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DVで妻が家出したのに「俺は悪くない」と怒る男。後日“同僚の話”に青ざめた<漫画>

女子SPA! 2024年6月19日 8時47分

モラハラ加害者の視点を描き大きな反響を呼んだコミック『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』。その続編『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』(漫画:龍たまこ、原作:中川瑛/KADOKAWA刊)は、父親のモラハラ・DVが原因で絶縁した「父と娘」の物語です。

社内で“仏の鳥羽さん”と慕われながら、大手商社で管理職を務める男性・鳥羽。その過去の顔は、厳しすぎるハラスメント上司でした。家庭でもモラハラとDVを繰り返した結果、離婚しています。

その後、同世代の男性3人でルームシェアをする鳥羽と、「許せない毒父」のトラウマを抱え続ける娘・奈月。娘は父を許すのか? 娘もまた、毒親になってしまうのか? ハラスメントの連鎖は断ち切れるのか――? 仕事と家庭、家族のつながりについて考えさせられる話題作を、出張掲載。

さらに、3人の子どもを育てるマンガ家でシングルマザーの龍さんと、モラハラ・DV加害者のための変容支援コミュニティGADHAを主宰する原作者の中川さんに、本作について語ってもらいます(以下、KADOKAWAの寄稿)。

◆被害者に「許さない」という選択肢を与えないのは暴力的

――被害者は加害者を「許さなければいけないのか」。こんなに反省しているんだから……とつい周りは思ってしまいますが、奈月に限らず、被害者からすればこんなに苦しい状況はありません。この問題についてお二人のご意見をお聞かせください。

漫画・龍たまこさん(以下、龍):わたしは保育園で働いていますが、保育現場でよく見られるのが「ごめんね」→「いいよ」の強制です。

加害者に「ごめんね」と謝られたら、被害者は「いいよ」と許してあげなければいけない、と教える先生は多いです。謝られたら、許してあげましょう。これを小さい頃から教え込むのです。これは、人間関係を円滑にするためには必要なスキルと言えます。ですが、あまりにも加害者寄りの考え方とも言えます。被害者に「許さない」という選択肢を与えないのは、暴力的なことかもしれないなと思います。

一般的に「許し」は良いこととされ、成熟している証とされるのに、「許さない」というのは、わがままで、子どもっぽいこととして捉えられることが多いのではないでしょうか。それが更に被害者を苦しめている気がします。個人的に、許す許さないはどっちでもよくて、許した方が楽になるならそうすればいいし、そのタイミングではないなら、許す必要はないと思います。

加害者目線で言うと、「人を傷つけても謝ったら許してもらえる」というよりも、「謝ることはできるけど、許してもらえるかはわからない」が正しいような気がしています。

原作・中川瑛さん(以下、中川):とにかく許さなくていい。誰にも許しは強要されてはならない。許さなくても幸せになれます。同時に、加害者もまた、直接の被害者に許されなくても、自他へのケアを通して、幸せになってよいと考えています。

◆子育てや教育の“最適解”は、いつまでも最適解ではない

――今回、もうひとりの加害者として、鳥羽の同僚である北見という人物が登場します。彼は時代が変化していることに気づかず、自身のモラハラを正当化して泥沼に陥ってしまいます。「自分が若い頃にされてきたことだから」と踏襲してしまうのは我々もやりがちなことです。常に時代は変化していますが、その際に気をつけるポイントや北見について思うことなど教えてください。

龍:北見さんもある意味では被害者と言えますよね。彼は自分が先輩から学んできたことを部下にも同じようにしているだけなのですから。今の時代になるまではそれで上手くいっていたわけなので、ある程度年齢を重ねてからやり方を変えるのは簡単なことではありません。この作品においては異質なキャラクターに思えるかもしれませんが、わたしたちの周りに北見さんみたいな人はたくさんいると思います。

わたしが子育てをしている中でいつも考えることがあって、それは「今の時代にはこれが正解とされているけど、この子達が大きくなったときにも正解のままとは限らない」ということです。

自分は今この時代に母親として生きているので、できるだけこの時代の最適解とされる育児をしようとするわけですが、その最適解はいつまでも最適解ではないということ。それが原因で子どもたちから非難される可能性があるということ。それを受け入れる覚悟が必要だなと思います。

変化を受け入れ、「これが正しい」と固定化するのをやめて、柔軟に生きて行ければと思います。

◆人は本当に困るまで、反省もしないし学びもしない

中川:やはり加害の定義は変わっていくという厳然たる事実というか、歴史的な現実だと理解することが重要だと思います。良かれと思ってやっていること、普通だと思ってやっていることの多くは、自分自身もされてきたことです。それを疑うということは、幸福とは何か、善悪とは何かといった、人間の基本的な世界の感覚を疑い続けることであり、とっても疲れることだし、しんどいことです。

自分はできない、自分はもう古い人間だ、だから仕方ない、と開き直った方がずっと簡単だし、なんなら生きやすい可能性さえあります。人を傷つけながら、それでもいいんだと居直ることだってできるからです。

実際、人は本当に困らない限りなかなか変わることはできないと思います。別居・離婚といった出来事があるからこそ自分の加害性を認めてGADHA(モラハラ・DV加害者変容に取リ組む当事者団体)に参加する人はよくいます。それと同じように、職場の加害も、ハラスメントで実際に自分に問題が起きるまでは、これが普通だという感じで、大して反省もしないし、学びもしないものです。

◆「自分たちの世代から急にダメなんて……」と驚く加害者たち

中川:だからこそ、実際に困るような環境を作ることはとても大切です。学びましょう、といっても人は学びません、学べません。そんなに簡単に人は自分を変えようとは思えません。だから、困ってもらうことが重要だと思います。

ハラスメント防止法などによって実際に処罰されるようになったら人は変わろうとします。最近も映画監督の性加害や、お笑い業界の性加害、アイドル業界の性加害などが続々と取り沙汰されるようになりました。これまでのたくさんの被害者の方を思うと言葉も出ないほどの悲しみ、傷つきの蓄積があると思いますが、それでもなんとか向き合っていく。

この時に、加害者たちは突然自分たちがやっていることが悪だと断罪されることに驚いていると思います。上の世代は普通にやっていたのに、自分たちの世代から急にダメなんて……と。部活で顧問や先輩にしごかれていた世代が、後輩をいびろうと思ったらそれはダメと言われるような感覚というか、そういった不平等感を感じ、自分たちは貧乏くじを引いたと思っているかもしれません。

◆「あなたは間違っています、はいさようなら」で終わらせない

中川:こうした状況をまずは作った上で、その人のことを見捨てずに、関わっていくことが大切だとも思います。あなたは間違っています、はいさようなら、とされてしまっては、人は学ぶ気にはならないでしょう。憎しみをいだき、恨み、そちらの方こそ間違っていると頑なになり、あるいは自分はもう時代に合わないからと学び反省することもなく、また身近な人間関係においては加害を続けながら、生きていってしまうでしょう。

そうではなく、そこから学び変わることができるということを示し、共にやっていこうよと、生きていこうよと、間違えることもあるけれど、そこから始めることができることもあるよと、そういって手を取ってくれる人が、この世界には必要なんだと思います。

そのような意味で、この本の中で北見に対して鳥羽が伝える言葉や、彩(鳥羽の部下・翔の妻)が鳥羽に伝えてくれる「生きてください」というセリフが本当に大切です。人は間違える、失敗する。加害をする。憎まれる。許されないこともある。それでも生きて、生きて学び変わっていくことで、自分のことも他人のことも慈しみ、大切にすることができる。遅すぎるということは決してない。だから、生きていこうよ。こう言える関係や、それを支える文化や制度、学びの共同体がこの社会には必要だと思います。

【龍たまこ】

3人の子どもを育てるマンガ家。1981年生まれのシングルマザーで、保育士の資格を持つ。ライブドア公式ブログ「新・規格外でもいいじゃない!!-シングルマザーたまことゆかいな子ども達-」をほぼ毎日更新中。著書に『規格外な夫婦~強迫症夫と元うつ病妻の非日常な日常~』(宝島社)、『母親だから当たり前? フツウの母親ってなんですか』(KADOKAWA)。X(旧Twitter):@ryutamako、Instagram:@ryu.tamako2

【中川瑛】

モラハラ・DV加害者変容に取リ組む当事者団体「GADHA」代表。妻との関係の危機から自身の加害性に気づき、ケアを学び変わることで、幸せな関係を築き直した経験から団体を立ち上げる。現在は加害者個人だけではなく、加害的な社会の変容にも取り組んでいる。著書に『孤独になることば、人と生きることば』(扶桑社)、『ハラスメントがおきない職場のつくり方 ケアリング・ワークプレイス入門』(大和書房)。X(旧Twitter):@EiNaka_GADHA

<構成/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
大人女性のホンネに向き合う!をモットーに日々奮闘しています。メンバーはコチラ。X:@joshispa、Instagram:@joshispa

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