昨年5月、30代に入った福士蒼汰さん。海外作品『THE HEAD Season2』(Hulu)で全編英語のセリフに挑戦したかと思うと、大評判を集めたNHK『大奥』ではふた役を務めるなど、俳優としての実力を発揮しています。
現在は、松本まりかさんとW主演を務める映画『湖の女たち』が公開中で、さらに今年はWOWOWのアクターズ・ショート・フィルム4で短編映画『イツキトミワ』を監督。
そんな福士さんに話を聞くと、「よく、自分のプラスを伸ばしていったほうがいいと言いますよね。でも僕は、そうなのかな?と思うんです」と、一見、意外な言葉が返ってきました。
◆周りは「これ、福士くん、やるの?」って
――公開中のミステリー『湖の女たち』は全くの別人です。それこそ、らしさゼロ。現場ではカメラの外でも、松本まりかさんに全く話しかけなかったと聞いています。(福士さん演じる圭介は、松本さん演じる佳代に歪んだ支配欲を募らせていく役柄)
福士蒼汰さん(以下、福士)「おっしゃる通りです」
――一般的なイメージの福士さんも、こうして目の前にいる福士さんも爽やかな方ですが、本編ではそんな印象を完全に覆します。オファーを受けることに躊躇は?
福士「吉田修一さんの原作で、大森立嗣さんが監督だと聞いて、それだけで魅力的に感じましたし、実際に作品を読んでも、全く躊躇はありませんでした。周りの方々は、あまりに僕のイメージと違うので、戸惑いはあったかもしれません」
――ですよね。福士さんが「こんなセリフまで口にするの!?」とビックリするようなシーンも出てきますし。
福士「僕自身は、絶対に間違いない作品だと思いました。ただ原作を読んで、自分のキャラクターの難しさや、理解しがたいところがあったので、そういった部分に悩みました。佳代の心情は詳細が描かれているのですが、圭介に関しては、刺激剤のような感じがあって、佳代のほうから読み取る必要があるというか」
◆理解しようと考えるのではなく、感性を頼りに
――深堀りが難しい役柄だったんですね。
福士「現場に入ったら、大森監督が“全部引き算でいいから”と。その言葉が圭介を演じる上でかなり重要だったと思います」
――結局、圭介のことはどんな人物だと。
福士「頭で理解しようとしても、すべて理解することは難しいんです。彼の状況と、苦悩している、葛藤しているということだけを頭に置いて、あとは、お芝居をするその瞬間だけにフォーカスしました」
――理解しがたい人物を演じる際は、どういうマインドで向き合うのでしょう。
福士「左脳を放棄して、いかに右脳だけでお芝居できるか。こう感じたからこう動きたい、だからこう喋る、動く。それだけにフォーカスする。自分のお芝居が観ている人にどう映るか、ということは考えない。脳ミソを通さずに脊髄(せきずい)でお芝居をするような感覚です。理解しようと考えるのではなく、感性を頼りにする。そのほうがよりリアルになるかなと」
◆自分の中の反射だけでお芝居をしていったほうが、よりリアルに
――そのほうがリアルに?
福士「これがもし、いわゆる王道のエンタメ作品や、時代劇のような自分自身とかけ離れた役であれば、いろんな勉強をして理解しないとその人になれない。
だけど、この作品は人間のリアルを描いている。そういう意味ではむしろそぎ落として、自分の中の反射だけでお芝居をしていったほうが、よりリアルになっていくんだろうなと。でも、滋賀弁を覚えるときはかなり脳ミソを使いました(笑)」
――いろんなことに挑戦できている福士さんですが、役者として『湖の女たち』は、いい経験でしたか?
福士「いい経験でした。そぎ落としていく作業というのを初めて学びました。新しい世界が広がったなと感じています」
◆俳優として14年間積んできた経験も活きた監督業
――今年は監督業にも初挑戦。『イツキトミワ』を観て泣きました。
福士「本当ですか! うわ、嬉しい」
――脚本も書かれたんですよね。
福士「はい。まったく経験がなかったのですが、挑戦させていただきました。最初はプロットだけ書くつもりだったのですが、想いを込めれば込めるほど全部書きたくなって」
――新しいことに挑戦してみて、自分自身への新たな可能性を感じましたか?
