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朝ドラ『虎に翼』伊藤沙莉はヒロインらしくない?“不満顔”が人を惹きつけまくる理由

女子SPA! 2024年4月11日 8時46分

4月1日から伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の放送がスタート。第1週目「女賢しくて牛売り損なう?」から話題を集めています。

本作は、日本初の女性弁護士である三淵嘉子氏をモデルにした主人公・猪爪寅子(いのつめともこ)、通称トラコの物語。36年に一度の周期で訪れる1914年「五黄(ごおう)の寅年」に生まれ、自らの道を切り拓くために法律を学び、激動の昭和を生き抜くヒロインを、伊藤が演じています。

◆朝ドラには珍しい展開とヒロイン像

第1話の冒頭には昭和21年に公布された日本国憲法の第14条「すべて国民は、法の下に平等であって(以下略)」が読み上げられ、そこには強く確固たる意志を瞳に宿したヒロイン・伊藤の姿がありました。その後、朝ドラの定石ともいえる子役時代はなく、伊藤が演じる女学生時代からスタート。

「女の人の幸せは結婚って決めつけられるのが、どうしても納得できない」と語り、当時はそうあることが女の幸せと信じられていた常識に「はて?」と疑問をもつ。第1週の昭和6年時点においても、朝ドラにおいても、週タイトル「女賢しくて牛売り損なう?」にもある通り、少し珍しいヒロイン像です。

◆ヒロインらしくないのに、好感度が高すぎる伊藤沙莉

誤解を恐れずにいうと、伊藤は決して“華”のある役者ではありません。しかし、私たちは伊藤から目を離すことができないのです。その理由は伊藤がもつ圧倒的な“好感度”にあると思います。ヒロインを務めるほどの女優には、多少なりとも“アンチ”がいるものです。しかし、彼女を嫌いという人に筆者は会ったことがありません。

子役時代から、実に幅広い役柄を演じてきた伊藤ですが、どんなに憎たらしい役であっても観る者に嫌悪感を抱かせない。妙妙たる匙加減で、一つひとつの役柄を魅力的なキャラクターに昇華させています。第1週目の寅子では不服そうな表情が多く見られましたが、その彼女の不満顔には“共感”しかないのです。

◆「分かるわぁ~」共感されるリアリティが伊藤の武器

どこにでもいそうな――友だちや同僚、家族にいても決して不思議ではない。そんな“リアル”な親近感をもっているのが伊藤沙莉という女優です。観る者は「こういう子いる!」「分かるわぁ~」と、共感せずにはいられません。

『虎に翼』第1話から、伊藤は飛ばしていました。不本意なお見合いの場において、本当に何とも言えない不服そうな表情で「猪爪寅子です」と名乗ったのです。その表情の絶妙さが実に“リアル”。吹き出しました。まさか第1話で、朝ドラのヒロインがそんな顔をするなんて(笑)。

寅子はただ不機嫌な訳ではありません。「自分の幸せが、結婚すること」とは思えずに、心躍るなにかを探し求めたい。けれど、それが何かはまだよく分からなくて、すっきりしない。伊藤は、寅子がお見合いに臨む際の背景にある「漠然とした不安や不満」を“リアル”な表情で伝えたのです。それがまたチャーミングで、人間らしくて、観る者を惹きつけます。

◆類いまれな「ヒロイン力」で朝ドラを生き抜く

そして、伊藤は何よりキャラクターを“嫌われさせない”天才。もちろん脚本の妙もありますが、下手すると「勝気」「生意気」「我が強い」と思われてもおかしくない役柄や台詞であっても、その人物ならではの魅力を映し出します。まだ1週目にも関わらず、すでに寅子のキャラクターに魅了されているのは、筆者だけではないはず。

印象的だったのが、第4話の兄・直道(上川周作)と寅子の親友・花江(森田望智)の結婚式で、父・直言(岡部たかし)に強引に歌わされたシーン。親友の幸せを願いながらも結婚への疑問を払拭できない寅子の複雑な心情を、迫力ある歌唱で表現しました。「なんで女だけニコニコ、こんなに周りの顔色を伺って生きなきゃいけないんだ?! なんでこんなに面倒なんだ?! なんでみんなスンッとしてるんだ?!」というナレーションと、伊藤の笑っているのに怒りも感じる表情が見事にマッチ。SNSでも話題になりました。

そして、涙を誘ったのは第5話。「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い振りをするしかない」と強く諭す母・はる(石田ゆり子)に、真摯に向き合って決意表明しようとする姿は秀逸でした。母親を傷つけたくない。母を尊敬している。けれど、心躍る場所で自分のよりよい生き方を模索したいという想いを諦められない。寅子のどうしようもない葛藤を表現していました。

◆世間の常識や当たり前に「はて?」と立ち向かう

巧みな語りで物語をけん引する尾野真千子のナレーションに、松山ケンイチ、仲野太賀、森田望智、石田ゆり子、小林薫らの魅力的なキャラクターたちも相まって、『虎に翼』の良作ぶりを感じさせられた第1週。寅子は何度も「はて?」と口にしました。毎週のタイトルでは、女性にまつわる諺(ことわざ)の最後にクエスチョンマークがつけられており、世間の常識や当たり前に「はて?」と、疑問を持ち、理解し、憤り、立ち向かおうとする姿が描かれることが想定されます。

劇中で寅子は、悲しそうに、悩ましそうに歩く女の子や女性とたびたびすれ違っていました。きっと彼女はそんな人たちに寄り添うような法律家へと成長することでしょう。視聴者が共感する等身大のヒロイン像を体現する伊藤が、寅子としてどう生き抜くのか。目が離せません。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201

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