の存在や出自について伝える“真実告知”を行っています。さらに自身の両親・家族の過去とも向き合い、さまざまな“対話”を重ねていくなか、家族の在り方について気づくことが多かったと言います。

 前後編でお届けする久保田さんのインタビュー。前編では映画制作にあたり、大切にしたことをはじめ、久保田さんのルーツである自身の母親との関係性について迫ります。

◆はじめは個人的な記録としてカメラを回していた

――娘さんとの初対面の日からカメラを回されていたと思いますが、その時から映像で発信していこうと思われていたのでしょうか?

久保田:そんなつもりは当初はありませんでした。あくまで個人的な記録として、毎日何かしらを撮って貯めていこうと思っていたんです。なぜならわたしたちは“当たり前の始まり”ではないから、何かひとつ積み重ねを可視化できるようにしたいなと思っていたんですよね。

目に見えるってすごく重要だと思っていて。たとえば何かあったとき「わたしたちどうして家族なの?」という話題になったときに記録を見返したい。1日目、2日目、3日目、4日目、毎日必ずその日にやったこと、どこにいたかなどを記録して、将来見て話せたらいいねと思っていたんです。映画には使っていないすごい量の映像と写真があります。

特別養子縁組をしたのは、アメリカで大学院を卒業して日本に戻ったばかりのころです。アメリカでは養子縁組が多く成立していて、オープンに話す空気感がありました。日本では成立件数も少ないし、オープンに話す人がまだまだ少ないのかなと思いました。

私はメディアに携わっていますし、特別養子縁組がどういう制度なのか、一例ではありますが自分の生活をオープンにすることで、特別養子縁組の理解が深まるきっかけになれたらと思いました。

◆「対話の大切さ」を伝えたい

――この作品には特別養子縁組制度やそれにまつわる家族の在り方など、いくつかテーマがあったと思いますが、監督としてはまず何を問いたかったでしょうか?

久保田:もちろん特別養子縁組の制度について知ってもらいたいという思いからはじまりました。でも面白い発見がありまして、映画を制作するというのは、自分の生活を俯瞰してみることになったんですね。そのことから、自分は人との関係性によって今の自分がつくられていて、自分も人に影響を与えているんだなと思いました。

映画の中でいうと、それは娘との関係性、夫との関係性、私を育ててくれた家族との関係性です。たとえばあの父母だからこそ、わたしのいまの性格があるのだなと思うし、自分が娘に何かを問いかけることも、おそらくひとつひとつが娘のあり様に影響を与えていくんだろうなって思うんですよね。

であれば、お互いにとっていい関係性でいるにはどうしたらいいのかも描きたいと思いました。私はそのためには、対話をすることが大切だと感じています。映画の中でも、父、母、夫、娘と、しっかり話すことを意識して描きました。身近な家族だからこそ、意識して話してみてほしい。勝手に思い込んでしまったり、誤解もをしたままにしてほしくない。自戒も込めて、対話の大切さを伝えたいと思いました。

◆両親との対話は「エネルギーが必要だった」

――このドキュメンタリー映画の中でご両親に会いに行くくだりがありましたが、もしかしたら当初の構想としてはなかったものなのでしょうか?

久保田:父母と話をしたいなとは常々思っていて、数年前から撮影をしていました。これも映画のためでなく、個人的に記録に残したかったからです。はじめは、父も母も嫌がるかなと思ったんですが、レンズを向けながら問いかけていくと、まあ、話す、話す、言葉があふれ出してびっくりしました。カメラやマイクには不思議な力があるのかもしれません。そして、もしかしたら、話を聞いてほしいけど、私が聞こうとしていなかったということもあるのかもしれないとも思いました。

おそらく普通にご飯を食べながらの日常会話ではなかなか深い話をすることも難しいですよね。よかったら皆さんにも、しっかり話を聞くという改まった機会をつくってみてほしいなと思います。

――そのお母さんとの本音の対話のシーンがとても印象的でした。幼い頃から積もり積もった想いもあるなか、あの場に座るまでにかなり覚悟していかれたのではないかと想像しましたが、その点はいかがでしょうか?