福士「もちろん未熟ではありますが、ショートフィルムとして完成させることができたのは嬉しかったし、自分が俳優として14年間ほど積んできた経験も活かされたと思います。
これからも俳優のお仕事はもちろん、制作にも携わるチャンスがあったら挑戦したいなと思います。もともと自分はひとつのことではなく、いろんなことに取り組みたいタイプなので、これからもいろんなことに挑戦していこうと思っています」
◆マイナスをゼロにして、すべてをプラスに
――チャレンジして「完成できた」ことは自信になりましたか?
福士「自分が、どこが苦手なのかを認識できるようになってきたこともあり、悔しい思いをすることもあります。苦手なことや、できないことをマイナスと捉えるなら、そこをどうゼロに持っていくかが課題だと思っているんです。よく、自分のプラスを伸ばしていったほうがいいと言いますよね」
――言いますね。
福士「でも僕は、そうなのかな? マイナスをゼロにしたほうがいいんじゃないのかなと思うんです。マイナスをゼロにすれば、全部がプラスになりますから。プラスを伸ばすのはもちろんですが、得意なことは勝手に伸びていくと思うんです。でも、苦手なことは、意識しないとゼロに持っていけない。それが俳優には必要だと思います。
俳優は、何かできない役を演じる場合も、できないものをただできないまま演じるのと、実際はできていて、把握しているうえで、できないように演じるのとでは全然コントロールが違ってくると思います。だから、なるべく何事もゼロに持っていくことは大事かなと思って」
◆自分らしくいるから、ストレスフリーでオンオフなし
――そうすると、これからも仕事にまい進する必要がありますが、オンオフは切り替えていますか?
福士「自分の場合は、オンとオフを考えないんです。スイッチがない状態というか。あえてオフを作るということが、僕は全くないんです」
――昔からですか?
福士「昔は気を張ってた部分もあって、オンを特に意識していたように思います。でもオンとかオフとか関係なく、どこの場であっても自分らしくいれば大丈夫なんだと、ある頃から気づいたというか。そう思うようになってからは、ストレスが減って自信を持てるようになりました」
<取材・文・撮影/望月ふみ>
(C) 2023 映画「湖の女たち」製作委員会
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
現在は、松本まりかさんとW主演を務める映画『湖の女たち』が公開中で、さらに今年はWOWOWのアクターズ・ショート・フィルム4で短編映画『イツキトミワ』を監督。
そんな福士さんに話を聞くと、「よく、自分のプラスを伸ばしていったほうがいいと言いますよね。でも僕は、そうなのかな?と思うんです」と、一見、意外な言葉が返ってきました。
◆周りは「これ、福士くん、やるの?」って
――公開中のミステリー『湖の女たち』は全くの別人です。それこそ、らしさゼロ。現場ではカメラの外でも、松本まりかさんに全く話しかけなかったと聞いています。(福士さん演じる圭介は、松本さん演じる佳代に歪んだ支配欲を募らせていく役柄)
福士蒼汰さん(以下、福士)「おっしゃる通りです」
――一般的なイメージの福士さんも、こうして目の前にいる福士さんも爽やかな方ですが、本編ではそんな印象を完全に覆します。オファーを受けることに躊躇は?
福士「吉田修一さんの原作で、大森立嗣さんが監督だと聞いて、それだけで魅力的に感じましたし、実際に作品を読んでも、全く躊躇はありませんでした。周りの方々は、あまりに僕のイメージと違うので、戸惑いはあったかもしれません」
――ですよね。福士さんが「こんなセリフまで口にするの!?」とビックリするようなシーンも出てきますし。
福士「僕自身は、絶対に間違いない作品だと思いました。ただ原作を読んで、自分のキャラクターの難しさや、理解しがたいところがあったので、そういった部分に悩みました。佳代の心情は詳細が描かれているのですが、圭介に関しては、刺激剤のような感じがあって、佳代のほうから読み取る必要があるというか」
◆理解しようと考えるのではなく、感性を頼りに
――深堀りが難しい役柄だったんですね。
福士「現場に入ったら、大森監督が“全部引き算でいいから”と。その言葉が圭介を演じる上でかなり重要だったと思います」
――結局、圭介のことはどんな人物だと。
福士「頭で理解しようとしても、すべて理解することは難しいんです。彼の状況と、苦悩している、葛藤しているということだけを頭に置いて、あとは、お芝居をするその瞬間だけにフォーカスしました」
――理解しがたい人物を演じる際は、どういうマインドで向き合うのでしょう。
福士「左脳を放棄して、いかに右脳だけでお芝居できるか。こう感じたからこう動きたい、だからこう喋る、動く。それだけにフォーカスする。自分のお芝居が観ている人にどう映るか、ということは考えない。脳ミソを通さずに脊髄(せきずい)でお芝居をするような感覚です。理解しようと考えるのではなく、感性を頼りにする。そのほうがよりリアルになるかなと」
◆自分の中の反射だけでお芝居をしていったほうが、よりリアルに
――そのほうがリアルに?
