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42歳で発覚した乳がんがきっかけで夫婦関係にヒビ…治療だけじゃない“大きな不安”とは

女子SPA! 2024年6月25日 8時45分

 2016年、42歳のクリスマスイブに突如乳がん宣告。(ステージⅡB)。晴天の霹靂だった「がん宣告」から約1年間、泣いたり笑ったり怒涛の日々を駆け抜けた、私のがん治療ドキュメンタリーを連載でお届けしています。

※治療方針や、医師や看護師の発言は筆者の病状等を踏まえてのものであり、すべての患者さんに当てはまるものではありません。また、薬の副作用には個人差があります。

◆抗がん剤治療中、引越しをきっかけに夫婦関係が…

 抗がん剤を打っている真っ最中、「いろんなことをリセットしたい」という心境になっていた私はある日、運命の物件と出会ってしまいます。「引っ越したい!」と強く思うようになり夫に相談すると、変化が嫌いな夫は反対しつつも、内見に行くことは許してくれました。

 仲介業者の女性と盛り上がりウキウキ気分で内見を終えましたが、その後、夫がまさかの大激怒。そんな計画は微塵もありませんでしたが、夫が引き下がれないように意図的に追い込んだと思わせてしまったようなのです……。

 夫が機嫌を損ねたまま、成約は無事済みました(いまだに夫が何を考えていたのかわかりません……)。しかし夫婦関係にはヒビが入ってしまったまま。そんな状況で抗がん剤治療を続けていました。

「なぜ、あのときにあのタイミングで、そんなことが起こったのだろう?」と今でも不思議な気持ちになることがあります。今まで引っ越しのチャンスは何度もあったのにピンと来ず、よりによって乳がんの治療中にこれ以上ない好条件の部屋にこのタイミングで出会ってしまったことは、なにか運命のようなものを感じてしまったのでしょう。

 自分の直感としか言いようがないものに動かされているような感覚を持って起こした行動ですが、ここまで夫婦関係がおかしくなってしまった現実もあり、何か大きな間違いを犯してしまったような気持ちでふさぎ込んでいました。

◆抗がん剤治療の副作用にも怯える日々

 せっかくの新しい部屋なのに、具合が悪く、ベッドで横たわっているだけ。喜ばしいことなのに喜べていない自分も嫌でしたし、そんなことを言いだした自分も責め続けていました。

 そんな時期に、パクリタキセルという抗がん剤の治療をしていました。脱毛ももちろんですが、それに加えて主な副作用が「しびれ」と「むくみ」です。

 この薬は、3週間に1度のサイクルで行う「AC療法」とは違い、毎週1回の点滴を12週間続けるサイクルで行われます。脱毛の副作用もありますが、AC療法のような吐き気の副作用は少ない代わりに、毎週少しずつ「しびれ」が現れるというのです。末梢神経に作用してしまうので、手や足の先に影響が出てしまうとのこと。

 怖がりのわたしは、抗がん剤開始までに、副作用についてあれこれ調べすぎてしまいました。それで想像が膨らみ、いったいどんなしびれが襲ってくるのか怖くて仕方がありませんでした。しびれは打つたびに少しずつ強くなるようなのですが、個人差があり、指先がうまく使えないなど生活に支障が出る場合があるとのこと。

 あまりに怖くて、初回に打つときにも先生に何度も話を聞きました。先生は「本当にしびれて日常生活に支障が出るならQOLを優先して途中で辞めることも考えますから、毎回相談しながらやっていきましょう」と言ってくれました。

 やるしかない。どうせやるならやりきらねば。と思い詰めていたので、先生の優しい言葉で少し気持ちが和らぎました。

◆毎週抗がん剤を打つか迷うほどの不安に襲われる

 そしてスタートした週に1度の抗がん剤。今回は吐き気が出にくい薬なのでそこはあまり心配しませんでしたが、その分「いつしびれが来るか」と気が気ではありません。最初の2回くらいは何もなかったのですが、3回目くらいからうっすらとしびれの副作用が発現しだしました。このしびれという感覚は、なんとも形容しがたい感覚でした。

 手の指先や足の指、足の裏などが少しビリビリし、モワっとした軽い麻痺のようで、気持ち悪いのです。足の先が正座でしびれたような感覚があり、ふわふわして歩くのが怖いときもありました。

「次回はもっとしびれてしまうかもしれない」と思うと、毎週点滴を打つのが怖くて仕方ありませんでした。12回打ったらどんなことになっちゃうのだろう。

 しびれの副作用は抗がん剤終了後に軽減はするようですが、確実に元に戻ると保証できるものではなく、なかには数年経っても指がしびれたままでペットボトルが開けられないとか、包丁がうまく使えないとかという人もいるそう。

 実際に病院に来ている患者さんでも、まれにそういう方がいるとのことでした。まだ先が長いのに、これからの自分の人生が不便になってしまいそうで憂鬱でした。

 当時、すでにメンタルが不調だったので、不安の感じ方もより大きくなってしまっていたのだと思います。毎週、抗がん剤を投与する前の診察で、先生に「しびれが怖い!!!!」と訴えて、打つかどうかを迷いまくり、なんとか打つと決断するような状況でした。

◆私の不安に寄り添い、策を考えてくれる先生

 担当医の先生にもしびれが強くなるのが怖いと訴え、ネットで調べたしびれに効く漢方はどうかなど、あれこれ自分なりに調べたことを先生に伝えました。

 すると先生は「今のところ副作用のしびれに効く薬というのはないとされていますが、漢方でしびれをやわらげる効果が期待されるものがあります。抗がん剤の副作用に効くという実績はないのですが、それで少し気持ちが和らぐなら飲んでみますか?」と処方してくれました。

 わたしがお世話になっていた病院はがんを直すだけではなく、患者さんのQOLを上げることも目標に掲げているので、自分の想いもきちんと聞き入れ、寄り添ってくれたので本当にありがたかったです。

 さらに同時期に、抗がん剤治療を進めていたがん友から連絡がありました。副作用で足がパンパンになり、靴が履けなくなってしまったというのです。

◆“がん友”は「つまらない」と早々に職場復帰

 入院中に出会い、闘病中の心の支えだった“がん友”は抗がん剤治療の初期までは休職していましたが、最初の抗がん剤を打って数週間してから、家にいてもつまらないからと仕事に復帰していました。

 わたしは乳がんが分かる前まで家でできる仕事をしていましたが、治療のためにそれさえも辞めてしまっていました。治療中は週に一度行くフラメンコレッスンだけで精いっぱいでした。

 ですが、そのがん友は家にいるのがつまらないと言い、抗がん剤を打ちはじめて2か月目で会社に復帰。抗がん剤点滴の日にはなんと朝の出社前に抗がん剤を打ち、そのまま仕事に行っていたようです。確かに病院ではそういう人のために早朝から抗がん剤を受けられるようになっていましたが、本当に使う人がいるとは……がん友のタフさに改めて驚いていました。

 彼女は最初から副作用もあまり怖がっていない様子でしたが「副作用でヒールが履けない!」とLINEが来たときは「ていうかヒール履いてたの!?」と思わず突っ込んでしまいました。

 わたし自身はもともと足が大きく、若いころに無理して履いたヒールで外反母趾になっていたので、主婦になってからはスニーカーしか履けない足になっていたのに、むくみの副作用に対してのクレームが「ヒールが履けない」だなんて元気がいいなぁと思いました。

◆そんななか、新たな悩み事が浮上

 さらに抗がん剤を打つと、爪の色が悪くなり、黒ずんでしまう副作用もあるのですが、彼女は「気分転換になるから」と、ラインストーンなどを盛ったコテコテの「攻めネイル」をしていました。

 ネイルがきれいだと気分が上がるのだとか。いちいち副作用にビビっているわたしとは違い、あっさり状況を受け入れ、カラっと明るいがん友に少し元気をもらいました。

 そんなタフながん友をすごいなぁと思いつつも、怖がりのわたしは恐れていたしびれの副作用だけでなく、「むくみ」まで怖くなってしまい、残りの抗がん剤がまた恐怖になってしまうという悪循環に。まったく怖がりの性格って厄介だなと思いながらも、メンタルは低空飛行のまま。

 さらに、当時のわたしは引っ越しから始まった夫婦間のトラブルに加え、もうひとつ悩み事が増えてしまっていました。それは息子の進路。息子は当時小学校4年生。3年生の冬にがんが見つかり、それから治療に必死で気にも留めていなかったのですが、のびのびと育てていた小学生の息子が、実は勉強につまずいていることに気づいてしまったのです。

 ここからまた、抗がん剤を打ちながら悩みと不安の渦に巻き込まれていきます。

<文/塩辛いか乃 監修/沢岻美奈子(沢岻美奈子女性医療クリニック院長)>

【監修者:沢岻美奈子】

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。神戸にある沢岻美奈子女性医療クリニックの院長。子宮がん検診や乳がん検診、骨粗鬆症検診まで女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く行なっている。更年期を中心にホルモンや漢方治療も行い女性のヘルスリテラシー向上のために実際の診察室の中での患者さんとのやりとりや女性医療の正しい内容をインスタグラムで毎週配信している

【塩辛いか乃】
世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。中3繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘手術・抗がん剤)。趣味はフラメンコ。ラクするための情熱は誰にも負けない効率モンスター。晩酌のお供はイオンのバーリアル。不眠症。note/Twitter:@yukaikayukako

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