久保田:そうですね。撮ろう撮ろうと思って何度か広島の実家には行っていたのですが、実際には「じゃあ今から撮ろう」とはなかなか言い出せないでいました。

これは本当に難しくて、それこそ娘に真実告知をしているときも、自然な日常の中で当たり前のことのように伝えようと思うのですが、普段やっていないと自分の気持ちをそのまま相手に伝えることってなかなか難しいんですよね。 両親との対話は、そもそもほとんど機会がなかったので、それを作り出そうとするためには、結構なエネルギーが必要でした。

でも、対話をして本当に良かったです。これからも継続していきたいですす。なるほど、こういうふうに誤解が解けていったり、 お互いが分かり合えていくんだな、こうでもしなかったら勝手に自分の中で“親ってこういう人”という偏ったイメージ持ったままで付き合い続けていただろうなって、毎回発見があります。

◆自分に対して否定的だった母が口にした“本音”

――お母さんが言っていた「わたし、褒められて育ってこなかった」は本音と言いますか、なかなか自分の親から聞ける言葉ではないなと思いました。そのことで、お母さんへの理解は深まったわけですね?

久保田:母は否定的な態度が多かったんですね。わたしが何かを一生懸命やろうと思っても、それをなぜか応援してくれない。どうしてなのかなとずっと思っていたんです。でも、母も親から褒められたことがなく、ダメだって言われて育っていた。その環境の中で、母は悪い方、悪い方を想定して、自分を守っていたんだなと思ったんですよ、話をしていて。

そう考えると、母もわたしに能力がないと思って否定していたわけではなく、わたしを守るために一生懸命やってくれていたんだなって思えたんです。それがわたしにとって良かったかどうかは置いておいて、それはそれでひとつの愛情で、母にとっての合理性だったんだなと思いました。

――お母さんなりの考えがわかって、気持ち的に救われたんですね。

久保田:わたしもよかれと思って娘に対してやっていても、娘は理解できなくて、反発を招くことはあると思うんですよね。なので、その都度なぜ私はこうしたほうがいいと感じているのか理由を話して、娘はなぜそう思わないのかも聞いていくことが、きっと大切だろうなと思います。そんなふうになんでもフラットに言い合える関係性でありたいなと思います。

◆娘を迎えたのは「家族全体がスタートラインに揃ってから」

――血の繋がらない子どもを迎えるにあたり、旦那さんやご両親とは、どういうお話をされたのでしょうか?

久保田:夫はパートナーとしてわたしにないものをたくさん持っていて、わたしが変わるきっかけを与えてくれた人なんです。子どもについても、私が子どもができにくいということで、一緒に考えていこうと言ってくれました。そういう意味で夫と出会って本当に良かったと思っています。

最初はわたしと夫のスピードが違って、夫はもうちょっとゆっくりと制度について考え、子どもを持つとはどういうことかについて考えたいと。でもわたしはだいぶ前から考えていたから、早く特別養子縁組ができたらいいなと思っていました。でも、どちらかの気持ちで強引に進めるというより、お互いに話をしながら考えていきました。

また、特別養子縁組をあっせんしてくれる団体の方からは「親戚のみなさんや、特に周りでサポートしてくれるであろう人たちには、きちんと特別養子縁組で子どもを迎えることを説明してください」と言われました。

なので、父や母にも話をするし、夫の両親はもう亡くなっているのですが、お兄さん家族にも話をしに行って、二人だけの問題ではなく、もっと大きな家族全体の合意の上で、スタートラインにみんなが揃った時点で、 迎えるという段階を踏みました。これは振り返るとすごく良かったです。迎える前から、何かあったら一緒にやりましょうと言ってくれる人たちが周りにいた。これはすごく心強かったですね。

――そして本作は「TBSドキュメンタリー映画祭2024」の一作としてお披露目されますが、映画祭での上映が決まったときはいかがでしたか?

久保田:早い段階から検討はしていたのですが、特別養子縁組をどう描けばいいのかなと思っていました。というのも、特別養子縁組のことを忘れて観ていただくと、普通の子育ての記録だと思うんですよね。

毎日一生懸命、子どもの世話をしているように見えると思うんです。ただ違うことと言えば、出会い方と真実告知をしていることかなと思いました。特に真実告知は特別養子縁組の制度を知ってもらう上でとても重要なところで、ある意味で制度のことが凝縮されているようにも思って、映画にして皆さんに伝わることがあるのではないかと感じました。

<取材・文/トキタタカシ 撮影/山川修一>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

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