福士「これがもし、いわゆる王道のエンタメ作品や、時代劇のような自分自身とかけ離れた役であれば、いろんな勉強をして理解しないとその人になれない。
だけど、この作品は人間のリアルを描いている。そういう意味ではむしろそぎ落として、自分の中の反射だけでお芝居をしていったほうが、よりリアルになっていくんだろうなと。でも、滋賀弁を覚えるときはかなり脳ミソを使いました(笑)」
――いろんなことに挑戦できている福士さんですが、役者として『湖の女たち』は、いい経験でしたか?
福士「いい経験でした。そぎ落としていく作業というのを初めて学びました。新しい世界が広がったなと感じています」
◆俳優として14年間積んできた経験も活きた監督業
――今年は監督業にも初挑戦。『イツキトミワ』を観て泣きました。
福士「本当ですか! うわ、嬉しい」
――脚本も書かれたんですよね。
福士「はい。まったく経験がなかったのですが、挑戦させていただきました。最初はプロットだけ書くつもりだったのですが、想いを込めれば込めるほど全部書きたくなって」
――新しいことに挑戦してみて、自分自身への新たな可能性を感じましたか?
福士「もちろん未熟ではありますが、ショートフィルムとして完成させることができたのは嬉しかったし、自分が俳優として14年間ほど積んできた経験も活かされたと思います。
これからも俳優のお仕事はもちろん、制作にも携わるチャンスがあったら挑戦したいなと思います。もともと自分はひとつのことではなく、いろんなことに取り組みたいタイプなので、これからもいろんなことに挑戦していこうと思っています」
◆マイナスをゼロにして、すべてをプラスに
――チャレンジして「完成できた」ことは自信になりましたか?
福士「自分が、どこが苦手なのかを認識できるようになってきたこともあり、悔しい思いをすることもあります。苦手なことや、できないことをマイナスと捉えるなら、そこをどうゼロに持っていくかが課題だと思っているんです。よく、自分のプラスを伸ばしていったほうがいいと言いますよね」
――言いますね。
福士「でも僕は、そうなのかな? マイナスをゼロにしたほうがいいんじゃないのかなと思うんです。マイナスをゼロにすれば、全部がプラスになりますから。プラスを伸ばすのはもちろんですが、得意なことは勝手に伸びていくと思うんです。でも、苦手なことは、意識しないとゼロに持っていけない。それが俳優には必要だと思います。
俳優は、何かできない役を演じる場合も、できないものをただできないまま演じるのと、実際はできていて、把握しているうえで、できないように演じるのとでは全然コントロールが違ってくると思います。だから、なるべく何事もゼロに持っていくことは大事かなと思って」
◆自分らしくいるから、ストレスフリーでオンオフなし
――そうすると、これからも仕事にまい進する必要がありますが、オンオフは切り替えていますか?
福士「自分の場合は、オンとオフを考えないんです。スイッチがない状態というか。あえてオフを作るということが、僕は全くないんです」
――昔からですか?
福士「昔は気を張ってた部分もあって、オンを特に意識していたように思います。でもオンとかオフとか関係なく、どこの場であっても自分らしくいれば大丈夫なんだと、ある頃から気づいたというか。そう思うようになってからは、ストレスが減って自信を持てるようになりました」
<取材・文・撮影/望月ふみ>
(C) 2023 映画「湖の女たち」製作委員会
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi