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タトゥーがあることで、近所で悪い噂を流されて…作者に聞いた“世間の偏見”<漫画>

女子SPA! 2024年6月5日 8時46分

 電子書籍『ぼくのパパにはタトゥーがある』(KADOKAWA)は、主人公のリョウが若い頃に入れたタトゥーについて近所で悪い噂を立てられてしまい、子どもや妻に対する嫌がらせに発展していく様子が描かれています。

「家族を守る」という誓いを込めて入れたタトゥーでしたが、家族が苦しんでいる姿を見て、リョウはある決断を下します。本作品は、モデルとなる男性から聞いた話を元に、著者の丸田さんが創作したといいます。

 本記事では丸田さんに、タトゥーに対する偏見や、近年の変化などについて聞きました

※本記事は全9回のうちの3本目です

◆嫌がらせの原因は、タトゥーとは別のところにある

――主人公のリョウは、近所の奥さんに悪い噂を広められてしまいますが、何がきっかけだったのでしょうか。

丸田:タトゥーがやり玉に挙げられましたが、それは印象操作がしやすかっただけで、本当の原因は別にあると思います。作中の奥さんの場合は、リツコと比べて自分の家庭がうまくいっていないと感じたときに、リョウがタトゥーを入れていることが、悪く言うのにすごく簡単なポイントだったんだと思います。

――リョウの悪い噂が広まったことで、子どもがいじめに遭ってしまいますが、担任の先生の対応もタトゥーを入れている人に対する偏見があるようでした。

丸田:この先生が、タトゥーに対する偏見を持って嫌がらせをしている児童に注意をしないのは、おかしいと思いながら描いていました。この対応は、簡単に言うとマイノリティのほうを追いやるやり方だと思うので、リツコは本当に嫌な思いをしたと思います。世の中には、いじめ問題に真摯に対応している先生がいる一方で、何もしてくれない先生もいると聞くことがあるので、こういう先生もいるのかなと思います。

――多様性を認めようという時代の流れがある一方で、タトゥーに対するネガティブなイメージがまだまだ強いのはなぜだと思いますか?

丸田:私が調べた限りでは、実は職業によってはタトゥーが禁止されているのは日本だけではなく、アメリカでも禁止されているところはあるみたいです。アメリカは寛容なイメージがありますが、就職には絶対に響かないということも無いようです。でも警察官はタトゥーを入れていたりするし、日本のように「タトゥーを入れていたら絶対にアウト」という考え方ではないところが大きな違いなのかなと思います。

◆テレビ番組のタトゥーの扱いに変化?

――日本と海外でタトゥーに対する意識に違いがあるのはなぜだと思いますか?

丸田:やはり歴史の違いが大きいんだと思います。長い間、ずっとネガティブなものとして扱われてきた背景がありますから。その名残で温泉やプールも禁止されているし、それがずっと残っているんだと思います。

 若い世代は「別に怖いものじゃないよね」と思っている人は増えていると思うのですが、私の親世代だとネガティブなイメージが強い印象がありますね。

――世代交代が進んでいくことで、偏見が無くなっていくのでしょうか。

丸田:そうあってほしいなと思います。個人的に最近「おっ」と思ったのですが、以前はNHKの音楽番組では、ミュージシャンはタトゥーが入っている場所をアームカバーなどですべて隠されていたんです。でも2023年の紅白歌合戦では、YOASOBIのAyaseさんなどのタトゥーが普通に映っていたんです。経緯は分からないのですが、タトゥーが「映してはいけないもの」から変わってきたのかなと思いました。

――インバウンドで海外からの旅行者が増えていくことでも、変化があるかもしれないですね。

丸田:ホテルなどでタトゥーが入っているから大浴場に入れないと言われたら、海外の方は疑問に感じるかもしれないですね。

◆ラストの展開に込めた思い

――リョウは、家族のためにタトゥーを消す選択をしますが、自分の誓いを込めたものを消すのはかなりつらいことだったのではないでしょうか。

丸田:つらかったんだろうなと想像しますが、男性はあまり「つらい」と言わない人が多いので、私の推測で描いています。モデルになった方も含めて、生きていくなかで結婚して家族ができて、自分の大切なものの優先順位が変わったと明確に分かったんだと思います。だから最後は悲しいとかつらいとか言わず、未練なく断ち切ったんじゃ無いかと思って描きました。

――モデルになった方はどの程度綺麗に消えたのでしょうか。

丸田:その方は、10代で入れたタトゥーを50代前後になってから消したそうです。美容クリニックで除去したと言っていました。傷跡を見せてもらったらアザのようにはなっていたけど、タトゥーが入っていたとは分からないようにはなっていました。

 個人的には、技術が発達してタトゥーを簡単に綺麗に消すことができるようになったら、今よりはライトな感覚のものになっていくのかなと思います。

――物語のラストで、リョウの息子がある選択をしますが、どのような思いを込めて描いたのでしょうか。

丸田:自分の理想でもあるのですが、リョウとリツコという夫婦が自分の意見を押し付けない親であってほしいなと思って描きました。1人の人間だと認めて、息子の選択を「いいんじゃない」と受け入れる懐の深さが伝わるといいなと思っています。

――タトゥーに対する偏見などに関して、もう少し変わっていくといいなと思うことはありますか?

丸田:あまり偉そうなことは言えないのですが、あくまでも個人の自由に委ねられることだと思いますので、メディアなどであまり悪い印象操作はしないでほしいと思います。例えば、逮捕された人や、不倫がバレたミュージシャンの報道でタトゥーが目立つ写真が使われていることが多いなと感じるんです。そういうのを見て傷つく人もいるかもしれません。

既にタトゥーを入れたことで悩んでいる方は、人生を歩みながら考え方が変化するなかで、そのときに悔いのない選択をしていただくしかないのかなと思います。

<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

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