Infoseek 楽天

なぜ民放ゴールデン帯連続ドラマ“相手役”に「30歳韓国人俳優」が?その必然性を考えてみた

女子SPA! 2024年3月30日 15時44分

 音楽でも映画でも、韓国作品の方が圧倒的に面白いなら、日本作品にどんどん韓国人俳優を起用したらいい。

 2024年3月26日に最終回を迎えたドラマ『Eye Love You』(TBS)では、民放ゴールデンプライム帯連ドラ史上初の試みとして、主人公の相手役に韓国人俳優チェ・ジョンヒョプがキャスティングされた。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作でチェ・ジョンヒョプがキャスティングされた理由を考える。

◆韓国人俳優にキュンとするとき

 最近やたらと韓国人俳優にときめいてしまう。韓国映画やドラマを見漁るのはもちろん、慣れない韓国料理店巡りにも挑戦していこうかと思っているのだが、ぼくら日本人が韓国人俳優に思わずキュンとする瞬間ってなんだろ?

 例えば、バラエティ番組などで、K-POPアーティストが出演したとき。日本のファンへの感謝を言葉にした「ありがとごじゃいます」。カタコトの「ありがとうございます」をよく耳にする。

 ザ行をちゃんと発音してくれよなんて全然思わない。むしろ、これが特異点となる絶対的なキュン要素だと思う。

 ちなみに筆者は韓国BLの金字塔、映画『セマンティックエラー・ザ・ムービー』(2022年)のパク・ソハムやドラマ『梨泰院クラス』(2020年)の悪役で話題になり、ドラマ『軍検事ドーベルマン』(2022年)で初主演となったアン・ボヒョンなら、どんなカタコトでキュンとさせてくれるものかと、妄想中だ。

◆至福の「どじょ」

 そんな妄想をさらに加速させてくれたのが、二階堂ふみ主演のドラマ『Eye Love You』。二階堂の相手役として出演するチェ・ジョンヒョプが、最上にして至福の「どじょ」を響かせてくれたからだ。

 チョコレート商品を販売する「Dolce & Chocolate」を経営する本宮侑里(二階堂ふみ)は、仕事以外には気が回らない。ふとしたときに急激に空腹を感じるが、冷蔵庫の中は大抵空っぽ。デリバリー一択となる。

 配達員としてやってくるのが韓国からの留学生で、絶滅危惧種を研究する大学院生ユン・テオ(チェ・ジョンヒョプ)。単に商品を置いていくだけでなく、おすすめのお店メモを必ず添える。テオの手書きイラストに癒やされる侑里は、レコメンドされたお店からデリバリーするようになる。

 第1話で、ずぶ濡れになったテオが自分が作ってきたスンドゥブを差し出し、にっこり顔で「どじょ」と差し出す。この短いじゃじゅじょのカタコト発音、キャ〜っと叫びたくなる。何せチェの笑顔は、“クリーミースマイル”と形容されるくらい評判なのだ。クリーミーどころか、カルボナーラ級に濃厚じゃないかとも思うが。

◆ラブコメ作品のご愛嬌

 侑里は目があった相手の心の声が聞こえる“テレパス”という能力の持ち主なのだが、テオの心の声が韓国語なものだから全然意味がわからない。唯一心のうちが読めない相手としてどんどん興味を持つ。

 侑里が喜ぶほどテオも距離をグッと近づけていく。第2話でテオが「Dolce & Chocolate」のインターンとして入ってきて以来、オフィス外での待ち伏せ的な行動の数々が、さすがにストーカー的ではないかとの批判の声もあるようだが、まぁこれは必ずしもリアリティを担保する必要のないラブコメ作品のご愛嬌として。

 テオが侑里によくたずねる「お腹空いてますか?」は、韓国人の挨拶のような表現らしいけれど、どこか非日常的というか、この地上に舞い降りた天使感みたいなものをテオはまとっている。あのカタコトを聞いてしまうと、身体が勝手に武装解除してしまう。すべ手が許される、伝家の宝刀的な免罪符くらいに考えるべきだろうか。

◆キャスティング理由を考えてみる

 それはそうと、本作最大のギミックは、相手役の俳優として韓国人が配役されたこと。民放ゴールデンプライム帯ドラマ史上初だという。なんでまたこのタイミングで。そしてまたなんでチェ・ジョンヒョプがキャスティングされたの?

 正直、筆者は本作を見るまで彼の存在を知らなかった。日本でも話題になった『わかっていても』(2021年)などのNetflix世界配信作品で株をあげてきたらしいけれど、それにしてももっと日本で知名度のある韓国人俳優をキャスティングしてもよかったんじゃないか。

 でも考えてみると、『梨泰院クラス』のパク・ソジュンやアン・ボヒョンのようなクラスの韓国人俳優がもしキャスティングされていたら、ラブコメ特有のリアリティのなさとは別の意味で、日本のテレビドラマとしては極端に現実離れしてしまわなかったかしら。いや、もちろん、パクやアンに劣るわけではないけど。

 ただ、チェ・ジョンヒョプを配役することのちょうど良さはある。2022年放送の日曜劇場『DCU』など、海外のプロダクションとの共同制作や展開を画策するTBSの本腰ラブコメ作品として、韓国人プロデューサーが製作陣に入っている。

 深田恭子主演の『ダメな私に恋してください』(TBS、2016年)以来、日本屈指のラブコメ・ブランドを誇る火曜ドラマ枠のリアリティは、現段階では担保しておきたい。それを体現、担保できる逸材は誰かと探した結果、キャスティング会議で、チェ・ジョンヒョプがヒットしたものと思われる。

◆最大の萌えポイントは咳ばらい?

 チェのキャスティングによって、やや表情が強張る二階堂ふみに対するクリーミースマイルは引き立つし、ラブコメ作風としてもまろやかな印象を与えている。さらにもうひとつ、これは韓国人俳優ならでの力技ポイントがある。

 日本語の発音以外に筆者が気になって仕方ないのが、テオが発する咳ばらい。彼がちょっとモヤモヤした直後に決まって発せられ、毎話に必ず1度は確認できる。でも咳ばらいって、どちらかというと、相手に好印象を与えるものではない。

 なのに彼の咳ばらいは、不思議と肯定的に捉えたくなる。言葉を発する前に時折、「フッ」とうなずくテオの仕草同様に最大の萌えポイントだ。これはたぶん、日本人の俳優には表現できない、あるいは伝えきれない独特の呼吸感と空気感じゃないかと思う。

 クリーミースマイル、うなずき、咳ばらい。この3つを掛け合わせて算出された黄金比を元に、チェ・ジョンヒョプは視聴者をこれまでとはちょっと一味違う、新鮮な夢のラブコメ世界へと誘ってくれたのだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

この記事の関連ニュース